キミのおこした奇跡side S


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世紀末の魔術師


好敵手


「コナン君!大丈夫かい!?」


声の方に振り返ると今駆けつけてきた白鳥刑事とあおい。
…あおい!?


「何してんだよっ!!」
「…ついてきちゃった?」
「はぁ!?ついてきちゃったじゃねーよっ!おまっ、何考えて、」


その時、目の端に映ったもの。
それは突然弾けとんだスコーピオンの銃と、その銃に刺さるトランプのようなカード。
…トランプ?


「どうし」
「さあ、ここから脱出するんだ!」


あおい…、の、わけねぇか。
いくらアイツが変装の名人でもあんなチビに変装できるわけがねぇ。
となると答えは1つ。


「コナン君!!!」
「あ、うん!」


そう返事をした直後、天井が崩れてきた。
その拍子に「奴」と離れちまった…!
アイツはスコーピオンを抱えて思うように逃げられない絶好のチャンス!
…でもこっちもあおいがいる。
…クソッ!


「白鳥刑事!!そっちから逃げてっ!僕たちはこっちから外に出るからっ!!」
「わかった!外で会おう!」


そう言い炎の中に消えていく白鳥刑事。
…俺たちもこうしちゃいられない!


「あおい姉ちゃんこっち!できるだけ頭を低くして着いてきてっ!!」
「う、うん!」


火の勢いは予想以上。
だが幸いなことにここは1階。
あおいの運動神経でも窓から飛び降りても擦り傷か運が悪くても捻挫くらいなはずだ。


「手貸して!」
「え?手?」
「僕が引っ張るからここをよじ登って窓から外に逃げるんだ!」
「…い、いやいやいや!いっくらコナンくんでも私を引っ張りあげるなんて」
「いいから早くしろっ!!」
「はいぃっ!!」


城内を走り回っていると、運良く火の勢いの弱い部屋を見つけることができた。
その部屋に飛び込むと、少し高い位置に窓があってそこから外に出れそうだった。
…問題はその窓にコイツをよじ登らせることと、そこから庭に降りさせること。
なんだが、出窓でもなんでもない窓の窓枠なんざたかが知れていて。
2人分支えながらバランスを取るなんて無理な話で。
あおいが窓によじ登れた!と、思った瞬間、2人とも庭に落下した。


「…ってぇ…」
「ご、ごめんねっ!大丈夫っ!!?」


どこが大丈夫に見えんだよっ!
大丈夫なわけねーだろっ!!?
だいたいオメーなんでついてきたんだよ!!!
と、叫びたかったが、


「大丈夫だよ」


なんて言ったのは、あおいがよじ登ってきた拍子に後ろの庭に倒れるように落ちたわけで。
それはつまり俺→あおいの順で落ちたわけで。
俺を下敷きに落下してきたあおいだけど、位置的に、現在燃え盛る城の庭であおいに押し倒されたような格好でいるわけで…。
俺の真上から覗き込むように無事を確認した後、ああ良かった!立てる?なんて起き上がって手を差し出してきたあおいに、すっかり怒るタイミングを逃してしまった…。


「あおいさん!コナンくん!」


その後安全と思われる、博士たちの車が止めてあるところまで戻ったらちょうど、白鳥刑事が車に乗り込むところだった。


「僕はこのままスコーピオンを警視庁へ連行します!キミ達はそのエッグを持って毛利さん達と合流してください!」


そう言ってあっという間に車を出した白鳥刑事。
…まぁ、こんなことしたコソ泥だ。
このままスコーピオンを殺したり、逃がしたりなんざ、しねぇだろう。
そう思って、白鳥刑事が置いていったカバンの前に来たら…。


「これ…」
「うん?…どうしたの?」
「夏美さんに渡してくれ、ってさ」


…やっぱりアイツは全て知っていて今回の犯行を行ったんだ。
正統な持ち主に返すために…。
だがなぁ、泥棒さんよ。
今どき慈善事業するコソ泥なんざ流行らねぇぜ?


「あおいー!」
「コナンくーん!」


いつの間に現れたのか、蘭や探偵団のみんなが、燃え盛る城に向かって叫んでいた。


「コナンくーんっ!!」
「なんだよ、うるせぇなぁ!」


その声に一同驚愕の表情で振り返る。
そして俺やあおいの名前を安堵のため息と共に呟いた。


「このエッグ、白鳥刑事がスコーピオンから取り返してくれたよ」
「白鳥が!?で、スコーピオンはどうした!?」
「逮捕して、車で連行して行ったよ。スコーピオンの青蘭さんを」
「な、にーっ!!」


「あの綺麗な足の青蘭さんが、」なんて言うオッチャン。
アンタその綺麗な足の姉ちゃんに殺されかけたんだぞ…。


「はい、これ。夏美さんに渡してくれって」
「ありがとう…」


夏美さんがエッグを受け取る。
世紀末の魔術師が子孫へ残した宝は、ようやく正統な持ち主の下へと渡った。


「夏美さん…。申し訳ありませんな。こんな事になってしまって…」
「いいえ。、お城は燃えましたけど、私には曾祖父が作った大事なエッグが残ってます。
…それに、地下室は無事だと思いますし…」
「…はい。落ち着きましたら、曾祖母様の御遺骨を喜市様と一緒のお墓に埋葬致しましょう」
「…とうとう現れなかったか。キッドの奴…」
「やっぱり、死んじゃったのかな…?」
「…いや、奴は生きてたよ…」


そう。
奴は生きていた。
神出鬼没で変幻自在の怪盗紳士。
堅い警備も強固な金庫もその奇術まがいの早業でぶち破り、おまけに顔どころか声から性格まで完璧に模写してしまう変装の名人。
…おもしれぇじゃねぇか。
強盗、盗難は俺の専門外だ。
だが、オメーには、興味がそそられるぜ?怪盗さん。
少しずつ崩れ落ちていく城を前に、新たな好敵手の存在を感じていた俺は、蘭が、どこか思いつめたような表情で俺を、俺たちを見ていたなんて、気づこうともしなかった。

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bkm

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