キミのおこした奇跡side S


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殺人犯、工藤新一


「死羅神様」


湖に落ちたと同時に一際大きく心臓が脈打ち、一瞬気が遠のくものの、


「ガハッ!」


水の中で息が出来るはずもなく、現状に意識が呼び戻された。
とにかく水上へ。
そう思い泳いで行く途中で、ケータイが水中に沈んで行きそうになるのが見えた。
咄嗟に持ってきていたケータイ2つ(新一とコナンの)を掴み、水面へ向かった。


「ゲホッ!ゴホッ!!」


湖から出れそうな場所まで泳ぎハァ、ハァと肩で息をする。
岸に着き、手をかける。
そんな気はしていたが、どうやら元の俺の姿に戻っちまったらしい。
いや、戻ったこと自体はありがてぇが、なんだってこのタイミングなんだよ!
博士がくれたあの薬が原因だろうが…、一言言ってくれってのっ!!


「ハァ…ハァ…」


クソッ!
まだ10月の初めなのに山奥なもんだから湖の水が冷てぇじゃねぇか!
…とりあえず、あの小屋なら何かしらあるだろうから、一旦あの小屋に戻るか…。


「…この衣装…ケホッ!」


不幸中の幸いだったのは、ここに来るまでの間誰とも遭遇しなかったこと(何せ素っ裸)
小屋まで辿り着き何か着れるものはねぇかと見ると、「俺」に対する明らかな恨みと、真っ黒い、独特の衣装。
そう…。
以前、俺が見た「死羅神様」の衣装だった。
…この部屋を見る限り、「アイツ」は死ぬ覚悟でいる。
どんな理由があるにせよ、どんな奴だとしても死なせるわけにはいかない。
…なら今、俺は誰とも会うわけにはいかねぇな…。
そう思い死羅神様の衣装を着る。
ご丁寧にかつらまで用意されてるし、丁度いい。
そして森に潜み、「アイツ」の動向を探ろうと一旦旅館に向かうと、ちょうど日原村長の家へ向かう服部たちを見つけた。
前に出るわけには行かねぇし、このまま遠くから見守ることにした。
…しっかし、顔まで変えて「俺」に成りすますとは、な…。
しばらく屋敷の方へと目を向けていると、あおいたちが屋敷から出てきた。
…アレは確かあの時もいた新聞記者の…。
「推理ミス」の話をかぎ分けてきた、ってところか?
それにしても「アイツ」のあの腰…。
小屋にあった銃弾の空き箱と言い、拳銃を隠し持ってやがる。
ますますうかつに近寄れねぇ…。
そう思い、遠くから服部の推理を見守ることにした。
…にしてもアイツら、誰1人俺じゃねぇって気づかねぇのか、オイ。
いくら顔整形したって言っても1人くらい気づけよ!
あおいに至っては毎っ日一緒にメシ食ってたのに気づかねぇのかよ!


−これ工藤くんにピッタリだと思って!−


湖底へ沈んでいくのを辛うじて防げたケータイ。
…拾えたはいいが、ここは圏外で電波も届かねぇ。
「俺にぴったりだ」と、そう言って渡された、黒猫のストラップを見る。
あの日からずっと、「工藤新一」のケータイについている目つきの悪ぃ黒猫のストラップ。
…まぁ、最近「俺」は会ってねぇどころか、連絡も取ってねぇし、気づかなくても、な…。
せっかく「工藤新一」の姿に戻れても、これじゃあなぁ…。
これからどうするか、なんて考えて夜を過ごしたら、翌朝事件が起こった。
新聞記者の河内さんが「工藤新一」に刺された。
あんニャロォ、俺の顔で好き勝手しやがって…!
とりあえず警察と救急車を呼んで、服部たちの動向を見守る。
…服部の奴、「俺」を庇うつもりか。
とりあえずうかつに出れねぇし、ここは森に身を隠し(警察もいるから動けねぇし)落ち着くのを待つか…。
小屋に一旦引き返そうとした時、



「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


あおいの悲鳴が聞こえた。
慌てて近寄って見ると、斜面を滑り落ちたらしく、傷だらけで横たわっていた。
一瞬焦ったが、パッと見る分には擦り傷、切り傷のみのようだった。
…ったく、


「世話の焼ける女だな、相変わらず」
「死羅、神、様…」


薄っすらと開いていた目で俺の姿を見た後、意識を失った。
…傷の手当てもあるし、小屋に連れていくか。
場所は後で焚き火でもすれば服部が気づくだろ。


「よっ、…毛布もなんもねぇけど、我慢しろよ?」
「…」


話かけてももちろん返事することはない。
とりあえず床に寝かせ、傷の手当てをした。
やはり箇所は多いが、切り傷、擦り傷程度のようだ。
小屋に置かれていた消毒薬や包帯で治療するが…、よく怪我する女だよな。
いや、あれだけ運動神経切れてんだから当たり前か?
むしろこの程度で済んだのはラッキーなのか?
…ほんっと、少し目離すとすぐコレだ。


「…相変わらず小せぇ手…」


傷だらけの手を取り、包帯を巻いていく。
手を触れることで伝わるあおいの温もり。
いつもこの手を取っていたのは「俺」だ。
でも今は…?


「後は足、と…」


手の治療が終わり、足に移動する。
ん、だが…。


「…」


位置的に、どうしても見えちまうような位置怪我してんだけど…。
………いやいや、これは治療だ。
俺のせいじゃない、俺のせいじゃない、俺のせいじゃない、俺のせいじゃ、なんて自分に言い聞かせながら、スカートに手をかけた。


「し、失礼します…」


相変わらずあおいは気を失っている。
だから、誰に断るわけでもないが、気持ち的になんとなく、断りの言葉を言ってからスカートを捲りあげた。


「…」


自分でも無意識に、ごくり、と唾を飲み込んだ。
…………………待て。
冷静になれ。
コイツは怪我人だ。
見るな俺。
見たら負けだ。
例え目の端に俺好みな淡いブルーのレースが見えていようがそれは気のせいだ。
そうだ、気のせいだ。
気のせい、気のせい、気のせい、気のせい、


「…」
「わっ!?」


一瞬身じろぎしたあおいに、心の動揺が表れたかのように、手に持ってたマキロンを床に落としてしまった。
…落ち着け!
早く手当てしねぇと、今目覚まされたら気絶してる人間のスカート捲ってるタダの変態じゃねぇかっ!!


すー はー


1つ大きく深呼吸した後、見ないように見ないようにと自己暗示をかけ腿の治療をした。
腿の治療も終わり(スカートも直し)後は脛に2か所絆創膏貼るだけ、って時、


「…んっ…」


あおいが目を覚ました。

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bkm

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