■Revive
「あ、あのね、工藤くん、」
またコイツ「工藤くん」て…。
「だから、えぇーっと…、く、工藤くんはっ、」
「新ちゃん」
「え?」
「て、呼ぶんじゃなかったのかよ?」
「………………えっ!?」
俺の一言に、心底驚いた顔をしたあおい。
「し、新ちゃん、て、あの小屋の中で死羅神様に言ったことで…!」
…コイツまだそこで立ち止まってんのか?
まぁ…、あの時熱で朦朧としてたみてぇだし?
仕方ないのかも、しれねぇけど。
1つ小さく、ため息を吐いた。
「前も言ったと思うけど、」
「う、うん?」
「誰でもいいわけじゃねぇからな」
「…え?」
「おっまえ、服部にそう呼ばれてみろよ!考えただけで気色悪くて寒気がする!」
「おぅ、新ちゃん!どないしたんや?」なんて言われた日にはオメー…。
ブルッと体が震えた気がした。
「オメーだから…まぁ、許してやんだから」
そう言った俺に、
「あ、ありが、と…?」
少し赤い顔して首を傾げながらあおいは礼を言ってきた。
−工藤くんを、帰してください−
目から涙をぽろぽろ零しながら言ったあおいの姿が脳裏を過ぎる。
「お前だけじゃねぇよ」
「え?」
「…聞きたいことや言いたいことがあるのは、俺の方もだから。だから、待っててくれよ」
「…」
「俺の推理によると、恐らくそれは、オメーが俺に聞きたいことと、同じだと思うから、さ」
そう言った俺に、
「いって、らっ、しゃい…」
あおいはどこかぎこちない笑顔で答えた。
「いってらっしゃい」か…。
「じゃあまいってぇ!!」
「くぉら自分っ!!何をいちゃついとんねん!!」
「バーロォ!そんなんじゃねぇよっ!!」
「いいから行くでっ!!」
「わーってるよ…………うるせぇなぁ…」
「………ウルサイやと!?じっぶん、今どういう状況かわかって言うとんのか!?」
「だーから、わーってる、って言って」
「わかってへんから言うとんのやろ!?またみんなの前でちっさなりそうになっても俺はもう知らんで!?」
「だから悪かったって言ってんじゃねぇか」
「お前何軽く済まそ思てんねんっ!俺がどんだけ大変やったかっ!!」
「ほらほら、佐藤刑事たちが待ってるぞ」
「あ!おいこら待たんかいっ!工藤っ!!」
確かに服部がいなかったら、ほんとにヤバイことになってたと思うし…。
オメーには感謝してんだからな、これでも。
…あの奥穂村でのことは、俺にとってはいろんな意味で忘れられない事件だ。
−工藤くんを、帰してください−
…なぁ、あおい。
あれは、あの言葉は、「俺」だから言ったんだよな?
「俺」だから、あんなに涙を流してくれたんだよな?
今度は、オメーが起きてる時にちゃんと…。
まだ腕の中に残っているような桜の香に、コホン、と1つ咳払いして、被害者の車に近づいた。
「ちょっと、ほんとにこの状態で車が走ってたの?」
「えぇ」
「不思議やろ?」
一緒に被害者の車を見に来た佐藤刑事に、現状を説明。
俺と服部が感じた疑問点も告げる。
そしてオッチャンが窓ガラスを上げるよう操作した時、窓ガラスの下に、穴が開いてるのに気づいた。
…そうか、これで…。
「俺はわかったで、工藤!トリックも犯人もな!…おい?どないしたん工藤、その汗!」
「…っ…」
さっきから冷や汗が止まらない。
まさか、
ドクン
心臓が再び大きく脈打ち始めた。
マジかよ!?
もう着やがったっ…!!
耐性が出来たっつったって、まだ4時間くらいしか経ってねぇじゃねぇか!
「…ハァッ…ハァッ…」
「ちょっと工藤くん大丈夫?風邪気味だって聞いたけど」
「お前やっぱり医者に診てもらった方が、」
「それは、謎解きをした後で。あの3人をここに連れてきてください」
佐藤刑事が高木刑事に電話して容疑者3人を連れてきてもらった。
「我々には無理なんじゃないですか?」
「それが可能なんですよ。群平さんに運転中ある行為をさせれば、っ!?」
「おい工藤!もう喋らんどけて!」
服部に肩を押さえ込まれる。
俺の言葉を引き継いで、服部が導き出された真相を話し始める。
…くそっ!くそっ!!くそーっ!!!
服部の推理通り、犯人を追い詰め
「まさかこの可愛い探偵くんたちに急転直下でトリックを見抜かれるなんて思ってもみなかったからね。探偵くんたちの言う通りよ。私が群平を葬ってあげたのよ」
自供させた。
ハァハァと、肩で息をし、なんとか平静を装う。
この人は、誤解している。
せめて、それだけは伝えなければ。
「1度走り屋をしたら止められねぇよ」
「だから私が止めてあげたのよ!この冷血な赤い悪魔をねっ!!」
「いや…。彼は後悔の念でいっぱいだったと思いますよ」
「なんで?なんでそんなことあんたにわかるのよ!?」
「運転席のメーターパネルの上。タバコとライターが乗ってますよね?灰皿のタバコのフィルターが湿っていたことから、彼が絞殺される直前までタバコを吸っていたのは確か。タバコを取ろうとして身を乗り出せば、気づくはずですよ。自分の首の後ろにつけられた異物に」
「じゃなんでっ、なんで糸を切らなかったのよ!?」
「彼は覚悟していたんでしょう。自分の犯した罪は、自らの死を持って償うべきだとね」
「そ、そんなっ…!まさか、わかってて」
「…かと言って、彼に同情する気は僕にはありません。あなたが彼を殺害したことと同様に、あなたを犯罪者にしてしまう彼のこの選択はあり得ない。たとえどんなっ…、どんな理由があろうとも、決して選んでは、ならないっ…、ま、間違ったこたっ…うぅっ!?」
「お、おいっ!工藤っ!!」
「高木くん!救急車!!」
「はいっ!!」
「い、いやっ…、」
「病院はあかんっ!!」
グィッ
服部が叫んだ瞬間、誰かに手を掴まれた。
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bkm