キミのおこした奇跡side S


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殺人犯、工藤新一


言えない言葉


「は、灰原…!?」


コナンの姿に戻ってしまった俺は、隣のトイレから聞こえた物音に目をやると、壁の上から顔を出している灰原を見つけた。


「お前なんで!?」
「しっ!説明してる暇はないわ。とにかくコレを飲みなさい」


そう言って投げ落とされたのは1つのカプセル。
…まさか!


「えぇ。あなたの体を幼児化させたAPTX4869の解毒剤の試作品よ。あなたが昨日飲んだのと、同じ薬」
「じゃあまた24時間、」
「バカね。同じ薬を頻繁に服用してると効きづらくなるように、あなたの体はその薬の耐性が出来てしまって続けて服用すると持続時間も短くなるのよ。正体を隠したかったら、効果が切れる前にあの人たちと別れて戻るのね、江戸川コナンに」


タイムリミットは、24時間もないわけ、か…。
でも躊躇ってる暇はない。
そう思いカプセルを一気に口に放った。


「あかん!先生、あの扉や!」
「ち、ちょぉあかんて!!」
「あそこに患者がいてますっ!!」
「だから待たんかいっ!!大丈夫やてっ!」
「大丈夫なわけねぇだろ!あんなでけぇ声出してよ!」
「平次!そこどき!!」
「あ、あかんねん!あかん言うてるやろ!?」


なんとか再び新一に戻れ、服部の服を着てトイレから出ることが出来た。


「工藤、くん…」
「あんだよ、うっせぇなぁ!トイレくらい静かにさせてくれっつーの!」


驚いた顔をしてるあおい。
まぁトイレであんな絶叫する奴いたらビビるだろうぜ。


「工藤くん、具合はどうなん?」
「あ、あぁ。出すもん出したら随分楽になったよ」
「…確かに熱は下がったようだな」
「でしょう?…それじゃあさっさと帰ろうか?」
「え?事件のこと警部さんに詳しゅう話に行かんでもいいの?」
「あ、いや、それは帰ってからでも、」
「そうだな。念のため病院にも行った方がいいだろう」
「え、えぇ…」
「んじゃ、帰るぞ。…すみませんなぁ、わざわざ来ていただいたのに」


オッチャンの一言で、みんなで車に向かう。
…なんとか、大丈夫だったか。


「く、工藤!一体どうなっとんのや!?」
「あぁ。訳は後で」
「あ、おい!」


とりあえず車に乗り込み米花町に向かう。
コナンに戻る前にあおいたちと別れて…


−工藤くんを、帰してください−
−もっと…、綺麗な、青い青い瞳なんです−


…ほんと、ズルイ女だよ、オメーは。


「で?なんなんだよ?俺に聞きたいことって?」
「………あ、ありがと、って、」
「え?」
「この怪我、工藤くんが手当てしてくれたんでしょ?」
「あぁ…。ちょうどあの山小屋に救急箱があったしな」


無くてもきっと、どうにかして手当てしてただろうけど。


「く、工藤くん工藤くんっ!?」
「なんだよ?」
「み、見てないよね?」
「あ?」
「だ、だからっ!手当てしてる時にっ!!」


世間一般では「ガン見」の域に入るかもしれないくらい、はっきり見ました。
かなり俺好みでした、ごちそうさまです。
なんて言えるわけがねぇし、俺そもそもスカート捲る時ちゃんと「失礼します」って言ったし!(あおいが聞いてなかったのは知ってるけど)
そんな思いを隠すかのように口を開く。


「太ももに包帯巻いてる時に汚ねぇのが見えたけど?」
「し!失礼なっ!!この旅行のために新しいの持ってきたんだから汚くないしっ!!だいいち私は汚れが目立たない色の下着しか穿いてませんっ!!仮に汚れててもそんなこと言われるほどの汚れなんてありませんっ!!!」


……………俺だけか?今の言動がおかしいと感じたのは。
チラッと前を向いたら、声にこそ出していないものの、服部もオッチャンも、肩を震わせていた。
服部に至ってはサイドミラーから声を出すのを堪えてる、ムカつくくらいの笑顔が丸見えだ。


「あおいちゃん、そういうこと言うてんのとちゃうと思ういっ!?」
「いったーいっ!!」
「誰もんなこと聞いてねーだろっ!!?」
「ち、ちょぉ、工藤くうわっ!?」
「うそ!工藤くんが汚れたパンツって先にいひゃいいひゃいいひゃいっ!!」
「だからお前の思考回路はどーしてそうなんだよ!?」
「人をバカみたいに言わないで!!」
「みたいじゃねー、バカなんだっ!オメーはっ!」
「ひ、酷いっ!!」
「酷くねぇだろ!!大体オメーはっ」
「あんたらいい加減にしーやっ!!!!」


和葉の一際大きい声が車内に響いた。


「これ以上続けるんやったら私と席変わってからにしぃ!!」
「「…はい…」」


現在オッチャンの運転する車の後部シート左から俺、和葉ちゃん、あおいの順で座っているわけで。
俺のチョップからの頬つね攻撃は和葉を間に挟んで繰り広げられた。
…ものだから、迷惑被ったらしい和葉に見事に怒られた。
…悪いのは俺じゃねぇっ!!
その後は車内に沈黙が訪れたわけだけど。
…まぁ、あおいの聞きたいことなんて、想像がつく。
「なんで今までメールも電話も無視してたんだ?」ってところだろう。
そこを語りだしたら、頭に来てたからだよ!え?なんで?なんでってオメーがクロバと…なんて、こんな車内(しかもセンターは和葉な上オッチャンと何より服部まで聞き耳を立ててる)で出来る話じゃねぇし!
それはもっと、別の…。
2人の、時に…。


「あら?毛利さん?…と、あおいちゃんも」
「え!?さ、佐藤刑事と高木刑事!どうしたんですか?デートですか?」


そのままひたすら米花町へと車を走らせている最中、佐藤刑事と高木刑事に会った。
…そういや俺この姿で高木刑事に会うの久しぶりだな。


「そんなわけないでしょ!ちょっと神奈川県警に用があってね!それが終わったからアッシーくんに送らせてるとこ!」


…コナンになってから気づいたこと。
高木刑事はどうやら佐藤刑事が好きらしい。
しかもなかなかコクれないでいる。
高木刑事は「あの日」どういう気持ちで俺にアドバイスしたんだろうな、なんて、思ったりもした。


「そっちこそ何?事件でもあったの?眠りの小五郎さん?」
「えぇ、まぁ」
「そう!じゃあこっちは先急いでるから!」


そう言って2人を乗せた車が走り去る。
その直後、


「うん?なんだぁ、あの車!」


オッチャンの言葉に前方を見ると、ガードレールに車体を擦りながら走っている車がいた。


「ね、寝てるんとちゃうか!?」
「このままじゃ大事故だ!」


車のスピードを上げて、クラクションを鳴らし、前を走る車に教えようとするが全く気づかない。


「おいっ!起きろ!!おい、あんたっ!!」


そう言いながら車を隣につけて走る。
運転手を見ると、前後に首を揺らしていた。
…なに!?


「お、おい!なんか様子おかしいで!」
「この車をその車の前にっ!」
「お、おい!前にってまさか!?」
「……前につけたら速度を徐々に落として」
「バカッ!そんなことしたらレンタカーがっ!!」
「いいから早くっ!!オメーらは何かにしっかり掴まってろ!」
「う、うん」


あおいが取っ手に掴まったのを確認してから、もう1度オッチャンを見た。
オッチャンは小さく舌打ちをした後で、速度を落とし始めた。


ドーンッ


「「きゃあっ!!?」」


後ろから突き上げるような衝撃が来た後、車がゆっくり止まった。
…なんとか大惨事は免れたな。
服部と顔を見合わせ、車から降りて問題の車の運転手のところに近づいた。

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bkm

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