キミのおこした奇跡side S


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幸せになるために


足掻く足掻く


「蘭姉ちゃーん、お風呂あいたよー」
「はーい!」


探偵事務所に戻って、一息ついた頃。
服部たちを送ったオッチャンが帰って来た。


「おぅ、今帰ったぞ」
「あ!お父さんお帰りなさい。ちょうど今コナンくんがお風呂あがったところだけど、入る?」
「おー。…そういやお前もう風邪は大丈夫なのか?」


そう言ってオッチャンが俺の顔を覗き込む。
…やっべ、俺そういや、


「え?風邪って?」
「は?コイツ1人先に帰ったじゃねぇか」


「俺」先にこっちに戻ってきたことになってんだった…。


「コナンくん帰ってきてたの?」
「は?お前何言って、」
「あ、あー!僕ね、阿笠博士のお家にお邪魔してたって平次兄ちゃんに聞かなかった?ほら、蘭姉ちゃん大事な試合でしょ?移しちゃいけない、って思って!」
「…そうだったの?そんなの気にしなくていいのに!わざわざごめんね、ありがとう!」
「んじゃあ、後で礼言いに行かねぇとだな」
「そうだね。風邪引いたコナンくん見てくれたんだもん」


どうにか納得してくれたようだった。
…危ねぇ危ねぇ。


「おー、そういやあの探偵ボウズに会ったぞ」
「え?探偵ボウズ、って…新一来たの!?」


一難去ってまた一難。
頼むから「俺」の話題を出さないでくれ…。


「あいっかわらずスカした感じがあの小説家先生とそっくりでくそ生意気なガキだったけどな」


ほっといてくれ…。


「新一、あおいと会えた?」
「お?おー、それがあの2人なんかあったみてぇだぞ?」
「「えっ!?」」


このオヤジ何言う気だよ!!?


「いや実はな、あおいが熱でふらふらな状態で1人森ん中に入っちまってよ。俺たちも探しに行ったんだが見つからなくてな」
「そ、それで!?」
「なんでも足滑らせて気失ってたみたいで、あの探偵ボウズが近くの山小屋で介抱してやったんだと」
「新一が…。そっか、なら良かった…」
「ただなぁ、」
「うん?」
「俺の推理によると、あのガキぜってぇなんかしたぞ」
「何か、ってなに?」
「あ!蘭姉ちゃんそう言えば明日さぁ」
「ちょっとコナンくん黙ってて!」
「はい…」
「それで?何かってなに?」


蘭の言葉に、オッチャンがグラスに入ってたビールをクイッと飲み干して続けた。


「お前よく考えてみろ!16〜7の男が久しぶりに好きな女と会ってすることって言ったら1つしかねぇだろ!」
「…新一があおいにそういうことしたって言うの?」
「ま、まさかー!新一兄ちゃんはそんなことしないでしょ!」
「お前はガキだからわかんねぇだろうが、思春期の男なんて所詮はどいつもこいつも考えてることなんて同じなんだよ!あおいが気失ってるのいいことにあのガキ最低でもぶちゅーっと1回くらいやってるぞ!パンツも見たらしいしな!」


へっ!といやらしいそうに笑うオッチャンの前で、脳裏に浮かぶのは、熱で朦朧としていたあおいにキスし続けた自分の姿なわけで。


「アイツは見るからにむっつりタイプだからもっといろいろしてるはずだ!」


反論できない自分がいた。


「むっつりってお父さんに言われたくないでしょ」
「バカヤロー!俺は明るいオープンスケベで、あぁいうむっつりとはわけが違うんだよっ!!」
「なんの話よ」


苦笑いする蘭とオッチャンの前に、ただ黙って茶を飲むしかなかった。


「ん?なんだお前。顔が赤ぇぞ?熱でもあんのか?」
「やだ、ほんとにコナンくん顔赤いよ?大丈夫」
「……ぼ、僕もう寝よう、かな」
「そうだね。明日学校あるし、早めに寝た方がいいよ」
「うん…。おやすみなさい…」


そう言って自室(と言ってもオッチャンと同じ部屋)に滑り込んだ。
……………信じらんねぇ!
あのオヤジに行動見抜かれてんじゃねぇかっ!!
よりにもよってあのオヤジにっ!!
自分の中で羞恥と自責の念に駆られながらその日は眠りについた。


「で?オメー熱は?」


翌日の放課後、あおいのケータイに電話した。
そこまで考えねぇとは思うが、「私の手振り解いて捨ててった!工藤くん酷い!」なんて思われても困るし。
実際は手離れねぇから、服着るのも大変だったってのに!


「…大丈夫、だよ」
「の、わりに元気ねぇみたいだけど?」


大丈夫、と言うわりになんか声に張りがないと言うか…。
そんな気がした。
その後どーでもいいことを話していたら、脈略なくあおいが


「みんなが幸せになる方法って、ないのかな?」


なんて言ってきた。
…コイツ、奥穂町の事件のこと、引きずってんのか?


「ねぇんじゃねぇの?」
「…夢がなさすぎ!」
「みんな一緒に幸せになりましょーなんてどこの偽善者だ、おい」
「…そこまで言わなくても、」
「みんなが全く同じに幸せになることはあり得ねぇだろ」
「もうわかったからいいって、」
「だから自分や、自分の周りにいる人間は幸せになりてぇ、なってもらいてぇって足掻くんだろーが」
「…そっか…」
「おー」


もう1度小さく「そっか」と呟いたあおい。
…まぁ、確かにあの奥穂町の事件は、いろんな意味で強烈に心に残る事件ではある、よな…。


「工ど」


なんて俺が考えていたらあおいが何かを言いかけた。


「なんか言ったか?」


その問いにしばらく沈黙が続いて、なんだぁ?と思った時、


「し、新ちゃん、は、」


躊躇いがちに俺の名前を呼ぶあおいの声が耳に響いた。
そう呼ぶんじゃねぇのか?って聞いたのは確かに俺。


「おー、なに?」


でも実際呼ばれると、聞きなれないせいか、なんというか…むず痒い気がする。


「幸せになるために、足掻いてる?」
「…バーロォ、俺は足掻いてる真っ只中だよ」


1日も早く、元の姿に戻るために。
1日も早く、「その場所」に帰るために。
…いろいろしてっるっつーの!


「新ちゃん」
「んー?」
「待ってるね」
「え?」


不意に聞こえた言葉。
それは俺が、寝ているあおいに言った言葉。


−その時まで、待っててくれ−


「私、ずっと待ってる」
「………おぅ」


あおいのその返事よりも、あの時のことを指して言ってるんじゃねぇかって方が頭の中を占めていて…。
アイツあの時寝てたんじゃねぇのか?
え、寝てなかった?
え!?
じ、じゃああの最後の言葉も聞いてた、とか!?


−好きだよ、あおい−


いや、どうせ本人に言うつもりだから別にいいっちゃいいんだけど、でも待て待て待て、アレを聞いてたのか聞いてなかったのかでまた随分と今の言葉の重みが変わってこねぇか?
え!?寝てたのか!?起きてたのか!?
あおいと電話を終えた後も、出るはずのない答えを、1人悶々と考え込んでいた。

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bkm

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