キミのおこした奇跡side S


≫Clap ≫Top

集められた名探偵


ただの高校生


「おや?あおいさん寝てしまったんですか?」


警視庁のヘリポートに着く頃、そんな気はしていたが、あおいは俺を抱きしめたまま眠りについたらしかった。


「まぁ…アレだけ泣き叫んだら疲れもするでしょうね」
「…困りましたね。一応我々も事情聴取を受けなければいけないですし、すぐに送り届けるわけにはいかない…」
「んじゃあまぁ、警視庁内の医務室にでも寝かさせてもらえばいいんじゃねぇか?」
「あぁ、そうですね。そうさせてもらいましょう」


茂木さんの言葉に白馬も同意し、到着後あおいは医務室に連れて行かれることになった。
…でもちょっと待て。
誰が連れて行く気だ?
白馬か?
白馬があおいを抱き上げて連れて行くのか?
それはそれでなぁんか納得が


「ご苦労様です!白馬警視総監からの直々の命を承りお迎えに上がりました。捜査一課目暮です」


ヘリポートに到着し、ドアが開いたと思ったら、目暮警部、白鳥刑事、高木刑事が敬礼して出迎えてくれた。
何事かと思ったが、そういやコイツ、警視総監の息子なんだっけ…。
縦社会は大変だな…。


「あれ?コナンくん?」


俺を見つけた高木刑事が驚いた顔してこっちを見てきた。
…そうだ!


「ねぇ、高木刑事。白馬の兄ちゃんがあおい姉ちゃんを医務室で寝かさせてもらおうって言ってたんだけど、僕じゃ連れていけないから高木刑事連れて行ってくれない?」


そう。
俺が言ったんじゃなく「白馬」がそう言った。
それを受け高木刑事がチラッと目暮警部に視線を送る。


「うむ。連れて行ってくれ。…他の皆さんは我々と共に来ていただきます。簡単に聴取をさせていただくだけですので」


先に千間さんの身柄を確保した白鳥刑事の後を、目暮警部、白馬、茂木さん、槍田さんの順で着いて行った。


「じゃあ行こうか」


寝たことで腕の力が抜け、簡単にあおいから離れることが出来た俺は、高木刑事にあおいを任せ、ヘリから降りた。
…そういや誰かオッチャンがスタンドにいるって言ってくれたのかな?
まぁさすがに放置はしねぇだろうが、アイツが着てたあの服、オッチャンのだろうし、風邪引いてなきゃいいけど。
そんなこと考えながら医務室に行き、医師に簡単に事情を説明して、ベットを貸してもらった。


「ここでしばらく休んでいるといいよ。このまま何もなかったら、僕もそろそろ仕事が終わるし家まで送っていくから」


そう言って微笑みかける高木刑事。
じゃあ仕事に戻るから、と言った割りに動かない高木刑事をチラッと見ると、寝ているあおいを見て微かに笑っていた。


「…高木刑事?」
「あぁ、ごめんごめん」


苦笑いしながら俺を見る高木刑事。
…なんだぁ?


「どうかしたの?」
「いやどうした、ってほどじゃないんだけど…」
「うん?」
「…コナンくんも工藤くんは知ってるんだよね?」
「え?」


いきなり「俺」の話題で、声が裏返ってしまった。


「し、新一兄ちゃんが何?」
「そんな大したことじゃないんだけど、以前工藤くんにあることを相談された時があってね」


高木刑事は再びあおいの顔を見つめて目を細めた。


「その時僕なりにアドバイスしたんだけど、あの後工藤くんとはパッタリ会わなくなったからその後どうなったのかと気になっていたんだ」


それはたぶん、


−君は頭が良くて、たくさんの言葉を知っている。でも必要なことは言ってあげたかい?その彼女に君が好きだって言ってあげたのかい?−


あの時のこと…。


「でも先日久しぶりに、高速道路の事件現場っていう特殊な状況下だったけど工藤くんに会ってね」
「うん」
「彼を見てたら、あぁ、あの時の話はあおいさんのことだったんだろうなと思って…」


そう言って高木刑事は笑う。


「どうなったかはわからないけど、あの感じだと上手く言ったのかな?って思ってさ」
「…うん」
「彼は真剣に悩んでたし、デリケートなことだろうから、彼が言ってくるまでは聞かないけど、あの日2人を見てたら、あの時の工藤くんを思い出してしまってね」
「…」
「高校生探偵も、やっぱりただの高校生なんだと再認識したとでも言うのかな?現場でしか工藤くんを知らないから、あおいさんといる時はこういう顔もするのかと、なんだか嬉しくなってさ」
「嬉しい?」
「そりゃあ嬉しいよ。工藤くんのような『完璧な男』も好きな子の前では僕らと変わらないただの男だ。それがわかった瞬間だったからね」
「…」
「あおいさんの寝顔を見たらその時のことを思い出してしまって、工藤くん元気かなぁなんて考えこんじゃってね」


あはは、と笑う高木刑事。
…ほんっと、良い兄貴だよ、あんたは。


「じゃあ僕は仕事に戻るから」
「高木刑事」
「なんだい?」
「…感謝してたよ、新一兄ちゃん」
「え?」
「『素直になろうって思ったのは、高木刑事のお陰』って、感謝してたよ」
「…そうか!じゃあ次に会った時はどうなったか聞かせてもらえるのかな?」
「うん、きっとね」
「それは楽しみだな!」


そう言って高木刑事は去っていった。
チラッと寝ているあおいを見てため息が出た。
気持ち良さそうに寝やがって…。


−工藤くんのような『完璧な男』も好きな子の前では僕らと変わらないただの男だ−


バーロォ、俺はただの高校生だよ。
寝てるあおいに顔を近づける。
本人に確認したわけじゃねぇけど、俺がいた位置からは去っていくキッドに頬にキスされてたように見えたし!
消毒だ、消毒!
なんて自分に言い聞かせるものの、ほんとはただそうしたいだけなんだってことは、誰よりも自分が知っていた。


「…しん、ちゃん…」
「え?」
「…」


名前を呼ばれてあおいを見ると、依然気持ち良さそうな寝息を立てていて。
…バーロォ、


「寝言で名前呼んでんじゃねぇよ、恥ずかしい奴」


なんて言いつつも、もう1度顔を、今度はクチビルに近づけた。


「ぷっ…」


後少しで触れる、って思ったところで、あおいが笑った。
起きてんのかと、体を離すと、やっぱり笑いながら寝ている。
夢でも見てんのか、って思った時だった。


「しんちゃんてば…」


あおいが再び寝言を言った。


「ハンバーグ鼻に詰めたら、うどん食べられるわけないじゃない」


…どういう夢見てんだ、オメーはっ!
しかも今の流れからハンバーグ鼻に詰めてんのは俺か!?
俺が詰めてんのかっ!!?
あり得ねぇだろっ!!


「もう…おバカさんなんだから」
「バカはオメーだっ!!」
「ふぇ?」


あおいの発言に思わずチョップしてしまったため、その衝撃であおいが目を覚ました。


「あ、あれ?ここ…?」
「起きたら帰るよ」
「え?あ、うん?」


そしてイマイチ何が起こったのか理解していないあおいを引きつれ、警視庁を後にした。

.

prev next


bkm

BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
×
- ナノ -