■Memories egg
「エッグならありますよ」
そういう白鳥刑事は持っていたバッグからエッグを取り出し、話を続ける。
「こんな事もあろうかと、鈴木会長から借りて来たんです」
「お前、黙って借りて来たんじゃねえだろうな!?」
「や、やだなあ。そんな筈無いじゃありませんか」
…なんだ、この違和感。
な、んか…、違和感が…。
「さっそく試してみましょう!」
白鳥刑事はセルゲイさんにエッグを渡す。
受け取ったセルゲイさんは、大きなエッグの中に小さなエッグをはめ込んだ。
「ピッタリだ!!」
「…つまり、喜市さんは2個のエッグを別々に作ったんじゃ無く、2個で1個のエッグを作ったんですね…」
仕掛けは、コレだけ、か?
「不満そうね」
「ああ…。あのエッグには何かもっと仕掛けがある様な気がしてならねえ…。それこそ『世紀末の魔術師』の名にふさわしい仕掛けが…」
だがどんな仕掛けが…
「それにしても、見事なダイヤですなぁ」
「いえ、ダイヤじゃ無いみたいですよ」
「え?」
「唯の硝子じゃないかしら、これ…」
…硝子?
待てよ…、そう言えば…。
エッグの蓋の裏のガラス…、喜市さんの部屋…、…光と仕掛け…そして、あの台!!
…間違いない!!
エッグの硝子はレンズの役割をする為のものだ!!
「セルゲンさん!そのエッグ貸して!!」
「またコイツ!!」
「まぁ、待ってください、毛利さん」
「あぁ!?」
「何か手伝うことは?」
「ライトの用意を!」
エッグを抱え台座に向かう。
「ライトの光を細くして台の中に!」
「わかった」
「セルゲンさん!青蘭さん!ロウソクの火を消して!!」
台座から漏れる光だけ残し、闇に包まれる地下室。
「一体何をやろうってんだ」
「まぁ、見てて」
台座から漏れる明かりを浴び、「メモリーズ・エッグ」が、その本当の姿を現し始めた。
「エッグの中が透けてきた…」
「ネジも巻かないのに、皇帝一家の人形がせり上がっている…!」
「エッグの内部に光度計が組み込まれているんですよ…」
光が、天井に向かい駆け上がる。
「な、なんだぁ!?」
「こ、これは!?」
「「「うあぁぁ…」」」
「…すごい」
「ニ、ニコライ皇帝一家の写真です」
「そうか、エッグの中の人形が見ていたのはただの本じゃなく」
「アルバム」
…だから「メモリーズ・エッグ」だったってわけか…。
「もし、皇帝一家が殺害されずにこのエッグを手にしていたら、これほど素晴らしいプレゼントはなかったでしょう」
世紀末の魔術師が残した、最大のマジック。
「ねぇ、夏美さん。あの写真、夏美さんの曾おじいさんじゃない?」
「え?」
「あの2人で一緒に椅子に腰掛けて写ってる写真」
「ほんとだわ…。じゃ、一緒に写っているのは曾祖母ね!」
…一ファベルジェの香坂喜市と共に映っている女性の写真。
そして皇帝一家の写真少女。
この2つの点から導き出されるもの。
…恐らく、夏美さんは…。
持つ人が持ってこそ、の、宝。
予告状にあった「世紀末の魔術師」の文字。
…アイツは初めからコレを知っていたのか?
天井に映し出されていた「メモリーズ」が再びエッグの元へと帰っていく。
「このエッグは喜市さんの、いえ、日本の偉大な遺産のようだ。ロシアはこの所有権を中のエッグともども放棄します。あなたが持ってこそ、価値があるようだ」
「ありがとうございます。…あ、でも中のエッグは鈴木会長の…」
「鈴木会長には私から話してあげましょう。きっとわかってくれますよ」
光が完全に消えてから、台座からライトを取り出した。
…あれ?
そう言えば乾さんはどこに行ったんだ?
あの人いつからいないんだっけ…?
「ラスプーチンの写真」
「え?」
「出てこなかったわね…。皇帝一家と親しかったのに」
「ああ…、確か喜市さんの部屋にも、」
あの“ゲー”って、まさか!!
「何はともあれ、これでめでたしめでたし、だ!」
「アレは!?」
「それではー、ん?」
「危なーーーい!!!」
「うわぁぁぁ!!?」
スコーピオンだ!
俺が投げたライトでオッチャンがなんとか銃撃から逃れる。
が、
「拾うな、あおいっ!あおいー!!!」
間に合えっ!!
「きゃあっ!?」
「みんな伏せろ!!」
「「「う、うわぁぁ」」」
「…ああっ!?エッグがっ…!」
夏美さんが転んだことでエッグが夏美さんの手を離れ、その一瞬でスコーピオンがエッグを手に逃げて行く。
「くっそー!逃がすかよ!!」
この暗い地下をライトもつけず一直線に逃げていく「スコーピオン」
いや…、犯人は恐らく…。
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