キミのおこした奇跡side S


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紺碧の棺


この手で救いたい


「あおい姉ちゃんは?」


島に着くと港には救急車が待機していて。
蘭があおいに付き添い病院へと行った。
もし神海島で対処が出来ないような症状なら警視庁のヘリだがいつでも飛ばすから連絡をくれ、と目暮警部が言ってくれたが、運良くここでも治療が出来る程度の傷だったようで、そのままここで治療をしてもらうことになった。


「今寝てるよ。薬が効いてるのと、疲労もあるだろう、って」


蘭の話しを聞くと少しだが、縫う必要がある傷だったらしい。
痛かっただろうか、とか。
怖かっただろうか、とか。
そんなことしか頭に浮かばなかった。


「今日は私がここに泊まるからコナンくんは宿に帰っていいよ。きっとみんな心配してる」
「…でも蘭姉ちゃんも疲れてるでしょ?」
「私?鍛え方が違うからアレくらいじゃまだまだ!なんなら今からかかり稽古10人くらいしましょうか?」


そう言って笑う蘭。
かかり稽古はまぁ、大げさだとしても、蘭の顔を見るときっと本当に大丈夫なんだろう。
それくらいどこか…、すっきり、とでも言うのか、そういう表情が似合う顔をしていた。
じゃあ俺も宿に帰るか。
蘭の言う通り、きっとアイツらも心配して


「あ、」
「うん?」


そういやなんであの時…。


「どうしたの?コナンくん」
「…蘭姉ちゃんは、」
「うん」
「…どうして僕がボンベを持ってないって、気づいたの?」


あの時、蘭がソレに気づいてくれたから今こうしてピンピンしてるわけだが…。


「あぁ、そのこと?」


くすり、と蘭が笑う。


「なに?」
「…コナンくん、そっくりだったから」
「え?」
「コナンくんてあおいのこと、大好きでしょ?」
「えっ!?」


穏やかに微笑みながら、蘭が言う。


「コナンくんが助けに来てくれる少し前、ちょうど考えてたんだ」
「な、なにを?」
「…新一だったら、こんな時どうするかな、って」


「俺」だったら…?


「あおいのことが大好きな新一だったら、真っ先にあおいを助け出すことを考える。…あの時のコナンくん、新一とそっくりだったから」
「そっくり?」
「ねぇコナンくん」
「な、なに?」
「あおいのどこが好き?」
「えっ!?ど、どこが、って僕は別にそんな、」
「コロコロとよく表情が変わって、小さくってなんだかふわふわしてて、一生懸命なのにどこかそそっかしくて危なっかしいところがあって!…見てるとついつい、助けたくなっちゃう。…違う?」
「…そう、かも、」
「でしょう?…女の私から見てもそう思うんだもん。コナンくんや…新一だったら、きっと真っ先にあおいを助けると思う」


どこか困ったような顔で、蘭が笑った。


「あの場面で新一だったら間違いなく、あおいにボンベを渡すと思う。…たとえ自分のボンベが無くても痩せ我慢して、ね」
「…」
「あおいの一挙手一投足に一喜一憂する新一なら、絶対にそのことをあおいには告げずに…あおいの安全を最優先させると思うの」
「…そう、かな」
「そうよ。…その新一と、そっくりだったんだよね、コナンくん。あおいを助けようって、あおいを安心させようってする時の顔が、あおいに綺麗に振り回されて焦ってる新一と同じだった」


悪かったな、振り回されてて…。


「でも決め手はあおいの一言かな?」
「え?」
「コナンくんのボンベをちゃんと確認したか聞いてきたの」
「…あおい姉ちゃんが?」
「そう。…私の直感と、あおいの直感が同じだった。だからやっぱり、ボンベは2つしかないのかも、って」
「…うん…」
「私もなかなかの推理力でしょ!」


そう言ってふふっと柔らかく笑う蘭。
「俺」だったら。
確かにあおいを助けると思う。
でも、


「あおい姉ちゃんだけじゃないよ」
「うん?」
「…僕は蘭姉ちゃんにも助かってほしかったんだよ」
「…ありがとう、コナンくん」


命は選べるものじゃない。
同等であるのならば、「皆平等に」助けたいと願う。
それは俺の偽善であり、蘭に対するある種の欺瞞とも取れる。
だがこれは本心であり、…俺の手で救えるものがあるならば、1つ残さず、救いたいと思う。


「コナンくーん!大丈夫だった!?」
「コナン!姉ちゃんたちは!?」
「みんな無事ですか!?」
「…あぁ。あおい姉ちゃんたちは、」


宿に帰ると何故か玄関前にみんな立っていて。
あおいのことやお宝のことを簡単に告げるとじゃあ明日帰る前にお見舞いに行こう、って話になった。
最も先生の話だと本島に連絡取ったから抜糸もそっちで出来るとかで、容態さえ良ければ明日一緒に帰れるんだけどな。
そして翌日。


「あの子たちは私と博士が連れて行くから」
「え?」
「気になるなら先に行けば?」
「えっ!?」


なかなか起きてこない元太たちに少しイラついてると灰原にさっさと病院に行けと言われた。
…まぁ、助かるからそうするんだけどな。
病院に着くとちょうど蘭が病室から出てきたところで。


「蘭姉ちゃん!」
「コナンくん!おはよう!今ちょうどあおいも目を覚ましたところよ?」
「ほんとに!?」
「きちんと受け答えもしっかりしてたし、もう大丈夫そうだったよ」
「そっか…」


蘭の一言に、心底ホッとした自分がいた。
その後先生を呼びに行くから、と言われ1人病室に入る。


「あおい姉ちゃん気がついたって!?て、どうしたの!?どこか痛いの!!?」


あおいは天井を眺めながらただ静かに涙を流していた。


「なんで泣いてるの!?あおい姉ちゃん、大丈夫!?」
「…」
「え?」


俺の方を見て何かを言おうとしたあおい。
だが声が上手くでないようだった。


「あおい姉ちゃん?」
「助けてくれて、ありがとう」


目に涙を浮かべながら言うあおいの顔をただ見つめていた。


「私、『あなた』のことが大好き」


そう言った直後目を閉じた目じりから溢れ出た涙が一滴、流れ落ちた。
……………えっ!?


「あ、え、お、俺もっ」
「あおいー?先生連れてきたよー?先生、お願いします。あ、コナンくん邪魔になるから外に出てようね」
「えっ!!?」


蘭がひょいっと俺を抱き上げ廊下に連れて行かれる。
…あれ!?
俺今コナンじゃねぇか!?
えっ!!?
「コナン」が好きってことなのか!!?
あれっ!!?
「俺」のことはっ!!?


「コナンくん顔赤いけどどうしたの?」
「えっ!?い、いや、別に何も…」
「そう?」


あおいの言葉の真意がわからないまま、この日神海島を後にした。

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bkm

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