キミのおこした奇跡side S


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殺人犯、工藤新一


懇願


「…気がついたか?」


目を覚ましても、あおいはなんだか焦点が定まらないような、そんな表情をしていた。


「し、ら、がみ、さま…?」
「は?」


薄暗い小屋の中での傷の手当てに邪魔だから、今は白髪のかつらを取っていて衣装こそおかしいが、工藤新一そのもの。
なのに死羅神様とか言ってきた。
…寝ぼけてんのか?


「助けて、ください、死羅神様」
「…今手当てしてっから、」


間違いなく、寝ぼけてんなコイツ。
まぁまだバレるわけにはいかねぇしちょうどいいか。


「工藤くんを、助けてください」
「え?」


あおいが俺を見て言う。


「死羅神様。工藤くんが、…あの工藤くんはっ、」


−か、快斗くん!?−
−快斗くん時間は?−


フッと、あの時のあおいが頭を過ぎった。


「新一!」
「…え?」
「他の男の名前を呼ぶくらいなら、俺の名前を呼べ」


過ぎったと思ったら、そう口走っていた。
俺の視線に、漆黒の瞳を泳がせるあおい。


「な、名前で呼べ、なんて、だって、」
「………呼びたくねーならいいけど」


クロバの名前は呼ぶくせに…!
思い出したら腹立ってきた。
その時、


「名前…。工藤くん、の…」


あおいが呟いた。


「…し、…しん、ちゃん…?」


一気に肩の力が抜けた気がした。


「なんでそこチョイスなんだよ!普通に新一でいいだろ!?」
「………新ちゃんは、…だめ?」


…この女はズルイ。
そんな悲しそうな顔でダメかって聞かれて、ダメなんて答えられるわけ、ねぇだろ…。


「…ふ、2人の時、だけだからな」


俺がそう言うと、くすり、とあおいは笑った。


「何笑ってんだよ?」
「…やっぱり、あなたは違う」
「え?」
「工藤くんが『新ちゃん』なんて、呼ばせるわけ、ないもん」
「…俺はっ!」


俺が言い返そうとした時、あおいが俺の服をくぃっと引っ張った。


「死羅神様」


あおいは泣きながら俺を見る。


「優しい死羅神様、お願いです」
「…」
「工藤くんを、帰してください」
「…『帰す』?」


記憶を戻せ、とかじゃなく…?
俺のその問いかけに、あおいは泣きながら答える。


「みんながあの人は工藤くんだって言うけど、違うんです」
「…」
「あの人は工藤くんなんかじゃない。工藤くんは、工藤くんはもっと…!」


泣きながら、アイツは俺じゃないと言うあおいを見ていたら。
俺を帰せと言うあおいを見ていたら、自然と体が動いていた。
ギシッ、と、床が軋む音がした。


「『俺』はもっと?」


指で涙を掬い、鼻が触れるか触れないかの至近距離で問いかける。


「もっと…、綺麗な、青い青い瞳なんです。…死羅神様、みたいに…」


そう言い終わったあおいに顔を近づけた。
あおいも自然と目を閉じ、ただ黙って、俺のくちづけを受け入れていた。
髪は思慕。
額は祝福。
瞼は憧憬。
頬は親愛。
そしてくちびるは…愛情。
何度も何度も繰り返し、自分のくちびるを落とす。
………て、言うかコイツ、


「熱あんじゃねぇか…」
「う…ん…」


どうりで…。
あおいの一連の態度に納得がいった。
もう1度額にくちびるを落とす。


「すぐに服部たちが迎えに来てくれるだろうから、ここで少し休んでろ」
「…ん…」


あおいはまた、目を閉じ、眠りにつこうとしていた。


「あおい。1度しか言わねぇから、よく聞けよ」


変わらない、桜の匂いに包まれながら…。


「俺は、どんなに時間がかかっても、いつか必ず、死んでも戻ってくるから」


さらさらと音を立てて、手から滑り落ちる漆黒の髪が、ひどく気持ち良い。


「その時まで、待っててくれ………あおい」


すーっと、寝息を立て始めたあおいの首筋に顔を埋める。
そこにも1度、くちびるを落とし再び耳元にくちびるを寄せた。
小さな寝息を立てるあおいの手のひらにもくちびるを落とし、小屋を後にした。

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bkm

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