キミのおこした奇跡side S


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集められた名探偵


No side


「通常車に爆弾を仕掛けた人物が、自殺以外の目的でその車に乗るのは考えにくいが、例外はある」


俺が食堂に行くと、一足先に辿り着いていた千間さんが食堂前で立ちつくしていた。


「その爆発で自分が爆死したかの様にカムフラージュするケースだ。…そうだよな?千間探偵」


現れた俺に心底驚いた顔をした千間さん。
…あんたは俺を「探偵」として見てもいなかったんだ。
そういう反応が妥当だ。


「あなたは爆発の直前に車から抜け出した。茂みに隠れ、こっそりこの館に戻って来たあなたは、館内に取り付けた隠しカメラで俺たちを何処かの部屋で監視してたんだ」
「馬鹿ねえ。私は間一髪の所で爆弾に気付き、爆発から逃れてたった今この館に辿り着いたんだよ」


ま、しらを切るのは当然だな。


「それにあの時、車に乗る人はコインを投げて決めたんじゃなかったのかい?」
「投げる前からあなたが車に乗るのは決まってたよ。最初からコインを表にして左手の甲に乗せてたんだから。そのコインの上から別のコインを持った右手をかぶせて隠し、はじいたコインをキャッチした振りをして地面に落とし、最初に甲に乗せたコインを見せれば何回やっても表だ。大上さんの紅茶を調べる為に出した十円玉が手元にあった貴女なら、これ位出来るよな?…『神が見捨てし仔の幻影』さん?」


俺の言葉に、千間さんの目つきが変わった。


「…大上さんを殺した晩餐会の主催者が、私だと言うのかい?だったら教えておくれよ。私がこの食堂でどうやって大上さんだけに青酸カリを飲ませ、そしてどうしてその時間さえも予測する事が出来たかを。彼の紅茶には毒が入って無かったし、私の席と彼の席の間には毛利さんがいた。それにあの席はジャンケンをして適当に決めた席じゃ無かったかい?」


予想通りの反撃。
だがもう謎は解けてるんだぜ?全て、な。


「席順なんて関係無いよ。あなたは前もって全員のティーカップに青酸カリを塗っていたんだからな。塗った場所はカップの取っ手の繋ぎ目の上さ。そこは大上さんがティーカップを持つ時、右手の親指の先が触れる位置であり、彼が考え事をする時に思わず噛んでしまう爪の側でもある。彼が爪を噛んだのは、あなたが声を変えて録音したテープが宝の隠し場所への暗号を発表した直後。メイドに指示して紅茶を出す時間をその少し前にしておけば、暗号を聞いて考え込み、爪を噛む大上さんだけを時間通りに毒殺出来るって訳さ」
「でもあの時はみんな、用心の為に一度食器類を拭いてから使ってたはず」
「確かに…。名探偵として名の通った大上さんにしては、不注意過ぎるけど。彼がこの晩餐会を企画したあなたの相棒だったとしたら、自分が狙われる訳無いと高を括ってそれを怠ったのも無理は無い」
「…」
「メイドさんが朝早く館に来た時、既にベンツが停まってたと聞いた時から疑ってたよ。こんな山奥の館に、ベンツを放置するには、ベンツに乗って来る人間と、別の車でその人を迎えに来る共犯者が必要だからね。因みにあなたがわざわざ待ち伏せて毛利探偵の車に乗ったのは、煙草嫌いなのを印象付けて食堂で死ぬのを大上さんだけにする為。指先に青酸カリが付いた状態で煙草を掴み、口にくわえれば…、あの世行きだ。あのメイドさんを選んだのも、爪を噛む癖を持っているのを面接の部屋の隠しカメラで知り、同じ手口でいつでも殺せると思ったから。そう、あなたは共犯者の大上さんを殺し、自分も誰かに殺された様に見せかけ、ここに招いた探偵達を心理的に追い詰めてあの暗号を解読させ、隠された宝が見付かれば皆殺しにする気だったんだ。40年前、あの大富豪烏丸蓮耶がやったようにな!ピアノに書かれた血文字の最後に名前があったよ、千間恭介って。…あれは多分、」
「私の父の名前だよ…」


それまで押し黙っていた千間さんは、観念したかのように「真相」を話し始めた。
40年前にこの館に隠された財宝を見つけるために呼ばれた考古学者・千間恭介。
そしてなかなか見つからない財宝に業を煮やした烏丸蓮耶が起こした血の惨劇。
そのことを大上さんに話したことが、今回の事件の始まり。
…罪を全て、キッドに被せるよう仕組んだ。
財宝を手に入れるために…。


「じゃあ、あのメイドさんを選んだのって、」
「大上さんだよ。自分の癖からメイドの殺害方法を思い付いたと喜んでいたけど。まさか同じ手口で自分が殺されると思って無かったろうねえ…」
「でもどうして大上さんを?」
「…宝の在り処が分かったら、彼は私も含めて皆殺しにする気だと気付いたからだよ。皆の部屋に仕込んだ拳銃による同士討ちに見せかけてね。烏丸に取り憑かれた様なあの男を止めて、探偵達に暗号解読を続行させるには、ああするしか無かったけど…。結果は40年前と同じ。暗号は解けず、惨劇を繰り返しただけだったねえ…」


そう言って肩を落とし俯いた千間さん。
…いいや、それは違う。


「あなたのお父さんは暗号を解いてたみたいだぜ?」
「え?」


暖炉によじ登り、時計を見遣る。


「変だと思わないか?こんな大きな館なのに、時計はこの食堂にしか無いんだぜ?そう。暗号の頭の『二人の旅人が天を仰いだ夜』とは、時計の長針と短針が揃って真上を指す午前0時!先ずはそれに従って針を0時に戻して、と…」


そう言いながら、時計の長針を動かす。


「そして続きの暗号を解くカギは、あなたのお父さんが血文字で書き遺した『切り札』。 切り札とは英語でトランプの事。暗号の中の王と王妃と兵士はトランプのキング、クィーン、ジャック。そして宝はダイヤ、聖杯はハート、剣はスペードを意味してるんだ!つまり宝と王は、ダイヤのキング、聖杯と王妃はハートのクィーン、剣と兵士はスペードのジャックってわけ!この館にあるトランプの、それらの絵札の顔の向きに従って、0時の状態から時計の針を、左に13、…左に12、…右に11と動かすと、」


その瞬間、


「うわっ!?」


壁に掛けてあった時計は外れ、床に落ちた。
暖炉から降り、時計を詳しく調べてみる。
すると、


「塗装がはがれて、内側から金が…!そ、それにこの重さ…。そうか!この時計、中身は純金なんだ!」
「…やれやれ…。たったそんなもののために父が命を落としたとは、現実なんてこんなものかね…」


さっき以上の落胆を隠せない千間さん。
大勢の命の対価にしては、確かに…。
でもこれで、この館の謎は解けたんだ。


「さあ約束だぜ、千間さん。この館からの脱出方法を教えてくれ!」
「そんな物、最初からありはしないよ。私は此処で果てるつもりだったのだから。大上さんは、食事の後でこっそり教えるという私の言葉を信じていたようだけどね…」
「…フン、だろーと思ったぜ!千間のばぁさんよ」
「えっ!?」


予定通り、ドアの向こうで聞いていた探偵たちが食堂に乗り込んできた。

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bkm

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