キミのおこした奇跡side S


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紺碧の棺


300年目の航海


「地震!?」


しばらくしてその地響きは収まったものの、


「早く逃げなきゃ!あの人たちも連れて行きましょう!」
「うん!」


今の地震で岩盤がズレ、海水が俺たちのいる場所に勢いよく流れ込んで来た。


「あおいはコナンくんと一緒に、岩永さんも手伝って!」
「あ、あぁ…」


その瞬間、大きな振動と共にさらに複数箇所から海水が流れ込む。


「しまった…!!」
「そんな、入り口がっ…!!」


俺が入ってきた入り口が今の揺れで岩に塞がれてしまった。
…しかもガスが!!


「とにかく船に!急いで!!」


俺の言葉に蘭があおいの手を引いて、階段を駆け上がる。
…トレジャー・ハンターも含め、とりあえず船に乗り込んだものの海水の入り込んでくる勢いが想像以上に早い。
くそっ!
このままじゃ…!


「コナンくん、これからどうしよう?」
「…とりあえずあの人たちを船室に入れて、念のためにエアボンベの空気を吸わせておこう。ガスを吸い込まないようにね」


チラッとあおいを見ると、腕を押さえながら壁に寄りかかっている。
…顔色がかなり悪いな…。


「蘭姉ちゃんたちはコレを使って」
「え?何?これ?」
「阿笠博士が作ってくれたエアボンベだよ。…あおい姉ちゃんもコレ持って」
「…は…」
「え?」
「コナン、くん、は?」


あおいは腕を押さえながら聞いてくる。


「コナン、くんは?」
「僕のもちゃんとあるから大丈夫!…ここから出たら、すぐにお医者さんに診てもらおうね。だからもう少し頑張って」
「…」


あおいにしっかりとエアボンベを握らせた時、洞窟内の明かりが消えた。
…くっそ、どうする!?
このままじゃガスで…ガス!?
…ガスは恐らくメタンガスだから、天井付近に溜まってるはず!
そのガスを使えば…!
何か、何かないか!?
…あった!


「蘭姉ちゃん、よく聞いて!」
「なに?」
「海水が流れ込んでる、ってことは岩はそんなに厚くないと思うんだ。だからガスを爆発させ天井を壊し、この船ごと…」
「天井を壊す?…大丈夫なの!?」
「わからない…。でも、このままじゃ全員ガスでやられるか海水で溺れるのを待つだけ。どうせダメなら…」
「…やってみるしか、ないのね。…どうすればいいの?」
「僕がこれから、あそこにある鎖の破片を蹴り上げて天井にぶつける。上手くいけば火花が散ってガスが爆発するはずだから蘭姉ちゃんはあおい姉ちゃんを連れて船室に入ってボンベで呼吸してて。…たぶん、爆発したら周りの酸素が一気に無くなっちゃうと思うから」
「うん。コナンくんは?」
「大丈夫!僕は鎖を蹴り上げたらすぐに船室に飛び込むから!…だからあおい姉ちゃんをお願い」
「……わかった」


薄暗い中で蘭が船室に入って行くのを見届けた。
…上手くいく保障はどこにもない。
だが、これに賭けるしかねぇ…!


「準備OKよ!コナンくん!!」


蘭の言葉に頷き、大きく深呼吸をする。
…よし!!
キック力増強シューズのダイアルを最大にして、助走をつけて蹴り上げた。
それと同時に蘭が扉を開けて待つ船室へと駆け上がる。
蘭が手を差し出し、それを手に取ろうとした瞬間、


「うわーーーーー!!!?」


思惑通りの爆発が起こり、蘭もろとも船室内に吹き飛ばされた。
その後は一瞬の出来事だった。
轟音と共に、船室内に海水が流れ込み、同時に船体が浮き上がっていくのを感じた。
海水に飲まれた船内を見たら、完全に意識を失ったあおいがボンベを咥えたままゆらゆらと海水の中を漂っていたのが見えた。
…これできっと、アイツは助かる。
そう思った瞬間、息を止めているのにも限界が来てゴホッと吐き出した。
あぁ、でもアイツが助かるならそれで…。


−工藤くん−
−にゃー−


海中だから、誰かの声なんて聞こえるはずがない。
でも、はっきり聞こえたんだ。
優しく俺を呼ぶあおいと、呆れたように俺を見て鳴く、イチの声が。
その直後、蘭に抱えられ、ボンベを咥えさせられていたことに気づいた。
そして300年間、地底に眠っていた海賊船が日の光を浴びた。


「らーーーん!!!大丈夫かーーー!!?」
「私は大丈夫ー!!それよりあおいが」


オッチャンや警部たちを乗せた救助船も近くまで来ていて。
あぁ、やっと終わった。
これであおいを医者に診せて、と思った時だった。


ドーーーン


「みんな逃げろー!!」
「あおいっ!!」
「急いで!!」


船が音を立てて崩れ始め、その姿を瞬く間に変えていった。
救助船に乗り込み、あおいは蘭と共に医務室へ連れて行かれた。
このまま島の病院へ直行してくれるらしい。


「で?あったのか、お宝は?」
「あれがお宝だったんじゃないの?…てゆうか、アン・ボニーが残したあの地図。ほんとは宝の地図なんかじゃなくて、監獄に残してきたメアリ・リードに向けたメッセージじゃなかったのかな?」
「……なーにわかったようなこと言ってんだ!こんニャロォ!!」
「痛い痛い痛い痛い!」
「いやいや、あながち間違ってはいないかもしれん。…恐らくあの船は後から脱獄してくるはずのメアリと2人で再び七つの海に繰り出すのを夢見てアンが建造した船だったんだろう。しかし結局メアリは獄中で病に倒れて息を引き取り、アンもメアリを待ち続けたまま、亡くなってしまった。そして後に残されたあの船は、大海原に解き放たれる日を、海底の棺のような洞窟で待ち続け、300年後の今日、最初で最後の航海へ出て、キミ達を海面まで送り届け、2人の主人を追うように姿を消した。…似合わんこと言ってしまったな。忘れてくれ」


そう言って去っていく美馬さん。


「まぁ300年経った今ではそれが本当かどうかわかんねぇがな!」


…いや。
アンがメアリを待っていたのは間違いねぇぜ、オッチャン。
その証拠にジョリー・ロジャーの髑髏の下に描いてあるじゃねぇか。
アンとメアリのピストルとカットラスがな…。
島に着くまでの間、再び深い深い海へと沈んで行った海賊旗を惜しむかのように、俺たちはいつまでも海面を見つめていた。

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bkm

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