キミのおこした奇跡side S


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殺人犯、工藤新一


Everlasting Luv


「…」
「ハァ…ハァッ…」


俺の手を掴み、ただ黙って見つめてくるあおい。
ヤバイヤバイヤバイ。
今、コイツの前で「コナン」に戻ったら…!
そう思った時だった。


ドサッ


あおいが俺の方に倒れこんだ。
…後ろには、麻酔銃を構えている灰原。


「お、前っ、」
「あおいちゃん!?どないしたん!?」
「お、おい和葉っ!」
「なに、なんでっ!?」


あおいを心配して、和葉が駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫。…熱がぶり返しただけだから」
「大丈夫、ってそんなわからへんやん!すぐ救急車呼ん」
「俺がっ!」
「え?」
「…俺があおいを連れて行くから、和葉ちゃんは服部と一緒に空港に向かった方がいい。そろそろ行かねぇとマズイ時間だろ?」
「…せ、せやな!そろそろ空港行かんと今日中に帰れへんで」
「はぁ?あんたまで何言うてんの!?」
「は、博士っ…!」
「なんじゃ!?新一」
「あおいを車に乗せっからドア開けてくれ」
「ち、ちょぉ、工藤くんっ!!」
「目覚めたら和葉ちゃんに電話するように言っておくから、…っ…」
「工藤くんかて体調おかしいんやろ!?」
「あー!オッチャン良い所におった!空港まで送ってぇや!」
「はぁ!?なんで俺が」
「えぇやん!…あ、そういやおかんがオッチャンに今度こそてっちり食べさせたい言うてたで?」
「よし、羽田でいいんだな?」
「じ、じゃあ工藤!またな!」
「ちょぉ、平次待ちぃや!私はまだっ」
「ほら早ぉ乗らんかい!!」


オッチャンが博士に俺たちのことを頼む、と言付けた後、服部たちを乗せた車が走り出した。


「…ぐっ…」
「新一!あおいくんはワシが運ぶからキミも早く車に」
「離れねぇんだよっ!」
「え?」
「このバカ女、手思いっきり握りやがって離れねぇんだよ!俺がこのまま抱き上げっからドア開けてくれ!」
「あ、あぁ…」
「灰原も、…サンキューな」
「…」


灰原からものスゲェ睨まれながら車に乗った。


「と、とりあえず人気のないところまで走った方がいいんじゃな?」
「そうね」
「…うっ、ぐっ…」


灰原の言葉に1番近いPAに車を走らせ、人気のないところに止めたころにはすっかり「江戸川コナン」に戻っていた。


「ほれ、新一キミの服じゃ」
「博士、ハサミと安全ピン用意してくれ」
「へ?」
「…手、離れねぇから服切るしかねぇだろ」
「あら、めんどくさそうに言うわりには随分と嬉しそうな顔してるじゃない」
「んな顔してねぇだろ!?」
「今回誰のせいでこんな面倒なことになったのか自覚してるの!?」
「…それは、まぁ、悪かったと思う」
「悪かったじゃないわよ!予備の麻酔銃があったから良かったものの、あのまま身動きとれずに、彼女の目の前で『江戸川コナン』に戻ってもおかしくなかったのよ!?事件と聞いたらどこにでも首を突っ込む癖、いい加減に直しなさいよっ!」
「…仕方ねぇだろ、探偵なんだから」
「仕方ないじゃないでしょ!?あなたの行動であなたはもちろん私や博士、そして彼女だって危険に晒されるのよ!?もっと気をつけて行動してっ!!」
「ま、まぁまぁ、哀くんもそのくらいにして、ほれ新一、ハサミと安全ピンじゃ」


博士の仲裁で灰原は俺から顔を背け、それっきり口を聞かなくなった。
…わーってるよ、俺だって!
あおいの目の前で、コナンに戻るなんてことが、どれだけ危険なことなのかくらい…!
でも仕方ねぇじゃねぇか!
目の前で起きた事件、放っておくなんてできるわけがねぇ!
それが俺、高校生探偵・工藤新一なんだから…!


「もう少しで米花町に着くし、そろそろあおいくんを起こしたらどうじゃ?」


あの後、無言のまま車は米花町に向かった。
ご立腹中の灰原はもちろん喋るわけねぇし、博士も俺も喋ることはねぇし。
そして後少しで米花町、ってところまでやってきた。


「そうだな。…じゃあ起こすぜ?」
「その前に」
「あ?」
「その安全ピンもっと上手く隠してちょうだい。丸見えだから」
「…へーへー」


切った部分を止めた安全ピンが確かに丸見えになっていた。
それを上手く隠し、あおいに声をかける。


「あおい姉ちゃん。起きて、あおい姉ちゃん」
「…んっ………、コ、コナンくん!?」


目が覚めて俺を見たあおいは驚いた顔をしていた。
…まぁそうだよな。


「あ、あれっ…?私…?それに和葉ちゃんたちは?」
「服部くんたちは大阪に向かう飛行機に乗るため毛利くんが送って行ったよ」
「あおい姉ちゃんは熱を出して倒れちゃったんだよ。覚えてない?」
「…熱…?」


俺の言葉を聞いて自分の顔を触るあおい。
実際熱があったのは確かだし。


「それより、さ、あおい姉ちゃん」
「うん?」
「そろそろ手を離してくれない?」
「あ、ご、ごめっ!」


あおいがバッ、と手を離したことで、ようやく繋がれていた俺の左手は自由になり、…車内の冷たい風が少し、指先に触れた。


「く、どうくん、の、手、握ってた、けど…」
「あぁ。ずっと握りっぱなしじゃったよ。新一があおいくんをこの車に乗せる時も」
「………………えっ!!?」


自分の右手を見て顔を赤くさせたあおい。
…俺も、振り解いてまで離そうとは、思わなかったし、な。


「にゃっ」
「イチ!」
「にゃー」


博士が連れてきたイチが、あおいに飛びついた。
あおいが傷だらけの手で抱きしめて頭を撫でると、もう1度小さくにゃあと鳴いた。
直後、


「にゃっ」
「…」


性懲りもなく俺の頭に乗ってきやがった…!
コイツ、後で覚えていやがれ…!!


「じ、じゃあ博士、哀ちゃん、コナンくん、送ってくれてありがとう」
「もし明日も具合が悪いようなら病院に行くんじゃぞ?」
「うん!大丈夫」
「あ、あおい姉ちゃん!」
「うん?」
「和葉姉ちゃんがすっごく心配してたから、後で連絡してあげて?」
「…わかった。じ、じゃあ、またね」


そう言ってマンションに入って行ったあおい。


−もっと、…綺麗な、青い青い瞳なんです。…死羅神様、みたいに…−


離れた手が、異常なほど冷たい。
もっとあの温もりがほしいと言っている。
…現実問題、さっさと別れねぇと安全ピンの存在がバレて厄介なことになっただろうから仕方ねぇことなんだけどな。
………ふぅ。


「俺も帰って寝てぇ…」
「自業自得よ」
「…へーへー、悪ぅございました!」
「にゃあ」


事務所に着くまでの間、左手を眺めていた。
泣きそうな顔で俺を見ていたあおい。
いつか…。
いつか必ず…。
そんな思いを胸に、左手の拳を握り締めた。

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bkm

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