キミのおこした奇跡side S


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集められた名探偵


始まりの死


「闇夜に翻るその白き衣を目にした人々はこう叫ぶ。…怪盗キッド!」


白馬がその名を口にした瞬間、奴が持つ独特のあの、凛とした冷涼な気配が部屋を覆った。
…正直な奴だ。
一瞬でその気配を消しやがったがな…。
俺の推理が正しければ、恐らく奴は…。
何考えてんのか知らねぇが、欺き通せると思うなよ?


「やっと来たわね」


その時食堂の扉が開いた。


「彼が言う最後の晩餐が」
「オードブルのフォアグラのマーブル仕立てトリュフ入りジュレ添えでございます。どうぞお召し上がりください」


そう言いテーブルサービスをしていくメイド。
その時千間さんが問い質した。


「ねえ、メイドさん?もしかして料理をテーブルに置く順番も御主人様から言い付けられていやしなかったかい?」
「あ、はい。白馬様から時計回りに、と」
「…いやね。ゲームは始まったばかりなのに、最後の晩餐と言うのが私にはちょっと腑に落ちなくてねぇ…」


…まぁ、一理あるよな。


「ハハハ、毒なんか入っちゃおらんよ!料理はワシが作ったのだから!」
「でも、それを口に運ぶフォークやナイフやスプーン。それにワイングラスやティーカップも予め食卓に置かれていましたし」


白馬の言葉に思わず絶句する大上さん。
その大上さん構わず、白馬は話を続けた。


「僕達はこの札に従って席に着きました。まあ、彼が殺人を犯すとは思いませんが、僕達の力量を試す笑えないジョークを仕掛けている可能性はあります。自分のハンカチでグラスやフォーク等を拭いてから食べた方が賢明でしょう」
「違ぇねーな。奴のペースで事が進むのも気にくわねーし!何ならジャンケンでもして席替えするか?」
「し、しかしそれで運悪く毒に当たったら…!」
「フン!そんときゃーそれだけの人生だったと、棺桶の中で泣くんだな!」


その時、チラッと隣の席に目をやれば、あおいは私どうしよう!って顔をして、目を泳がせていた。


「大丈夫だよ」
「え?」
「あおい姉ちゃんは僕の隣に座れるようにするから」
「…うん」


そしてじゃんけんして、席替えしたが、あおいは俺の隣で落ち着いた。
…て、言うのも「あぁ、そうですね。女性にいつまでも不安を抱かせるのはよくない」とかなんとか白馬のヤローが抜かして俺の隣で落ち着くなら、って話で俺の隣の席になったんだが。
…あんなヤローのどこがカッコいいんだよ。


「普通に美味しいよね…」
「そうだね」


なんて思っていたが、出されたものはちょっとしたレストランで出せるようなもので。
食欲がないと言ってたわりに、あおいも出されたものに手をつけぺロッと食べていた。
まぁ、食えるのはいいことだ。


「どうかね諸君。私が用意した最後の晩餐の味は?」


再び、マネキンから声が響いた。
その声に茂木さんが答える。


「そぉら、おいでなすった」
「では、そろそろお話ししよう。私が何故大枚をはたいて手に入れたこの館をゲームの舞台にしたかを!」


そしてここに呼ばれた経緯が語られる。
食器類に刻まれた、烏丸蓮耶の紋章。
かつて起きたマリファナが原因の殺人事件。
そして彼が残した財宝を見つけるために集められた俺たち…。


「まあ、闇雲にこの広い館内を捜させるのは酷だろうから、ここで一つヒントを与えよう。『二人の旅人が天を仰いだ夜 悪魔が城に降臨し、王は宝を抱えて逃げ惑い 王妃は聖杯に涙を溜めて許しを乞い 兵士は剣を自らの血で染めて果てた』」


その暗号の内容は、さっきこのマネキンから聞いた話。


「そ、それはさっきの…」
「まさにこれからこの館で始まる、命懸けの知恵比べに相応しい名文句だと思わないかね?」
「馬鹿ね。殺し合いって言うのは相手もそうだけど、こっちもその気にならなきゃ…」


その槍田さんの声に、答えるようにマネキンは言う。


「無論、このゲームから降りる事は不可能だ。何故なら君達は、私が唱えた魔術にもう既に掛かってしまっているのだから」


魔術だと?
何を言って…。


「さあ、40年前の惨劇と同じように、君達の中の誰かが悲鳴を上げたら知恵比べの始まりだ。いいかね?財宝を見付けた方は中央の塔の四階の部屋のパソコンに財宝の在り処を入力するのだ。約束通り、財宝の半分と此処からの脱出方法をお教えしよう」


そしてその直後、


「うわぁぁぁぁ!!!」


茂木さんの悲鳴が辺りに響いた。


「も、茂木さん!?」
「う、あぁぁぁぁぁぁ!!!…な、なーんてな」
「…全く、悪いおじさんね」


…趣味悪ぃな、このオッサン。


「悪い悪い。悪いついでに俺は降りるぜ?宝探しには興味が無いんでね」
「だ、だが此処からどうやって…!」
「心配いらねぇよ!此処は海の真ん中の離れ小島じゃねえ。山ん中を駆けずり廻りゃ、なんとかなるだろ。じゃ、あばよ!探偵諸君」


そうして片手を上げて茂木さんが去っていこうとした瞬間、


ガターン!


「ぐぅっ…!?」


イスが倒れる音と同時に大上さんが声にもならないような、悲鳴を上げた。


「ぐ、あ、ああああ!!?」
「おい、おっさんよ。2度目はもうウケねーぜ?」


…いいや、違う!
これは…!!


「22時34分51秒、心肺停止確認。この状況下では蘇生は不可能でしょう」


白馬が大上さんの死亡を告げる。


「唇の色調が紫色に変化するチアノーゼが見られないわ。それにこの青酸ガス特有のアーモンド臭」


真っ先に検証を始めたのは元検視官の槍田さん。


「じゃあ、さっきオッサンが飲んでた紅茶に青酸カリが!?」
「うんにゃ…。酸化還元反応は無いよ。どうやら原因はこの紅茶じゃ無いみたいだねえ」
「だったら一体どうやって!?」


…うん?
あの爪…。
そう、か…。
それなら大上さん殺害が可能だ。


「てめぇ、ふざけるな!!」


茂木さんがマネキンに殴りかかった時、タイマー付きカセットテープがその首から現れた。


「カセットテープ?」
「タイマーにも繋がってるみたいねえ」
「…メイドさん!食事を此処に運ぶ時間も決められていたんですか!?」
「は、はい…。オードブル、スープ、メイン、デザートと細かく…」
「じゃあ犯人は私達の様子を見ながら喋っていたんじゃ無く…」
「テープの声を流してただけって訳ね」


メイドの言葉を聞いて、オッチャンが口を開く。
そしてその後を槍田さんが継いだ。


「でも、これで2つ分かったね。犯人は最初から、大上さんを狙ってたって事と。もしかしたら犯人は、僕達の中に居るかも知れないって事が」


そう。
恐らく犯人は「怪盗キッド」ではないだろう。
奴の名を語るこの中の誰かの可能性が高い。
その時近くにいたあおいを見たら、大上さんの遺体を見てただ黙って泣いていた。

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bkm

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