■安定剤
「でもバァサンよ」
ヘリにはまず千間さんが前列の奥に座り、そしたら何故かあおいが千間さんの隣に座り。
茂木さん、俺、槍田さん、メイドさんの順で後列に座り、残りの前列の席にオッチャンが乗り、それを確認後、白馬がヘリに乗り込みドアを閉めた。
「俺達を心理的に追い詰めるのは、大上のダンナの計画だったんだろ?何で奴を殺した後、死んだフリなんかしたんだよ?」
茂木さんの質問に、窓の外を眺めながら千間さんは口を開いた。
「どうしても解いてほしかったんだよ。父が私に残したあの暗号を。私が生きてるうちに、あなたたちのような名探偵が集まる機会なんてもう2度とないと思ったから」
1人余計な奴も呼んだみてぇだけどな。
「どうやら、烏丸蓮耶にとり憑かれていたのは私の方だったのかもしれないね」
そう言った直後、千間さんがドアに手をかけた。
「だ、だめっ!!」
「っ!?」
「えっ!!?ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「どけっ!!」
一瞬の出来事だった。
ドアに手をかけ、一気にドアを開け身を乗り出そうとした千間さん。
その千間さんの肩を掴もうとすごい勢いで窓側に行ったあおい。
そのあおいの勢いに怯んだ千間さんが身を逸らし、その反動であおいは何もない空間に突進し身を落とした。
その直後千間さんを押し退け「オッチャン」がヘリから飛び出した。
そして次の瞬間、大空に白い翼の悪党がその羽を広げた。
…………くそっ!!!
この位置から麻酔銃で狙えば仮に当たってもあおいも危なくなる。
このままあおいを連れて逃げる気か!?
そう思った時だった。
「なっ!!?」
「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「また逢いましょう!お嬢さん!」
あおいの頬にキスした、と思った直後、手を離し颯爽と飛び去っていった。
空中に残されたあおいはまるでバンジージャンプのゴムのように、ヘリと空中とを行ったり来たりさせられた。
「逃げられちまったな」
「ぎゃーーーーーーっ!!!」
「まさかあそこであおいさんが落ちてしまうとは予想外でしたから仕方ないですよ」
「いーーーやーーーーーっ!!!!」
「おいバァサン、キッドを逃がそうとわざと飛び降りようとしただろ?」
「たーーーすーーーけーーてーーーーっ!!!」
「なんのことだい?」
「いーーーーやーーーーーっ!!!」
「それよりも凄いわね、烏丸蓮耶の財宝…」
「ぎゃーーーーーーっ!!!!」
「『黄昏の館』の由来とでも言いましょうか…。館全体が黄金だったとは…」
「だーーーれーーーかーーーーーっ!!!」
「ねぇ…」
「うん?なんですコナンくん?」
「そろそろ引き上げてあげようよ…」
キッドが逃げたことや突如現れた烏丸蓮耶の本当の財宝に思考を取られ、誰もこの悲鳴に気づかねぇのか、おい。
「じゃあ僕と茂木さんで引っ張りますから」
「しっかしアイツいつの間にこんなんつけていやがったんだ?」
こんなん、と言って茂木さんは機内にいつの間にか繋がれていたロープを手に持つ。
…その手の早さが、油断ならねぇんじゃねぇか。
「いよっ、っと、」
「ぎゃーーーーーっ!!」
「もう大丈夫ですよ!あおいさん!」
「おーーーろーーーしーーーてーーーーっ!!!」
「あら、下ろしていいの?ならこのロープ切って落下してもらうけど?」
そう言ってどっから取り出したのか槍田さんはナイフをちらつかせた。
黄昏色の空に、そのナイフはキラリと光った。
「…いっ、いやぁぁぁぁっ!!あげてっ!!すぐあげてぇっ!!!!」
まぁ、そうだよな。
さらにパニックになったあおいを、なんとか無事ヘリに回収することができた。
「よぅ、嬢ちゃん。どうだった?怪盗キッドとの空中ランデブーは!」
槍田さんからナイフを受け取り、あおいの体にぐるぐる巻きにされたロープを切っている茂木さんが聞くが、
「うわぁ!?」
それどころじゃねぇだろ、おい。
なんて思った直後、ロープから解放されたあおいが抱きついてきた。
いやそれは別にいいんだ。
「みんな酷いっ!!私ほんとに今日死にかけ@$&=#+*”%」
後半何喋ってんのかわかんねぇ、猫語を叫んでるあおい。
そうなるのも仕方ない。
それもいいんだ。
問題は今のこの現状!
ロープから解放された途端、俺の頭にしがみついてきたあおい。
そして今のこの息苦しさ、頬に感じる弾力あるもの。
俺今、真正面から挟まれてねぇか!?
鬼亀島の時なんか比べものにならねぇほど、鼻の先はもういわゆる「谷間」ってやっつで、そのくらいあおいの体に密着してて、ほんとに真正面から挟まれてんだけどっ!!
え!?
これ苦しいから離してくれって言うべきなのか!?
いやでも実際問題息「苦しい」だけであって息「出来ない」わけじゃねぇからほら、そ、それに今下手に動くとそれこそ変なとこ触ってお前だってそれはさすがにいくらなんでもこんなところで
「とにかくもう大丈夫ですから落ち着いて、コナンくんを離して席に座ってください」
「いやぁ!!」
「うぷっ!?」
「そんなこ$”%&+&@!!」
白馬が俺から離れて席に座ることを薦めた途端、さらに腕の力を強めたあおい。
そうなると必然的にさらに顔面密着していくわけで。
現状はほんとに息苦しい。
ぎりぎり呼吸できる隙間があるくらいだ。
でもすでに尋常じゃないくらい熱い体と精神的にいろんな意味でヤバくなってる俺は自分から「離してくれ」なんて口が裂けても言えなかった。
「じゃあもうそのボウヤ抱っこしたまま座ってもらうしかないんじゃない?」
槍田さんのその言葉に、
「今日は美味しいとこ全部ボウズが持ってったな!」
茂木さんが笑った気がした。
そして結局、パニックになったあおいの精神安定剤とでも言うかのように、そのまま抱っこされ(しかも何故か向かい合った状態で座らされてる。顔は谷間からは解放されたけど)警視庁ヘリポートへと向かった。
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bkm