キミのおこした奇跡side S


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殺人犯、工藤新一


無表情な救世主


「この工藤新一が犯人だと言う証拠が揃った状況で、一体どんな推理を披露してくれるか…!」


そう言いながら俺を睨み続ける日原誠人。


「ま、見事に見抜かれちまったようだがな」
「じゃあ、あの事件はどうなんだよ!?日原村長と奥さんを殺害して、金品を奪った強盗殺人を日原村長の無理心中だなんてバカな推理をしたこの工藤新一は、どうなんだよっ!?」


俺を指差し叫ぶ、…もう1人の俺…。
俺はただその姿を見つめ返すしかできなかった。


「工藤は間違ぅてへん!」


そう言ったのは服部。


「あら無理心中や」
「はぁ!?犯人の靴と凶器、奥さんの宝石や高価な仁王像まで無くなっているんだぞ!?犯人が奪って逃げたに決まっているじゃないかっ!!」
「湖や。…日原村長が奥さんを刺した後、凶器や宝石なんかひっくるめて湖に沈めたんや」


…そう。
ハンマー投げの要領で、日原村長は凶器などを湖に投げ入れた。
その証拠も当時既に回収されている。


「嘘だっ!あの村長がっ!あの大らかで人の良い村長が奥さんと無理心中なんてするはずがないっ!!それに!村長のガンは良性でガンを告知され自暴自棄になったって言う動機だって嘘っぱちだったじゃないかっ!!」
「そのガンの告知の後に、発覚してしまったんですよ。別の問題が」
「え!?」
「…日原村長の血液型が検査の結果、実はAB型だった、と言うことが」
「ちょっと待て!確か村長の家は大らかなO型家族だった、って!」
「えぇ。メンデルの遺伝の法則によると、AB型とO型からはO型は生まれない。つまり、大樹くんは日原村長の息子ではないってことですよ」
「…で、でたらめを言うなっ!!」


そう言うもう1人の俺を黙って見つめた。


「なるほど。それが殺人の動機やったら下手に言われへんな」
「あぁ。だからガンの告知によるものだ、と公表したんだ」
「…で、でもっ!だったらなんでそれを僕に話してくれなかったんだっ!!家族の一員だったのにっ!!」
「話したはずですよ。…工藤くんに頼まれましたから。『決して誰にも言ってはいけない。ただし、誠人くんだけには伝えること』そう、言われましたから」
「…い、いつ?どこで、僕に?」
「工藤くんが捜査を終えて帰った夜にここで。…でも、今思えば、先に話した日原村長の無理心中と言う真相があまりに衝撃的過ぎて、キミは上の空だったのかも…」
「そ、そんな…。そんなことって…。なんなんだ僕は?一体何のために顔まで変えて…なんだったんだよぉ!!」


そしてそのまま床に崩れ落ち、泣き崩れるもう1人の俺。
…あまりにも不幸な偶然が招いた悲劇。
泣き崩れる自分の顔を目の当たりにして、この顔は忘れてはいけない、自分の中に刻み込むべきだと、そう思った。
こうして「容疑者・工藤新一」一連の事件の幕が引かれた。


「へぇ、あの誠人っちゅうんが、死羅神様やったんか」


警察がもう1人の俺を連行したのを見届けた後、宿に荷物取りに帰るかってみんなで歩き始める。
その時に服部の質問に答える。
死羅神様の真相。
かつて森に迷い込み湖で命を落とした屋田誠人の妹の死を繰り返さないために、彼の父親が始めたこと−死羅神様になり、森に迷いこんだ人間を、森の外に逃がすことだった。
そして父親亡き後、彼が2代目を継いだ。


「それであの小屋でその衣装を借りたんやな」
「あぁ。湖に落ちて服が濡れちまったんで仕方なく。でもまぁ、この格好だとみんな逃げちまうから好都合だと思ったしな」


傷もそんなに深くなく、助かった河内さんも、きっと今回の真相を話せば許してくれるだろう。
彼はかつて、自分の娘が森で迷った時に助けてくれた死羅神様なのだから…。


「あおいちゃん?」
「な、なななななななななにっ!!?」
「…顔赤いけど、熱は?大丈夫?」
「だ、だだだ大丈夫だよ!嫌だなもう!和葉ちゃんてばバカは風邪引かないって言うじゃん!」


和葉の声にチラッとあおいを見ると確かに顔が赤い。
…いや、赤いって言うか真っ赤?


「うっ!!」


なんて思ったら、急に心臓が軋み始めた。


「どないしたん?工藤くん?」
「…ぐぅっ!?」


…ヤバイ!
解毒薬の効果が切れ始めてる…!


「あ、あー!せやせや!事件の話もっと詳しゅう聞かせてくれって警部さんに呼ばれてたんやった!せやからお前らは車で先にな?」


そう言って俺を連れ去ろうとする服部。
だが、


「ま、待って…!」


立ち去ろうとした瞬間、あおいに手を掴まれた。


「あ!あの、…え、えぇーっと、わ、私も!私も工藤くんに聞きたいことがっ!!」


あおい…。


「うぐっ!!」
「く、工藤くん!」


か、体がっ!
体が熱いっ!!
…このままじゃ戻っちまう!
また、コナンに戻っちまうっ!!
今、コイツの前で戻るわけには…!


「…う、ぐぅっ…」
「…か、風邪や風邪!工藤、湖に落ちた言うてたやろ?そん時引いた風邪がぶり返したんや!」
「そらそうやろうけど、」
「苦しみ方が尋常じゃねぇぞ?」
「え!?な、なんやて?…お、おぉ。便所に行って出すもん出したいやと?ほんなら俺工藤連れて旅館の便所に行ってくるよって、和葉俺のバック持ってきてくれや」
「なんでバック持っていかなあかんの?」
「着替えや着替え!工藤めっちゃ汗掻いてるし、いつまでも死羅神様の格好なんかさせられへんやろ?ほな、頼んだで!」


そう言う服部に支えられ、歩き始める。


「は、服部、悪ぃ、」
「アホゥ!今はそんなこと気にしとる場合か!…とにかく旅館のトイレに連れてくからな?」
「あ、ああ…うぐっ…」


そして旅館のトイレに入り、この事態の真相を聞く。


「に、24時間?マジかよそれ…!」
「あぁ。博士んとこのちっちゃい姉ちゃんが言うとったで?『薬の効力が続くんは大体24時間!それまでに工藤くんをこっちに連れて帰ってきなさい!』てのぉ」
「そ、そろそろ、時間じゃねぇか…!」
「とにかく!またちっちゃなってしもうたらこのバックん中に入っとけ!」
「えぇ?」
「そしたら俺が、上手いこと誤魔化してまたお前を連れ出したるさかい。任しとけ!」
「あ、あぁ…」
「ちょっと平次!?」
「げ、和葉っ!」
「なにこそこそしてんの!?」
「入ってくんなどアホゥ!ここ男便所やぞ!?」
「せやけど工藤くん心配やもん!」
「ごめん、近くのお医者さん連れてきちゃった…」
「あぁ、平気や平気!今風邪薬飲ませたし!」


そう言って服部の声が遠のいて行った。
…ヤベェ。
今この状況でコナンになっちまったらいっくらその瞬間を目にしてなかったとしても…!


「う…ぐぅっ…」


クソッ!!
まただ…!
また俺はっ!!
起きてるアイツに、何も伝えられないまま、戻っちまうのかっ!?
また振り出しに戻っちまうのかよっ!!?


「う、わぁぁぁぁぁっ!!?」


一際大きく心臓が脈打つ。
飛びそうになる意識の中、隣のトイレから無表情な救いの神が現れた。

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bkm

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