キミのおこした奇跡side S


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世紀末の魔術師


2つ目のエッグ


「それにしても、夏美さん。どうしてパスワードが『世紀末の魔術師』だったんでしょう?」


各々手持ちの明かりだけで進む地下道。
夏美さんにセルゲイさんが問うた。


「多分…、曾祖父がそう呼ばれていたんだと思います。曾祖父は16歳の時、1900年のパリ万博に、からくり人形を出品し、そのままロシアに渡ったと聴いてます」
「成る程。1900年と言えば、まさに世紀末ですな」


地下へのパスワード「世紀末の魔術師」
…奴は初めからこれを知っていたのか?
ここに来たことがある?
ならば既にもう1つのエッグは奴の手の内にあるのか?
いや…。
それならわざわざ予告状にあんな文は添えないはずだよな。
ならばなんのために?
…「世紀末の魔術師」の元に、エッグを返すため、か?
わからないことが多すぎるな。


「ずいぶんと深いんだな…」


カラン


「!?」
「どうしたの?」
「今、微かに物音が!!」
「スコーピオンか!?」
「僕見てくる!」
「コナンくん!」


蘭の声を背に走り出す。
スコーピオン?
…いや、違う。
奴ならこの反響する地下道で物音を立てるだなんてミス、しないはずだ。
じゃあ一体誰が?


「「「あぁ」」」
「お、お前ら!」
「コナンくん!!」


…ったく、灰原がいんのに何やってんだよ!
しかもあおいまで…!


「「「「♪このよであなたのあぁいを〜」」」」


勝手に侵入してきたあおい含む探偵団。
灰原の話だと入ってきた道からは自力じゃ出られないってことでちゃっかり俺たちと合流してる。
…あおいに至ってはコイツらと一緒に歌まで歌ってやがる…!
遠足じゃねーっての!!


「どういうつもりなんだ?こいつら」
「良いじゃないですか、毛利さん。大勢の方が楽しくて」


絶対そういう問題じゃないはずだ。
どーすんだよ、こんなガキ連れてスコーピオンに狙われたら庇いきれねぇぞ。


「「「あれ?」」」
「行き止まり…」
「通路をどこか間違えたのかしら?」
「そんなはずありません。通路は一本道でしたから」


てことは、ここにも何か仕掛けが…。


「わぁ、鳥がいっぱい!」
「あれ?変ですね。大きな鳥だけ頭が2つありますよ?」
「あれは双頭の鷲って言って、皇帝の紋章なんだよ」
「あおいお姉さん詳しー!」
「いやぁ!」


王冠の後ろにあるのは、太陽か…?
太陽…、光…。
…もしかしたら!


「白鳥刑事!あの双頭の鷲の王冠に、ライトの光を細くして当ててみて!!」
「あ、ああ…」


ライトを当てた瞬間、


「光ったぞ!…な、なんだ!?」
「みんな!下がって!」


…やっぱり!
この先にもまだ通路がある。
そこに2つ目のエッグが…!
仕掛けが作動してさらに地下へと続く階段が現れた。


「すげぇ…」
「もっと下があるんだ…」
「まるでタマゴの中みたい…」


皇帝の紋章で封印された扉、か…。
現れた通路は部屋のような場所に続いていて。
部屋の中央には台座のようなものがあった。
…なんだ、コレ?


「棺のようですね…」
「造りは西洋風だが、桐で作られている。それにしても、でっかい錠だなあ…」
「あ!夏美さん!あの鍵!!」
「え?あ、そっか!」


カバンから取り出した鍵を棺に掛けられている錠に差し込む夏美さん。


ガチャン


…開いた!
てことは、この棺の中に…!


「開けても、よろしいですか?」
「は、はい」


オッチャンが棺の蓋を開ける。
中には恐らく…。


「遺骨が一体、それにエッグだ。エッグを抱くようにして眠ってる」


やはり…。


「夏美さん、この遺骨は曾おじいさんの?」
「いいえ。たぶん、曾祖母のものだと思います。横須賀に、曽祖父の墓だけあって、ずっと不思議に思っていたんです。もしかすると、ロシア人だったために、先祖代々の墓には葬れなかったのかもしれません」
「…夏美さん、こんな時にとは思いますが、エッグを見せていただけないでしょうか?」
「はい…」


遺体の胸に置かれていたエッグを取り、セルゲイさんに手渡される。


「底には小さな穴が開いていますね…。え!?」
「空っぽ!?」


エッグを調べていたセルゲイさんは、蓋を開け、驚きの声をあげる。


「そんな馬鹿な!?」
「どういう事かしら?」
「…空?」


どういうことだ…?


「それ、マトリョーシカなの?」


それは歩美ちゃんの些細な発言。


「マトリョーシカ!?」
「私んちに、そのお人形あるよ!お父さんのお友達が、ロシアからお土産に買って来てくれたの!」
「何だ? そのマトリョー、シカって?」
「人形の中に、小さな人形が次々入っている、ロシアの民芸品です」
「確かにそうかも知れません…。見て下さい。中の溝は、入れたエッグを動かない様に固定するための物のようです」
「クソッ!! あのエッグがありゃ、確かめられるんだが…!」


もう1つのエッグは今、鈴木家に保管されている。
一旦外に出て持ってきてもらうしか…、そう思った時、


「エッグならありますよ」


白鳥刑事のその一言に、周囲の空気が変わった気がした。

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bkm

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