キミのおこした奇跡side S


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紺碧の棺


相棒


「痩せた海賊は笑う、だって」


無事2個目のスタンプを押し、次のポイントへの暗号は「痩せた海賊は笑う」というカードだった。
その時、洞窟の入り口で灰原が俺だけが気づくように合図を送ってきた。
…なんだ?


「どうした?灰原」
「今、ウェットスーツの人が血だらけで運ばれてったわ」
「なに!?」
「あおいさんかどうかは、わからないけど」


やっぱり俺も無理言ってでもついて行けば良かった!
くそっ!!
気持ちばかりが焦りなかなか病院に辿り着かない。
…あおいっ!


ガラガラガラ


「あ、」
「ハァ、ハァ…、あおい、姉ちゃん!蘭姉ちゃんも!」
「コナンくん。哀ちゃんも…」


島内唯一の「病院」に駆け込むと、ウェットスーツを着たあおいと蘭が立っていた。


「だ、大丈夫なの!?」
「うん、私たちはね」


あおいがそう答えた直後、ガチャ、と扉が開いた。


「どんな具合?上平さん!」
「おー、喜美ちゃん!喜美ちゃんも一緒だったのかい?」
「ううん。私は近くでこのお客さんたちと潜ってたのよ。でもビックリしちゃったわよ!サメが人を襲ってるんだもの…!しかも3人もいたのに襲われたのは1人だけ、なんて」
「どういう意味だ!?」
「別に」
「しかし参ったなぁ…。もう何年もサメの被害なんてなかったのに…」


あおいたちを潜らせてたイントラ・喜美子さんの話。
とりあえずあおいたちが無事でひと安心した。
だが確かにひっかかる。
未だ信じられない、と言っている上平さんや喜美子さんたちを尻目にドアを開けて室内に入る。
そこには破れたウェットスーツが置いてあった。


「どうかした?」


俺の後に続いて室内に入ってきた灰原の方を向く。


「喜美子さんが言っていた3人潜っていて、襲われたのは1人だけってのがなぁ」
「偶然じゃないの?」
「アイツらもプロだったらサメの対処の仕方くらいわかってるハズだろ?」


…ん?


「何かあった?」
「ビニール袋だ…。…魚の血か」
「それが原因のようね」
「あぁ。薄いビニール袋に魚の血を詰め、軽く封をしてジャケットの間に仕込んでおく。水圧は10メートル毎に1気圧ずつ増えていく。水面ですでに1気圧あるから、10メートル潜れば2気圧。30メートルなら4気圧。そんな水圧を受けたら、こんなビニール袋の封なんか一たまりもなく外れてしまう。サメは数キロ離れたところの音を聞き分け、100万倍に薄めた血の臭いを嗅ぎ取る嗅覚を持っている」
「…殺人事件…」
「あぁ…。まだ未遂だけどな…」
「コルァァ!!メガネボウズ!2人っきりでこそこそと何やってんだぁ!」
「事件だよオジサン!」
「なぁにぃぃ?なんでソレを知らせなかったんだあらっ!?」


ドサッ!!


「この名探偵の毛利小五郎にぃ…」
「は、ははっ…」


このオヤジ真っ昼間から飲んだくれて千鳥足になって窓枠超えられず落ちたぞ…。
ほんっと、頼むぜ迷探偵。


「んーー?でっけぇ口だなぁ!しかしなぁ、サメに食いつかれたってんなら事件じゃなくて事故なんじゃねぇのか?」


もっとよく調べろよ、へっぽこ探偵…。
はぁ…。


「あ!」
「あ?…なんなんだよ?あ!って?」


見かねた灰原が証拠品をこっそりとウェットスーツの上に戻してくれた。


「あ?なんだこりゃ?」


ほんっと、やれやれだぜ…。


「ど、どうですか!?先生!」


俺たちが待合に戻った時、タイミングよく手術を執刀していた医師も出てきたようだった。


「手は尽くしたんだが…、なにぶん出血が多すぎた。お気の毒です」
「…なんてこった!死亡事故が起きるなんて!」
「いやコレは事故ではありません」


…とてもさっき酔っ払って窓から落ちた人間とは思えねぇな、おい。


「あ、あなたは名探偵の!」
「毛利小五郎です」
「お父さん…」
「お、おい、事故じゃないってどういうことなんだ?」
「何者かがサメをおびき寄せてあなた方を襲わせた。このBCジャケットに仕込まれたビニール袋の中の魚の血でね。…あなた方はトレジャーハンターだそうですな?いろいろと裏がありそうです」


そう言いながらトレジャーハンターに詰め寄るオッチャン。


「ねぇあおい姉ちゃん」
「え?」
「普段BCジャケットってどこに置いておくの?」
「そう、だねぇ…、ホテルの部屋に持っていくわけにもいかないし…」
「この辺りだとダイビングショップに預けていくんじゃないかな?ボンベにエアを入れてもらうついでに」
「へぇ…」


つまり保管状況によっては誰にでも犯行は可能、ってことか。
そう思った俺はその足で喜美子さんたちの店に行き、BCジャケットの保管場所を見せてもらった。
…BCジャケットに細工をしたとしたらここでだろう。
持ち去って細工をしたとしたらリスキーだ。


「ちょっと工藤くん」
「え?」


振り返るとドアのところにいた灰原が来い、とジェスチャーをしていた。
外に出る灰原について行く。


「どうした灰原?」
「コレ見て」
「え?」
「ここで器具の海水を洗い落とすから、いつもぬかるんでるみたいね」
「悪いけどコレで写真取っといてくれねぇか?俺他に調べることあるから」
「あら?いつあなたの助手になったの、私?」
「いや。助手じゃなくて、相棒かな?」
「…調子良いこと言っちゃって」
「じゃ、頼んだぜ!」
「はいはい」


あっちは灰原に任せて、俺は再び店内へと入っていった。

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