キミのおこした奇跡side S


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水平線上の陰謀


脱出


俺が船内を走っていると、ポケットに入れていた探偵団バッチが鳴った。


「どうした!?」
「あおいお姉さんを見つけてっ!!」


バッチを通信状態にすると、悲鳴に近い歩美の声が響いた。


「あおいお姉さんが貸してたバッチで、園子お姉さんから聞いたの!あおいお姉さん、見つかってないんでしょ!?」
「だからこれからっ」
「あおいお姉さん言ってたよ!!」
「え?」
「この間、歩美と車のトランクに入っちゃった時にあおいお姉さん、言ってたよっ!コナンくんが絶対見つけてくれるから安心だって笑いながらっ!」
「…」
「今もコナンくんが見つけてくれるの、絶対待ってる!!だからお姉さんを見つけて!!」
「…わーってるよっ!!灰原!いるか!?」
「何?」
「お前、かくれんぼの時俺を見つけたデッキ付近はくまなく捜したか!?」
「普通に捜したけど?」
「扉は!?」
「扉?」
「扉も開けて捜したのか!?」
「キャビンの、ってこと?それはルール違反でしょ?開けるわけないじゃない。どこも開けてないわよ」
「開けてねぇんだな?…じゃあ間違いない、あそこだ!」
「おい!あおいはどこにいるんだ!?」


俺を追いかけてきたオッチャンに向き直る。


「あおい姉ちゃんはここで俺がサッカーボールをずっと蹴っていたことを知ってたんだ!」


そう。
俺が「ずっと蹴っていたこと」を知っていた。


「オジサン!!その辺りの床に下に行ける扉ない!?」
「なに!?…あれかっ!…くっそ、開かねぇ…!!」


まさか床下に隠れてるなんて思わなかった灰原は扉の存在すら気づかなかった。
あおいがいるのはこの扉の向こう。
だが船体が傾いて上手く開けれない。
何か、何かないか!?
…あれだっ!!
壁に備え付けれていた非常用扉から斧を取り出しオッチャンに渡す。


「うらぁぁぁぁ!!」


バキッ!!


「開いたっ…!!」
「あおい!いるかあおいっ!!」


俺が渡した斧で扉を叩き割って、呼びかける。


「お、じ、さん…?」
「いたぞ…!」
「急がないとヤバイよ、オジサン!」
「くそぉ!!」


船体が、今にも海に飲まれようとしていた。
あおいを見つけたその瞬間、船内の照明が消える。
…まずいぞ!


「よし!開いたぞ!!って、こらっ!!」
「あおい姉ちゃんっ!!」


少し浸水していた床に横たわっていたあおいに駆け寄った。


「コ、ナン、くん…?」
「もう大丈夫だよ。オジサン、早くっ!!」
「ちょっと待ってろっ!!」
「…良かった…」
「え?」
「もう、来てくれないかと思った…」
「あおい…」
「おいボウズ!お前は先に上がれっ!俺があおいを担いで上がる!」
「わかった」


俺より一拍遅れてあおいの元にやってきたオッチャンがあおいを担ぎ上げる。
梯子を使い急いでデッキに戻ったところで、ヘリの音が辺りを包んだ。


「救助のヘリだっ!!」


そう思った瞬間、今まであおいがいた場所は一気に海に飲み込まれた。


「マズイッ!」
「船首へ逃げよう!」


小柄なあおいを肩に担いでオッチャンと船首へ向かう。
船尾から徐々に海に飲み込まれていっている分、船首はまだ海面から遠かった。


「おーい!ここだー!!」
「おーーいっ!!」


オッチャンと2人手を振りヘリに合図を送る。
それに気づいた救助ヘリは俺たちのほぼ真上で停まり、1人レスキュー隊員が俺たちの元へと降りてきた。


「これで全員ですか!?」
「はいっ!」
「ボウヤ、もう少しの辛抱だ!今助けてあげるからな!!」
「うん!」


その後手際よくオッチャンとあおいに救助ロープに繋がれたベルトを掛け、レスキュー隊員は俺を抱き上げた。


「いいか?しっかり捕まってるんだよ?」
「うん!」
「これから引き上げます!お嬢さんをしっかり支えてあげてください!」


あおいはぐったりとしていて、とても自分でロープを持てるような状態じゃない。
オッチャンがあおいの体を抱えなおしたのを確認して、レスキュー隊員がヘリの仲間へと合図を送った。
その合図の直後、ゆっくりと、だが確実に俺たちの体が引き上げられ、船体から離れていった。
その時、


「っ!?」
「くっ!………あぁっ!!?」
「わっ!?」


ヘリが上空で風に煽られ機体を大きく傾けた。
反動でロープにつられていた俺たちの体も大きく揺れ、レスキュー隊員が俺を庇い船に激突し、その衝撃で俺の体は空中へと投げ出された。
船首へと再び落とされた俺。
レスキュー隊員は今の激突で意識を失ってしまったようだ。
振り子の原理でロープが揺れて安定しない。
ここを通り過ぎる一瞬がチャンスだ。


「掴まれーー!!」


オッチャンが俺に手を差し出すが、この体じゃ小さくて届かない。
…クソッ!!
船首の手すりに乗り、もう1度、振り子と化したロープが戻ってくるのを待った。
…これが最後のチャンスだっ!


「ああっ!!?」


そう思い手すりを蹴って飛び上がったものの、ほんのわずかの差でオッチャンの手を掴み損ねた。
今度こそ海に落ちる!
そう思った時だった。


「っ!!」
「…しっかり掴まってなきゃ、ダメだよ…」


ヘリからのライトに照らされてるあおいの顔色は、どこか青白い。
それでも「俺」に手を差し出し、しっかりと「俺」の手を掴んでいた。


「あおい!大丈夫か!?」
「あっ!!」


オッチャンが声をかけた瞬間、俺の手が滑り、あおいの手から離れ落ちようとした。


「うわっ!?」


そう思った瞬間、掴んだもの。
それは倒れていたあおいがずっと握り締めていた、不恰好な貝殻のブレスレットだった。


「ボウヤ!」
「え?」
「手を伸ばせ!」


意識を取り戻したレスキュー隊員とオッチャンが、俺をひっぱりあげてくれた。
ヘリに揺られながら、深海へと飲まれていくアフロディーテをただ黙って見つめていた。

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bkm

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