キミのおこした奇跡side S


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殺人犯、工藤新一


殺人犯「工藤新一」


あおいが完全に寝入った後小屋を出て焚き火を燃やす。
…これで服部が気づくだろう。
さて、と…。
あとはどうやってアイツを追い詰めるか、だが…。
そうこう思っているうちに服部たちが小屋にやってくる。
あおいも無事合流したようだ。
問題は服部がどこまで気づいているか、だな…。
もう1度姿を隠し、小屋を眺めていると城山巡査が小屋から出て来た。
…念のためにもアレを貰っとくか。


「え?う、うわぁぁぁぁ!!!」


そう叫んだ城山巡査を麻酔銃で眠らせ、持っていた銃の中から弾を拝借する。
これで俺の準備はヨシ、と…。
城山巡査の叫び声に駆けつけた服部から姿を隠し、バレないように俺も日原村長の家に行く。


「大阪の高校生探偵服部平次?」


さて…。
オメーの推理、聞かせてもらうぜ?服部。
そして始まった服部の推理ショー。


「この家の前に残された足跡のうち、旅館におってアリバイのある俺らと、刺された河内さんの足跡を除けば、残るんはコイツの足跡だけや。服には返り血、凶器に指紋。どっからどう見てもコイツが犯人やけど…。そらそうや!コイツが犯人なんやからな!」


さすが俺の親友。


「つまりや。この犯行にトリックなんかあらへんかった、っちゅうこっちゃ」
「へ、平次!」
「…作戦ちゃうわ。コイツが河内さんを電話でココに呼び出して、コイツが刺した、ちゅうてんねん!」


観念したのか、「工藤新一」がポツリ、ポツリとその動機を語り始める。


「怖かったんだ…。あの新聞記者…、僕が今まで築き上げた名誉や誇りをずたずたにするなんて脅すから…!それがなんだかよくわからなかったけど…。怖くて、怖くて…思わず…!」


…随分と見くびられたものだ。
「俺」はそんなもんに縋ってるほど、小さい男じゃないんでね。
その時、不意にこちらを振り向いたあおい。


「…」


口の端だけ上げて笑うと、あおいも微かに笑い返したような気がした。


「あのー、鑑定結果が出ましたので、一応報告に」
「鑑定?」
「その大阪の少年に頼まれたんです。凶器の包丁と、少年が持っていたお守り袋の中の鎖の欠片が一致するかどうか…」
「ほんで?どないやった?」
「キミの言う通り一致しなかったよ」
「おっしゃー!やっぱり俺の推理通りやったわ!!」


…あぁ、そうか。
あの鎖、俺触ったんだっけ。


「お守りって、あのお守りやろ?それと包丁となんか関係あんの?」
「一体何が一致しなかったって?」
「それは…」


そろそろ頃合だ、と部屋の中に入っていく。
キィィ、という音が響いたと同時に、皆一斉に俺の方に視線を動かした。


「人間が生まれながらにして天より授かった終生不変のエンブレム。番人不同であるため、犯罪捜査において最も信頼度の高い証拠になり得る痕跡。指紋、なんだろ?」
「…あぁ、そうや」
「な、なんだ?コイツ」
「しっ!?」
「死羅神様っ!?」


服部とあおいだけが、現状を理解しているかのように落ち着いた様子だった。


「下がっていろ」
「う、うん」


あおいの前に立った瞬間、「工藤新一」が腰に差していた拳銃を取り出した。


「無駄だ」


さっき城山巡査から拝借した弾をパラパラと右手から落とした。
案の定奴は驚愕し、シリンダーをスライドさせた。
今だ!!


「あっ!?」


俺がアイツの拳銃を蹴り上げ、それを服部が拾った。


「やめとき。仮装大会はこの辺で幕にしとこうや」
「仮装大会ぃ?」
「何言うてんの?」
「そうや。今回の事件にトリックがあったとしたら、コイツの顔や。まさかあの高校生探偵・工藤新一が人を刺すなんて思わへんからなぁ。まず引っかかったんはあおいちゃんのあの態度や!」


そう言いながら服部はあおいを見る。


「ずーっと待っとった工藤にやった会えたのにあのよそよそしい態度!挙句俺に言うた言葉が『あの人誰?』や。いっくら記憶喪失や言うてもソイツ自体を否定するようなこと、普通言わへんやろ」


…なんだ、コイツ初めっからおかしいと思ってたのか。


「最初は自分のことすら忘れてる工藤にショック受けてそないなこと口走ったのかと思たけど、森ん中建っとった犯人の小屋ん中調べたら、その理由がわかったわ」
「は、犯人の小屋?」
「あぁ。壁に貼っとった工藤の写真はずたずたにされとるし、鏡は何枚も割れて散らばっとった。写真をずたずたにするくらい工藤のこと恨んどる奴が、鏡まで粉々に砕く理由は1個だけや。嫌で嫌で溜まらんかったんや!鏡に映った工藤のこの顔がな!」
「て、ま、まさか!?」
「そう…。彼は整形したんですよ。この…、名探偵気取りのバカな高校生の顔にね」


俺が白髪のかつらを取ったことで、部屋中が驚きに包まれる。
…さぁ、終わりにしようぜ。


「し、しかしなんで工藤くんの顔を?」
「僕をあの小屋に呼び出し閉じ込め、摩り替わってなんらかの罪を犯そうと思ったんでしょう?恐らくこの『工藤新一』を人間的にも社会的にも抹殺するために」


そのために記憶喪失を装い、服部たちと合流。
裸で湖に入り、風邪声にすることで、本人と錯覚させた。


「ゲホッ、ゲホッ!…まぁ、僕もあの小屋から湖に落ちて少々風邪声になってしまっていますけどね」
「じゃあ今朝事件直後に警察と救急車を呼んだのは?」
「僕です。彼と河内さんがこの家に入って行くのが見えたので最悪の事態を考えて」
「だったらなんでテメーで止めに入らなかったんだよ?」
「出るに出られなかったんですよ!昨夜この家から出て来た彼の背中の膨らみで拳銃を隠し持っていることを核心しましたから」


彼が拳銃で特定の誰かの命を狙っていたならまだ止めようはあるが、計画が失敗した時点で自ら命を絶つ覚悟だとしたら、それを阻止するのに使える時間はほんのわずか。
だから彼の前で弾をばら撒くことで躊躇させ隙を作った。


「彼は僕が目の前に現れた時点で、それを決行するつもりだっただろうから。…ですよね?屋田、いや…、日原誠人さん?」


俺の言葉に、もう1人の「俺」が驚愕の表情を浮かべた。
その後服部が推理を引き継ぐが、


「でもわからんなぁ。工藤に罪着せたいんやったら、なんで今朝来た時自分がやったて言わんかったんや?その方が早いんとちゃうか?」


わずかに残る疑問を口にした。
それに対しもう1人の、いや、日原誠人は、


「試したんだよ。お前ら探偵を」


そう言って俺を睨んだ。

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