キミのおこした奇跡side S


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水平線上の陰謀


居心地の悪いモヤ


「ラッキーだったよなぁ…。近くにこの船がいてよぉ」


俺たちはたまたま通りかかったクルーザーに救助され、爆破に巻き込まれることもなく、煙を出すアフロディーテ号を遠くに捕らえていた。


「船に残った人たちは大丈夫でしょうか?」
「あおいお姉さんたちもいるし…。心配だね…」
「…大丈夫よ。彼女もきっと救命ボートで、」
「日下は混乱に乗じて海道さんを殺害するつもりだったと言ってたけど、それにしちゃ、爆弾がやけに多すぎるんじゃねぇか?…まるで、本気で船を沈めるみてぇだ…。それにあのアリバイトリックも今思えば単純すぎる。電話の途中で美波子さんが話しかけてきたら、すぐにバレちまうだろ?」
「何度か試してみたんじゃない?彼女が話の途中で口を挟まないのを確認したからアリバイに使えると思ったのよ」
「確かに彼女は『途中で口を挟むと怒る』とは言っていたが…」
「目暮警部!…今、海上保安庁に話を聞いたんですが、発見された八代会長の背中に、果物ナイフが刺さっていたそうです」


果物ナイフ?
…あっ!


−10時11分だった−
−10時15分くらいだ−


園子とオッチャンの証言時刻。
…犯人は日下じゃない!
じゃあ一体誰が?


「お、おいおいコナン!」
「どこ行くんですか?コナンくん!」
「コナンくん?」


2人乗り用モービルに跨りエンジンをかける。


「なんだろうな?なんかすっきりしねぇんだよ。このまま進んじまうと取り返しがつかなくなるようなそんな感じが…」
「もしかして事件のことですか?」
「あぁ…たぶん、だろうな」


そしてモービルを走らせた。
俺の推理が確かなら、真犯人は…!
フルスピードでモービルを走らせる。
…間に合ってくれっ!!!


「止めろ!!」


その時、盗聴機能つきカフスボタンから受信し聞こえる、オッチャンの声が響いた。


「やっぱりあんたが真犯人だったんだな、秋吉美波子さん」
「動かないで!!」
「悪いがその銃は使えなくしといたよ。…トイレタイムの間にあんたの部屋で見つけたんでな」


オッチャン、気づいてたのか…!?


「船長。…あなたには後でゆっくりとお話を伺いますから。…秋吉さん、俺の推理じゃ、」
「止めましょう。どうせ3人とも死ぬのよ。沈んでいく船の上でそんな推理。無意味だわ」
「止められるかよ。真相を解き明かすのが探偵の性なんでね」


そしてオッチャンが語り出す事件の真相。
美波子さんは日下の犯行を知ったが、その計画には無理があり、その穴を埋めるべく、美波子さんが動いた。
まず英人氏を心臓発作に見せかけ殺した。
そして残り3人を殺害しようとした日下を逆に利用し、自分の手で殺害しようとした。
この沈没を誘うほどの爆弾の仕掛けも、日下ではなく、美波子さん。
貴江社長の部屋に拭われた跡があった床は、貴江社長に成り済まし日下に刺された時に使用した血のり。


「あんたはウィンドブレーカーを着て廊下に出て、俺とすれ違った。あの時顔を見られたくなくて背を向けたのかと思ってたが、気づいたんだ。あれはもしかして女で無意識に胸を庇おうとしたんじゃねぇか、ってな」


そうか…。
それであの時オッチャン…。
その後もオッチャンの推理が続く。


「あんたはそのまま地下へ行き、日下の上に跨っている会長の両足を持って」
「両足?」
「そう。両足がブレないようにナイフを持って、」
「…そうそう!ナイフで背中を刺したんだ!」


…なんの疑問も持たずに続けてくれて助かるぜ。


「その後あんたがすぐに姿を消したんで、日下は自分がやったと思い込んだんだ。全てあんたの思惑通りに」
「…さすが名探偵の毛利小五郎さんね」


犯行を認めた美波子さんが、語り出す。


「あの男は船と運命を共にした父を時代錯誤だと非難していたのよ。父を侮辱するものは誰であっても許さない…!」
「許せねぇのはあんたの方だ。3人の命を奪っただけじゃなく、大勢の罪のない人たちを危険に晒し、しかも自分が設計した船を沈めてまで…」
「何度も綿密にシュミレーションしたわ!爆弾の数、浸水する海水の量、避難にかかる時間、そして導き出したのよ!あそこでこそこそしてる男がこの大海原で父のように孤独と絶望に苛まれるこのシュチュエーションをね!…それに、アフロディーテは泡から生まれた女神。泡に帰る運命なのよ。もうここまでわかってしまったなら仕方ないわね。潔く自首するわ」
「………俺は女とは戦わねぇ主義だが」
「それって差別じゃない?」


くそっ!声が途絶えた!
時々漏れる音は肉がぶつかるような乾いた音と、うめくようなオッチャンの声。
…オッチャン…!


「そろそろ終わりにしましょうか、毛利小五郎さん。…名探偵のそんな姿、あまり見たくないもの」
「余計なお世話だ」


…いた!あそこだ!!
そのままモービルを乗り捨て、傾いた船体を駆け上がった。


「オジサンッ!!」
「えっ!?」
「…でやぁぁぁぁぁ!!!」
「あぁぁ!!?」


一瞬の出来事。
俺の登場にオッチャンから意識を外した美波子さんを、オッチャンが一本背負いで投げ飛ばした。
…これで、本当に事件が終わる。


「オジサーーン!!大丈夫!?オジサン!!」


名推理だったぜ、オッチャン!


「あれ?オメーどうしてここに、」
「それよりオジサン!早く逃げなきゃ!」


な、んだ…?
何か、今…。


「ダメだ!救命ボートは全て出払ったし、ライフラフトはこの女が壊しちまった…!!」
「キャプテーーン!!キャプテーーン!!」
「…助かった…!!」


逃げて来ない船長を心配したスタッフが救命ボートで迎えてに来てくれた声だった。
だが…。
なんだ?この感じ…。
事件も解決したのに…。
なんなんだ?この居心地の悪いもやもやした感覚は…!


「直に沈みます!急いで!!」
「おい!次はお前だ!急げ!」


俺たちを迎えに来た救命ボートに乗る瞬間、足が止まった。


「何やってんだ!早く乗れ!!」
「ね、ねぇ…。あおい、姉ちゃん、は?あおい姉ちゃんは?」
「は!?あおいならとっくに救命ボートに、」
「え!?お父さんあおいと一緒じゃないの!?」
「お、おい、どういうことだ!?」
「かくれんぼで隠れた場所に金メダルを取りに行ったの!だからお父さんと一緒だと思って…!」


それか!
あのバカ女っ…!!


「おい!ちょっと待てっ!!」


傾いた船内をもう1度駆け出した。

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