キミのおこした奇跡side S


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10年後の異邦人


衝撃の事実


「おー!やっと来たか!」
「…えぇ!?」
「あー!やっぱりどこかで食べてきたんですね!?」
「え?」
「お休みの間でも毎週火曜、木曜は集まってお昼を食べる、ってみんなで決めたのにね?」
「え?え?え?」
「俺なんか食いてぇの必死に我慢したんだぜ?」
「元太くんのうな重の臭い!部室棟に来るまでぷんぷん臭ってましたよ!」
「お弁当にうなぎ入れてくるの、元太くんくらいだもんね!」


そう言って笑う、目の前の3人組。
…この顔、この内容、何より「元太」って…!
なんでコイツら高校生の姿してんだ!?


「あれ?コナンくん、なんか変」
「コナン!?」
「メガネかけてないからですねぇ!」
「なんでメガネ外してるんだ?」


そう言われて自分の胸ポケットを見ると、メガネが入っていて。
それを取り出すと、いつもの、「俺」がかけていたメガネだっていうのがすぐにわかった。


「やっぱり、その方がコナンくんらしいよ!」


メガネをかけた「俺」にそう笑う、歩美ちゃん。
鏡に映る自分の姿を見ると、そこにはメガネをかけた「俺」の姿。
…まさか。


「オメーら!もしかして俺たち、高校2年生か!?」
「「「…あはははー!!」」」
「何言ってるんですかー!」
「当たりめぇだろ!」
「やだぁ、コナンくん!」


…そうか、これは夢だ。
恐らく灰原から電話がかかってきたところから夢なんだろ?
…いてててて!
試しに自分の頬をつねるも、痛みは確実にあって。
…どういうことだ!?


「ちょっと。邪魔なんだけど」
「え?は、灰原?………灰原!ちょっと来てくれ!」
「え?」


部室に入ってきた灰原を外に引っ張り出す。
…どういうことなんだ!!?


「一体どうなってるんだ!?俺は工藤新一のはずなのに、なんでコナンのままなんだ!?しかも俺もお前も小学1年でなく、なんで高校2年なんだ!?」
「…あなたの言っている意味、よくわからないけど、この10年のこと聞きたいのなら教えてあげるわ」


10年!?


「例の組織とは決着がつかないまま、私たちは中学、高校と進んできたわ」
「え!?」
「その間、あなたは私が作ったAPTX4869の解毒剤で何度か元の姿に戻ったけど、いつしか耐性ができてしまって、この5年ほどは、全く戻れないでいる」
「なっ…!?」
「…なんか相当ショックを受けたみたいね?あなた、記憶喪失にでもなったの?…今日もみんなで会議するとか言ってるけど、帰って休んだ方がいいんじゃない?」


そう言って、灰原は去って行った。
…10年?
「あの日」から、10年後だって言うのか?
じゃあ「俺」は…?
灰原の言葉に何も考えられなくなりフラフラと歩いていたら、大型テレビに、服部が、いや、俺が知ってる服部よりも少し大人になった服部と、和葉が映っていた。


「ここもなんか古くなったような…」


とりあえず「俺」の(昔のかもしれねぇけど)居住場所、毛利探偵事務所に来てみた。


「なんだぁ、オメー。やけに早いな」


オッチャン…。
昼間っから飲んだくれてんのは変わんねぇな…。


「はぁん!さてはあんたもついに『探偵クラブ』卒業する気ね?」
「そうなの?コナンくん」


ら、蘭と園子か!?
今日は会社が休みと言う蘭。
蘭が休みなら私も休みと言う園子。
相変わらずの2人。
…誰も俺を疑問視しない。
てことは俺、ずっとここにいたのか…。
…マジで?
俺マジで記憶喪失にでもなったんじゃ…?


「あーあ!ヨーコちゃんもついに結婚引退だ!酒でも飲まなきゃやってらんねぇよ!」
「私もビール飲もう!」
「あ、ちょ、園子!」
「蘭はいいわよ!新出先生がいるんだもの!私なんてほんっと男運ないったら…!」
「え!?新出先生って、新出医院の!?」
「…はぁ?あんたも知ってんでしょ?最近イイ感じだったけど、なっかなか先に進まなくて、この間煮え切らない蘭の態度になんと先生ってば順番すっ飛ばしてプロポーズしてきたのよ!」
「なにー!?蘭、お前も結婚する気か!?俺は許さんぞ!!」
「お父さん違うって!…もう園子ってば、この間のアレはそんなんじゃないって言ってるじゃない!」


…そうか。
蘭はちゃんと、新しい恋に、進んだのか…。
安心した反面、どこか寂しいような、不思議な感覚。


「…そう言えばプロポーズって言えば、あおいもやーっと結論出すみたいね?」


…え?


「あおいも結婚よ!結婚!」
「えっ!?誰と!?」
「誰、って、新一くんに決まってんじゃない!」


…は!?


「結婚て!?しかも新一って!!?」
「はぁ?さっきからあんたどーしたの?あの2人がつきあってんの知ってんでしょ?ずーっとどっかに出稼ぎに行ってたかと思ったら1年前にフラッと帰ってきて私や蘭もいる前でプロポーズしたのよ!でもなんでかあおいがそのプロポーズをのらりくらりとかわして、一時はどうなるのかと思ったけど、」
「そっか!あおいやっと新一のプロポーズ受ける気になったんだ…」
「そうそう。なんでも今日2人の思い出の場所に行って気持ちの整理して、結論だそうと思う、って。そんなにもったいぶってないでさっさと受けりゃーいいのに!」
「あおいにも何か考えがあるんでしょ」


な、なんだ今の会話!?
俺との思い出の場所に行ってプロポーズを受ける!?


「それってどこだ!?園子!…姉ちゃん」
「そんなこと知るわけないって、ちょ、ガキンチョ!」


ふざけんじゃねーよ!
なんだよ今の話!!
工藤新一は俺だっ!!
プロポーズなんてした覚えねーぞ!?
なのになんであおいは俺以外の「工藤新一」と結婚しようとしてんだよ!!?
その後は思いつく場所をくまなく探した。
探しても探しても、探し足りるなんてことなくずっとその人影を求めて走り続けた。
でも、


「どこにもいねぇ…」


あおいのマンションにももちろんいなくて。
どこに忘れてきたのかケータイを持ってねぇのが痛かった。
ふらふらと、本当の家である工藤家に戻る。
…けど、靴は当然なくて。


「…どこ行っちまったんだよ…」


カタン


「あおい!?」


物音に振り返ると、


「ニャー」
「イチ…」


闇に同化しそうな、黒猫がいた。

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