■2人の女海賊
「それにしてもなんでまた、トレジャーハンターなんかが来てるんすかね?」
「宝が見つかったんですよ。2週間ほど前に」
「じゃあ、海底宮殿で見つかった銀の食器って本物だったんですか?」
「どうもそうらしくて」
そういやそんなニュースしてたな…。
「あそこに小さな無人島が見えるでしょ?あれが頼親島です。あそこから東に200メートルほど行った海底に巨大な石で出来た建造物らしきものが沈んでいるんです。神海島の近くに古代の遺跡が沈んでいると話題になり始めたのが今から10年ほど前になります。何人もの学者が来て調査して行きましたが、人工のものか、自然の悪戯か、まだ結論が出ていないようです。頼親島も以前はもっと大きく海上に突き出していたようですが、300年程前の地震で海に沈み、今の形になってしまったそうです」
「300年前に沈んだって、地すべりでもおこしたの?」
「あぁ。なんでもあのあたりの海底にはメタンハイドレート層というのがあるらしくて、地震のショックでそれが一気に分解して地すべりを起こしたって説が有力らしいよ」
低温で高圧な環境の下、水の分子がメタンを取り込んで籠構造を作ったもので、燃える氷と呼ばれているメタンハイドレート。
それがこのあたりの海底にあるのか…。
「ね、ねぇコナンくん」
「うん?」
「メタンハイドレートって、何?」
「あぁ…。大雑把に言うと、トランプでお城を作ったことあるでしょ?あんな感じに水の分子で城を作って、その部屋の1つ1つにメタンを取り込んだようなものだよ。だから温度が上がったり圧力がかかったりするとぺっちゃんこに潰れてメタンが放出されちゃうってわけ」
理解できたんだかできてないんだか、あおいが微妙な顔をしていた。
「コホン」
あ、
「って、テレビで言ってたんだー!」
「そうなんだー!コナンくん難しい番組好きだよね」
灰原の咳払いでハッとし、あおいと蘭に言い聞かせるように言ったことに蘭がニコニコと答えてくれた。
…危ねぇ危ねぇ。
この間のこともあるし、もっと小学生らしくしてよ。
「さっきのホテルと随分違うな…」
「ですね」
岩永さんに連れてきてもらった先はいかにも「民宿」って感じの家だった。
まぁ…、泊まれるだけありがてぇと思わないとだな。
「あぁ、美馬さん。さっき電話した毛利さんご一行です」
「一泊二食つきで5000円。嫌ならヨソへ行け」
「ち、ちょっと!美馬さん!」
「…偉そうな奴」
あんたが言うな…。
「すみません。良い人なんですがちょっと偏屈なところがありまして。…えぇーっと、宝探しゲームに参加される方は?」
「「はーい!!ん…?はーい!!」」
元気よく手を挙げた歩美、元太、光彦。
そしてなかったことにしたい俺と灰原。
だがやっぱりそこは強制参加らしく、有無を言わさず手を挙げさせられた。
ぶっちゃけめんどくせぇんだけど…。
「お嬢さまたちはダイビングでしたね?」
「はい」
「すぐに行かれるなら車で送りますけど」
「お願いします」
あーあぁ、俺もダイビングしてぇ…。
なんだって宝探し、しかも「ゲーム」!
まだ海底宮殿にある宝を見つけに行く方が燃えるってもんだ。
「毛利さんは?宝探しゲームされます?」
「いや。どこか地酒があって美人女将のいる店を教えてくれ!」
俺もオッチャンくらいの自由人になりてぇよ…。
そう思いながら、それぞれのプランを楽しむべく、あおい、蘭と別れた。
「今から270年前の享保年間、海底宮殿が水面に出ていたという説があります。その根拠となっているのは海底宮殿で発見されたカットラスという刀と、ピストルがあります。このカットラスとピストルに刻まれたイニシャルからこれは1730年頃に活躍した2人の女海賊、アン・ボニーとメアリ・リードのものであると思われています」
「「「うわぁー!」」」
「彼女達はヤックラカム船長率いる…」
2人の女海賊ねぇ。
そう言われて浮かんだのは空手で相手を次々と伸していく蘭と、何故か射撃の腕(だけ)はプロ級のあおいの姿だった。
…ははっ。
俺がやられねぇように気をつけよう…。
「バハマの監獄を脱出したアンが太平洋に拠点を移し、海賊として活躍しながらメアリが脱獄してくるのを待っていた、という説とも一致することから、2人が奪った宝物をこの神海島に隠したと言われているのです」
「…本物なのかしら、これ」
「さぁなぁ?もしそうなら大変なことだぜ?」
「島の宣伝のためのやらせだったり?」
「え、……それはそれで大変なことになるな…」
「どっちみち大変なのね」
「ごめんごめーん!随分待たせちゃうわぁ!?」
岩永さんがまたベタに転んで登場した。
「はい!これが宝探しマップ。ここからスタートして、地図の中に隠されている5箇所のポイントでスタンプを押してその謎を解くんだ。まず最初のポイントはそこ!そこのスタンプを地図の下の余白に押して、隣の宝箱の中から次のポイントのヒントカードを取ってね」
「子供だましね」
「まぁそう言うなよ…。アイツらヤル気まんまんなんだから」
「10と12?これが宝のありかを示す鍵ですか?」
「次のポイントはー…、夕日が落ちずとも 海賊はかがやく…なんだコレ?」
「ま、がんばってね!宝物のありかが分かったら特別のプレゼントがあるから」
「と、特別のプレゼントって食いモンか!?」
「それは正解した時のお楽しみ!」
「よーし!頑張るぞー!」
「まだ食べ物とは決まってませんよ?」
「ねぇ、オジサン!」
「え?なんだい?」
「この暗号って、オジサンが全部考えたの?」
「え?まぁね。あぁ、そうだ!隣の役場にレンタル自転車があるから乗っていってね!歩いて回るのは大変だから」
「「「はーい」」」
岩永さんが考えた暗号…。
とりあえず、自転車借りて夕日が見れる場所にでも行くかなぁ…。
そう思ったのは俺だけじゃなく、光彦も同じだったようで。
「ヒントに夕日とありましたから、島の1番西に来てみましたけど…」
お?アレは…、なるほどね。
「そうか、わかりました!」
「ん?」
「ヒントは夕日は落ちずとも海賊はかがやく!でしたよね?ずばりそれは、海面です!!」
「そっかー!」
「…それで?」
「…えっ!?」
「海の上にスタンプがあんのかよ?」
「あー、やー…、あるわけありませんよね?あははは、はぁ…」
「そっかぁ…あ!見てあれ!何かな?」
歩美ちゃんの指差した方には、魚の群れ。
光彦は良い着眼点では、あったよな。
「なるほどな」
「え!?」
「なるほどって何かわかったんですか!?」
下へと続く階段を降りながら説明する。
「魚が集まってるのはどうしてかわかるか?」
「どうして、って…」
「みんなで遊んでいたのかな?」
「腹が減ってみんなで餌でも食ってたんじゃねぇのか?」
「ピンポーン!で?その餌ってなーんだ?」
「プランクトン?ですか?」
「当たりだ」
階段を降りきると、ちょっとした洞窟のような場所に出た。
「見ろよ」
「え?…わぁー!」
「海ほたるですね!そうか!夕日が落ちずとも海賊はかがやくってのは、ここのことだったんですか!」
「あったぞ!」
推理通り、宝箱を見つけて、2個目のスタンプを押した。
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bkm