■休息にもならねぇ
黄昏の館事件の騒動も納まり(突如山中に現れた烏丸の財宝に連日テレビは大盛り上がりだった)またいつもの日常が始まる。
「はい!じゃあこの問題をー…、江戸川くん!」
「3」
「正解でーす!相変わらず計算速いのね!じゃあ次の問題」
俺も相変わらず「小学1年生の江戸川コナン」として生活している。
小1の算数の問題に時間かかるかバーロォ。
「烏丸の財宝、国が所有することになるみたいね」
奥穂町の事件以来、俺が出向いた事件に報告を義務付けてきた灰原。
めんどくせぇとかうっかり言っちまって、あらじゃああなたにもう2度と解毒薬あげないから、なんて言われたらオメー、たとえ寝不足でふらふらになっていようが報告はするってもんだ。
そんなわけで今回の黄昏の館事件を報告したものだから、その後のことを灰原が口にした。
「ま、そうだろうな。烏丸の血を引く人間はもうとっくに絶えてるし、国があの黄金の館を野放しにはしねぇだろ」
そういや翌日のテレビ放送で烏丸の財宝を知ったあおいから、ヘリの中で言ってくれれば生で見れたのに!って怒られた。
いやオメーあん時声かけても絶対気づかなかっただろ、とは言わなかった。
「っ!?」
翌日、いつものように朝毛利家を出て、いつものように歩美たちと合流し、蘭もあおい、園子と合流し、じゃあ学校こっちだから、と別れた直後。
どこかから視線を感じた。
「なに?」
「…いや、気のせいだ」
でもなぁんか、見られてるような気がするんだよな…。
そういう日に限って校外写生がある。
…やっぱり誰かに見られてる気がするな。
今のケータイは高性能なんだぜ?
えぇーっと、カメラモードにして、内側カメラにして、ズームズーム、…うん?
「コナンくん何撮ってるのー?」
「え!?あ、い、いや、」
「あ!コナンくん自分の顔を撮ろうとしてますよ!」
「オメーそういうのナルトがどーしたって言うんだぜ」
「元太くん、それを言うならナルシストです!」
「やだもう元太くんてば!すぐ食べ物の話になっちゃうんだもん!」
あははー、なんて歩美ちゃんと光彦が笑ってる。
その隙にもう1度ケータイを確認するが、もうその人物はいなかった。
今チラッと画面に写った人間の顔…。
…ったく!まぁたロクなこと考えてねぇな。
「はーい!みんなー!そろそろ教室戻る準備をしてくださーい!」
「「「はーい!」」」
そして何もないまま放課後を迎えた。
さぁてどーすっかなぁ…。
正攻法じゃ出てこねぇだろうし?
うーん、と悩みながら道を歩いていると、
「あー!あおいお姉さんだ!!」
歩美ちゃんが同じく帰宅途中のあおいを発見した。
「あ、歩美ちゃん…!みんなも…」
一瞬だったが、あおいはどこか不安そうな顔をしていた。
「どうかしたの?」
「う、うん…。ちょっと…」
首のあたりを撫でながらあおいが言う。
「ちょっと、何?」
「…ちょっと、誰かに、見られてる、ような?」
…そうか。
あのおばさん、校外写生のあともしかして…。
「いつから?」
「え?」
「いつから見られてる感じするの?」
「え、えぇーっと、今朝?か、な?」
「今朝のいつ?」
「え!?えぇーっと、学校に向かう途中の、…米花駅の近くでこう…ざわっと…。それで今もちょっと、ざわっと…」
間違いねぇな。
いなくなったと思ったらあおいのところに来てたのかよ…。
ったく、しゃーねぇ人だな…。
「あ、で、でもほら気のせいってことも」
「あおい姉ちゃん」
「うん?」
「走るよ!」
「えっ!?ち、ちょっ!」
俺もさっきからまた見られているような感じがするし?
あおいの手を掴み、走り出した。
「ちょっとここにいて!」
「ハァ、ハァ…」
商店街を抜け、路地に入り込んだところで立ち止まる。
「な、なに?ハァ、ハァ…」
「…僕も今朝誰かにつけられてる感じがしたんだ」
「…えっ!?」
「僕たちの後をつけてたのは、あなただよね?おばさん?」
「えっ!?」
案の定、朝から俺をつけていた「おばさん」も走ってついてきた。
「やだわ、いつバレちゃったのかしら?」
バレねぇわけねぇだろ…。
いつもいつもまともに再会できねぇのかって言ってんのに、なんなんだよこの人は…。
チラッとあおいを見たら、私腰抜けました!って感じに(単に走りこんでへばってるだけかもしれねぇが)地面に尻ついて目を白黒させていた。
「あおいちゃん久しぶりー!!もう!相変わらず小さいんだから!元気だった!?」
「ぶはっ!?」
そしてもはや恒例、あおいと再会ハグ。
…あおい状況わかってねぇんじゃねぇか?
「………ど、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、新ちゃん、…は、今いないからあおいちゃんとコナンちゃんに会いに来たのよー!」
なぁにがコナンちゃんに会いに来たー、だ。
普通に会いに来いっての!
なんて思っていたら、あおいが俺のことを見ていた。
あぁ…。
そういやこの面子では初めてか。
「この人僕の遠い親戚のおばうぷっ!?」
「コナンちゃんは私の祖父の兄の娘のイトコの叔父の孫なのよー!」
「はぁ…」
おばさんて言う前に母さんから口を手で塞がれた(若干爪を立てて)
…いてーっての!
「ただ2人に声をかけるのもつまらないし、ちょっと遠くから2人の日常を見てみよー!って思って後つけてたんだけど、コナンちゃんはともかく、あおいちゃんも感が鋭いから驚いちゃった!」
「や、た、たまたまですよ!」
「朝の段階でバレるかと思っちゃったじゃない!」
きゃは☆って感じに笑う母さん。
…この人いくつだよ…。
「今回は1人で来たんですか?優作さんは?」
「優作も一緒に来たんだけどね。フラッとどこかに行っちゃったのよー!」
「えぇ!?それは大変ですね」
「もう親子揃ってふらふらして嫌よねぇ?そんなふらふらしてたらあおいちゃんも他の男の子に行っちゃうわよねー?」
「「えっ!?」」
俺別にふらふらなんかしてねーしっ!
縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇよっ!!
「あ!それであおいちゃんもコナンちゃんも今日暇?」
「今日、です、か…?」
「そう!暇?」
「暇、です、けど…?」
「じゃー一緒にお夕飯食べに行きましょう!!」
…この面子で?
なんかすげぇ微妙なメンバーな気がするのは俺だけか?
…んなこと母さんが気にするわけねぇしなぁ…。
じゃあまぁ、蘭にメールでメシいらねぇって言っておかねぇと…。
いちいち説明すんのめんどくせぇし博士んちで食べてることにすっか…。
「それで?」
「うん?」
俺がケータイを閉じるて尋ねると、すでににっこにこな母さんが俺を見てきた。
「食べに行くのはいいけどあおい姉ちゃん制服なんだけど」
「あらそんなの買いに行けばいいじゃない!」
「えっ!?い、いいですよ!そんな夕飯食べに行くために洋服なんて」
「大丈夫よー!可愛いの見繕ってあげるから!コナンちゃんも服買いましょうねー!」
俺も着替えんのか…。
めんどくせぇなぁ、と思いながらも、杯戸デパートに行く。
「そう言えばアフロディーテ号沈没事件大変だったわね!アメリカでも大々的に報道されたわよ!大丈夫だった?」
大丈夫だった?なんてよっく言うぜ。
あおいがぐったりしてた報道されたから救助されたその日のうちにうるせぇくらい俺のケータイ鳴らして安否確認してきたくせに。
こっちはおかげで睡眠妨害されたっての!
「あ、はい。コナンくんと小五郎おじさんが助けてくれたので」
「へぇ、そうなの!コナンちゃんが!でも私が見たのはあおいちゃんがコナンちゃんを助けてるシーンよ!」
「あ、あれは助けた、って言うか、」
「海に落ちる寸前のところをあおいちゃんがキャッチしてもう!新ちゃんとラブラブなんだから!って思っ、ちゃっ、て、」
バッ!何言ってんだよっ!!
「僕なんだか喉渇いたからジュース飲みたいなぁ!買ってくれるよね!?おばさん!」
「あ、あぁー!そうね!ジュースよね!買いましょう、買いましょう!!」
今かなりはっきり「新一」の名前出したぞあの人!
とりあえずややこしくなる前に本人遠ざけたけど…。
き、気づいて、ねぇ、よ、な…?
「そ、そうだ!」
「うん?」
ぽん!とずいぶんと古典的に手の平を打って良いこと思いついた!みたいな顔したあおい。
俺の焦りとは裏腹に、
「また、コナンくんに服、選んでもらおうかな?」
実に関係のない話題を提供してくれた。
助かった、って思いと全く関係ない、どこか嬉しいような、そういう感情が半々に湧いていた。
「いいよ」
「…良かった!」
そう言って笑うあおいとともに、母さんの後を追った。
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bkm