キミのおこした奇跡side S


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水平線上の陰謀


相手を思う気持ち


俺たちを保護すべくやってきたクルーザーに、灰原たちや救助ボートで逃げた人たち全員が保護された。
一通り落ち着きを取り戻した時にはもう、太陽が再び、地上へと顔を出していた。


「じゃあ、彼女の犯行を確信したのは、日下の犯行があまりにも単純だったから?」
「あぁ。あんな単純なアリバイ工作が成立したのは、相手の美波子さんにそのアリバイ工作を利用する意図があったからこそなんだ。それに、スラッとした足の貴江社長に変装できるのは、同じスラッとした足の彼女しかいないだろ?」
「なるほどなぁ…。じゃがよくわかったのぉ、あおいくんの居場所が」
「あぁ、ソレはあの時ほんとはバレーボールを蹴ってたのに、あおいはサッカーボールって言ったんだ。だから音が聞こえるところに隠れてるんじゃねぇか、って思ってな」


姿は見えないが、ずっとその気配は感じていた。
自分の右手に目をやる。
貝殻だけで作った不恰好なブレスレット。
あの瞬間、あの細い紐だけが、俺とあおいを繋いでいた。
…まるで今の自分達のようだ。
その姿は見えないが、「俺」はずっとあおいの側にいて。
でも今の俺たちを繋いでいるのは、たった1台のケータイ電話だけ。
でもそれは、切れることなく、しっかりと繋がっていて…。


「それで?」
「え?」
「お礼、言いに行ってあげないの?」
「…俺は、」
「あなたの性格上、謝罪より感謝の方が言いに行きやすいでしょう?」
「…なんっか最近オメーの言葉にイラッとする時あんだけど」
「あら、それだけあなたをよく見てるってことじゃない」
「え!?」
「相棒。なんでしょ?私」


それは神海島で俺がコイツに言った台詞。
…ったく、コイツは…。


「彼女さっき毛利探偵とあっちにいたわよ」
「オッチャンと?」
「大変ね、人の心を擽るのが上手い彼女を持つと。老若男女問わずに人気があって」


ふふん、と灰原が鼻で笑う。
…オッチャンとあおいがなんかあるわけねーだろ!
ある方が怖ぇし!


「あら、行くの?」
「礼言って来いって言ったのオメーだろ!?」
「…はいはい、行ってらっしゃい」


そう言ってつかつかと船の中を歩く。
俺たちがいたところからさほど離れていないデッキであおいはすぐに見つかった。


「あおい姉ちゃん、」
「…コナンくん!さっきはありがとう」


朝日を眺めていたあおいはどこか、


「…泣いてたの?」


泣いているように見えた。


「う、ううん!疲れて眠くてあくびが出ちゃったんだ!」


そう言って笑うあおいは、今まで通りのあおいだった。


「コナンくんがせっかく選らんでくれた服、船と一緒に沈んじゃったね…」
「あぁ…」


もう1度右手に視線を落とし、助けられた時のあおいを思い出す。


−もう、来てくれないかと思った…−


蘭は強い。
横須賀のあの日泣いた以外は、蘭の涙を見たことがない。


「あおい姉ちゃん」
「うん?」
「さっきは助けてくれて、ありがとう」
「…どういたしまして!」


そう言ってほんとに嬉しそうに笑うあおいの目尻は、やはりどこか濡れていて。
蘭は強い。
でも…。
コイツはよく、泣くよなぁ…。


「あおいお姉さーーん!!」
「金メダルの修理終わったぜー!!」
「今度はちゃんと首にかけれるように…って、あおいさん泣いてたんですか?」
「え!?あ、ううん!疲れちゃってさっきあくびが出て」


泣いてないなら良かった、と歩美ちゃんが言う。


「じゃああおいさん!改めて金メダル授賞式です!」
「歩美が首にかけるー!」


歩美の声にあおいが少し屈み、金メダルが首にかけられる。


「ありがとう!大切にするね!」
「「「えへへー!」」」


あおいの首にかけられたのは相変わらず不恰好な「金メダル」
だが…。
コイツらの相手を思う気持ちが、俺を助けてくれた…。
相手を思う気持ち、か…。
それなら、俺は…。
まだ言葉に出来ない思いを抱き、ゆっくりと昇る朝日を眺めていた。

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bkm

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