■I は暗闇の中で
「だぁっ!?はぁ…はぁ…」
「…3時間20分。いつもより20時間以上短いわ」
「俺は…、幻覚を見ていたのか?」
「えぇ。あなた、解毒剤を飲んで元の姿には戻ったけど、意識不明のままずーっと魘されていたわ。幻覚を見たのは恐らく熱が高すぎたせいね。解毒剤が効くには風邪の症状が必要だけど、熱が高すぎてもダメみたい。お陰で、貴重なデータが得られたわ」
「…疲れたぁ…、帰って寝よう…」
コナンの服を着て、探偵事務所に戻ろうと、博士の家を出た。
途中、自宅の庭の木を見ると、やっぱりいつもの高さだった。
…あれ?
門が開いてる…?
俺開けっ放しにしてたっけ…?
そう思いながらも、手にした制服を置きに自宅に戻った。
瞬間、
「ぎゃーーー!!?」
「どーしたっ!!?」
書斎からあおいの悲鳴が聞こえてきて。
慌てて書斎に行ったら…。
「何してるの?あおい姉ちゃん…」
「あ!コ、コナンくん!」
本に埋もれているあおいがいた…。
「も、もう熱大丈夫なの?」
「…てゆうかあおい姉ちゃんが大丈夫なの?」
「私!?私は大丈夫、大丈夫!…コナンくんは?」
「僕も大丈夫だけど…」
コイツ人んちで本に埋もれて何やってんだ?
「コナンくん、熱で大変みたいだったし、蘭は蘭で部活あるみたいだし、おじさんはおじさんで仕事が忙しいみたいだから何かお見舞いでも、って思って、そう言えば前に書斎に有希子さんが愛用してたレシピ本があったな、とか思って探してたら、たまたま見上げた棚にずっと読みたかった本があって、それを取ろうとしたらまさかの雪崩が発生してこんな状態です」
すっげぇコイツらしくてさっきの疲れと相まってため息が出た。
その後雪崩れてきた本を一緒に本棚に戻した。
「疲れたー!」
「あおい姉ちゃん自業自得でしょ」
「…そうだけどさ」
口を尖らせるあおい。
−ずっと待ってたんだよ。…工藤くんが、本当のこと言ってくれる日を−
アレは幻覚だ。
…でも、本当にそれで済ませていい、のか?
−野良猫のままにさせておくつもりなら、遠慮なく俺の宝石箱に入れさせてもらうぜ?−
あおいがこのまま、手の届かないところにいくんじゃねぇか?
…やっぱり、まだ体調悪ぃな。
なんかネガティブになってる。
「コナンくん?」
「え?」
「もしかして熱、上がっちゃった?」
そう言って「俺」の顔を覗き込むあおいはやっぱり、出逢った頃と変わらない漆黒の瞳。
あの頃と同様に黒い黒い、まるで暗闇の中にいるかのような濡れた瞳には、確かに「俺」が映っていた。
「コナンくん!?」
「…ごめん、少し、こうさせて」
「……か、風邪、引いちゃう、よ?」
「もう引いてる」
そして相変わらず、桜の花の匂い。
「この匂い、」
「え?」
「…なんだか落ち着く…」
そう言った後、再び意識を手放した。
その後見たのはあんな幻覚なんかじゃなく、あおいとイチがくるくると桜の木の下で歌いながら踊っている夢だった。
「ぶ、えーーっくしょんっ!!!」
「…コーナーンーくーん?これは自業自得よ?熱があるのに黙って家を抜け出したからまたぶり返すの!」
「ごめんなざーい…」
「もう!今日はちゃーーんと寝てるのよ!?」
「ばーい…」
そしてさらに風邪が悪化した俺は、蘭から外出禁止令を出されて寝込むこととなった。
もう言葉も全部濁点がつくくらい喉も鼻もやられてる。
いろいろと考えるべきこと、あるけど。
今はゆっくり休もう。
そう思い、新出先生が出してくれた薬を飲み眠りについた。
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bkm