キミのおこした奇跡side S


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10年後の異邦人


試作品の服用


「へっ、くしっ!!」


一昨日の夜、泣き崩れた蘭につきあって雨に濡れた体をそのまま放置してたら、見事に風邪を引いた…。
その前の火事現場からの脱出での疲労もあったし、仕方ないことなのかもしれない。
…蘭は、泣くだけ泣いたらすっきりしたのか、自宅に戻る頃には「ありがとう」と笑顔で言ってくれた。


「大丈夫?コナンくん」
「うん、大丈夫だよ。昨日より熱下がったし、今日1日寝てたら治るよ」


蘭はこれから部活のようで、家を留守にするらしい。


「お昼はお父さんに頼んでおいたから、ちゃんと温かくして寝てるのよ?」
「わかったー。行ってらっしゃい」
「いってきます」


そう言って出て行く蘭。
…一昨日の蘭の言葉。
俺はどうするべきなのか、答えが出ない。
そしてキッドの言葉。


−キミの大事な大事なビッグジュエル、黒曜石の子猫ちゃん。野良猫のままにしておくつもりなら、遠慮なく俺の宝石箱に入れさせてもらうぜ?−


イラつくくらいのキザな言い回しだが、アレはたぶん、いや…、間違いなく、あおいを指しての言葉だろう。
俺が大事にしてる「黒曜石」なんて、他にねーし。
…白鳥刑事になってあおいと2人俺を追いかけて来た時、なんかあったのか?


−せめて新一とあおいが、ちゃんとつきあってくれたら…、私も前に、進めるのに−


答えをうやむやにせずに、すぐにでも行動に移した方がいいのかもしれない。
…て、考えまでは出るんだが、熱が出てそこから先うまく考えがまとまらない。
じゃあ俺は、何を、どうすればいい?
…どっちの「俺」が、どう、行動すれば、いいんだ?


「体調が悪ぃせいか、考えがどツボに嵌っていく…」


早いとこ風邪治さねぇとだな…。
そう思い、再び目を閉じた。


ピリリリリ


どのくらいそうしていたのか、枕元のケータイが着信を知らせる音で目が覚めた。


「もしもし?」
「寝てた?」
「…あぁ、灰原か…」
「風邪引いたんですって?」
「んぁ…」
「ちょうど良いんじゃない?」
「あ?」
「例の薬の解毒剤、新しい試作品が出来たの」
「れいのくすりの…、って、APTX4869か!?」
「どう?試してみる?」
「もちろんだっ!」


そう言って通話を切って、急いで着替えて博士の家に向かう。
APTX4869の解毒剤!
たとえ試作品でも構いやしねぇ!
とりあえず「工藤新一」の姿に戻って。
そしたらまずあおいと話合って、


「そうだ!服持って行かねぇと!」


博士の家に着く前に、自宅による。
…あおいも今日確か学校に用があるってメールで言ってたよな。
ならコレだ!


「博士は!?」
「用事があって出かけたわ。…ソレ、制服?」


博士の家に着くと優雅にコーヒーを飲んでいる灰原がいた。


「いきなり学校行って、驚かしてやろうかと思ってさ!」
「バカね。そんなことして、噂になったらどうするつもり?」
「じゃあ!早速!!」
「まず!…熱を測ってからよ!」


…めんどくせぇなぁ!
とは言えないから、黙って熱を測った。


「38度7分…。随分高いわね…」
「走ってきたからな!それで上がったんだろ?」
「大丈夫かしら?こんな高熱で」
「心配ねーよっ!さぁ!!」
「…薬の効力は、24時間。ただし、即効性で飲んだ直後から効き出すと思うわ」


トイレに篭って薬を飲む。
…よし!
これで、また工藤新一に戻れるぞ…!


ドクン


心臓が、一際大きな音を立て、一瞬気が遠のいた。
鼓動が落ち着いてから体を確認すると、でかくなっていて。
…よっしゃっ!
さっそく持ってきた制服に着替えた。


「あれ?灰原?灰原ー!…おっかしぃなぁ、どこ行っちまったんだ、アイツ?」


時計を見る。
効果は24時間。
…ま、いねぇのは仕方ねぇ。
こうしてる時間ももったいねぇし、学校行くか!
そう思い、博士の家を飛び出した。


「あ、れ?うちの木…、こんなに高かったっけ?」


自宅前を通ると、見慣れた木が、見慣れない高さになっているように感じた。
…コナンでいる時は見る角度が違うせいかな?
ま、いっか!


「あ、れ…?」


学校までの道を歩くと、こんなビルあったか?とか、このマンションいつ建ったんだ?ってことの連続で。
…やっぱガキの目線だと、気づかねぇこともあるんだな…。


「お?」


学校に着くと、生徒たちの間で名づけられたゴリラ(一応教師)が目の前を通りすぎた。
…ちょっと見ねぇ間に老けたなぁ…。


「あれ!?ここじゃなかったっけ!?」


内履きを取り出そうと自分のロッカーを開けると、知らない靴があった。
まさかしばらく休んでる間に、俺のロッカー取っ払っちまったんじゃ…!?
パパッと探してみるものの、やっぱり俺のロッカーは無かった。
仕方ねぇ、スリッパで行くか。
来客用のスリッパで校内を歩いていると、


「あれ?今日メガネは?」
「お、今日は1人なのか?」


部活で来てるらしい連中にすれ違ったんだが、意味わかんねぇこと言われた。
…メガネ?
俺学校でメガネなんかかけたことねぇぞ?
…とにかくあおいを探そう。
アイツが行きそうなところ、行きそうなところ、と校内を探し出し、ついには部室棟にまでやってきた。


「ん?探偵クラブ?」


そこには、俺がいたときにはなかったはずのクラブができていた。

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