■わずかな違和感
「目暮警部!ありました!西野さんのベッドの下に!!」
西野さんの部屋につくとちょうど高木刑事がベッドの下からペンダントトップが指輪のネックレス(ほぼ間違いなく寒川さんの所持品)を持ち上げた。
「そんな馬鹿な!?」
「決定的な証拠が出たようですな!」
「待って下さい警部さん!私じゃありません!!」
「アンタが犯人で無いなら、どうして指輪があったんだ!?」
「分かりません!私にも…」
…犯人は十中八九、スコーピオンだ。
だとしたら、西野さんがスコーピオンという事に…ん?
もみがらの枕!?
「コーナーーン!!」
「ねぇ!西野さんって、羽毛アレルギーなんじゃない?」
殴りかかってきそうだったオッチャンをかわし西野さんへ問う。
「そうだけど…」
「じゃあ、西野さんは犯人じゃないよ!」
…っ!?
「…いいから続けて」
俺の言葉に反応した白鳥刑事と目があった。
…今の視線は…?
「だ、だってほら、寒川さんの部屋、羽毛だらけだったじゃない?犯人は羽毛枕まで切り裂いてたし、羽毛アレルギーの人があんな事する筈無いよ!」
そう言えばあの人、昼間俺たちの部屋から血相変えて飛び出したのは、鳩がいたせい、か。
そう考えれば辻褄が合う。
「本当に羽毛アレルギーなのかね?」
目暮警部の問いに、
「はい、それは私が証人になります!」
鈴木会長が答えた。
…間違いない、西野さんはスコーピオンじゃない。
「となると、犯人は一体…」
「警部さん、スコーピオンって知ってる?」
「スコーピオン?」
「いろんな国でロマノフ王朝の財宝を専門に盗み、いつも相手の右目を撃って殺してる、悪い人だよ!」
「ああ、そう言えば、そんな強盗が国際手配されておったな…。えっ!?それじゃ今回の犯人も、」
「そのスコーピオンだと思うよ!多分キッドを撃ったのも、」
恐らくこの中にいるであろう、スコーピオン!
「キッドの単眼鏡にヒビが入ってたでしょ?スコーピオンはキッドを撃って、キッドが手に入れたエッグを横取りしようとしたんだよ!!」
「しかし、何でオマエ、スコーピオンなんて知ってんだよ?」
やべっ!
言い訳考えてなかった…!
え、えぇーっと、
「阿笠博士から聴いた」
「!?」
「そうだよね?…コナンくん」
「…あ、うん!そう!!」
…やべぇ!
さっき電話してる時感じた視線は白鳥刑事のだったのか!
…あっ!!
「秘密が明るみにでる」って、あれって、白鳥刑事のことか!?
やばいぞ、さっきの電話の内容聞かれてたら…!
「しかし、スコーピオンが犯人だったとして、どうして寒川さんから奪った指輪を西野さんの部屋に隠したんだ?」
「それが、さっぱり…」
弱ったな…。
白鳥刑事の前で、うかつに時計型麻酔銃を使う訳には…。
…仕方ねえ!!
「ねぇ!西野さんと寒川さんって、知り合いなんじゃない?」
「え?」
「昨日美術館で、寒川さん、西野さんを見てビックリしてたよ!」
「ホントかい?」
「西野さんって、ずっと海外を旅して回ってたんでしょ?きっとその時、何処かで会ってるんだよ!」
「んー…、あーっ!」
何かを思い出した西野さんは大声を上げる。
「知ってるんですか?寒川さんを!?」
「はい!3年前にアジアを旅行してた時の事です。あの男、内戦で家を焼かれた女の子を、ビデオに撮ってました!注意しても止めないので、思わず殴ってしまったんです…」
「じゃあ寒川さん、西野さんの事恨んでいるね、きっと!」
「分かった!!」
そうだ、いけオッチャン!
「西野さん!アンタがスコーピオンだったんだ!!」
おいおい…。
「毛利君、それは羽毛の件で違うを分かったじゃないか!」
「あ、そうでしたなぁ…」
この迷探偵がっ…!
「でも西野さん、助かったね!」
「え?」
「だって、もし寒川さんがスコーピオンに殺されてなかったら、西野さん、指輪泥棒にされてたよ!」
「そうか!」
やっとわかったか、迷探偵。
ほんと頼むぜ…。
「この事件、2つのエッグならぬ、2つの事件が重なっていたんです!!」
「2つの事件…?」
そうそう。
「1つ目の事件は、寒川さんが西野さんを嵌め様としたものです!彼は西野さんに指輪泥棒の罪を着せるため、わざと皆の前で指輪を見せ、西野さんがシャワーを浴びている間に部屋へ侵入し、自分の指輪をベッドの下に隠したんです。そして、ボールペンを盗った。西野さんに指輪泥棒の罪を着せるために。ところが、その前に第2の事件が起こったんです! 寒川さんはスコーピオンに射殺された…。目的は恐らく、スコーピオンの正体を示す何かを撮影してしまったテープと指輪…。しかし、首からかけてあった筈の指輪が見つからないので、スコーピオンは部屋中を荒らして探したんです!!」
「凄いや!おじさん!名推理だね!!」
「フン!俺にかかればこの位!!」
おい、ふざけんなこのへっぽこ探偵…!
「と言う事は、スコーピオンはまだこの船の何処かに潜んでいるという事か!?」
「その事ですが…、救命艇が一艘無くなっていました」
え!?
「それじゃ、スコーピオンはその救命艇で!?」
「緊急手配はしましたが、発見は難しいと思われます」
「取り逃がしたか…」
…本当にスコーピオンは逃げたのか?
お宝を手にすることが出来なかったのに…?
「何はともあれ、殺人犯がこの船にもういないと分かって、ホッとしたぜ…。なぁ?」
「はい…。安心しました」
「しかし、スコーピオンがもう1個のエッグを狙って、香坂家の城に現れる可能性はあります」
「…え?」
「いや、既にもう向かっているかも…。目暮警部!明日、東京に着き次第、私も夏美さん達と城へ向かいたいと思います」
「分かった! そうしてくれ!!」
横須賀に向かう一行に、白鳥刑事も同行する事になった。
「オイ、聴いた通りだ。今度ばかりは絶対に連れて行く訳にはいかんからな!!」
「いえ、コナンくんも連れて行きましょう」
「なに!?」
「彼のユニークな発想が、役に立つかも知れませんから」
「コイツの!?」
「ええ…」
そう言って、俺を見下ろし微笑む白鳥刑事。
その姿に焦りと、そしてなんと表現しようのない、わずかな、ほんとにわずかな違和感を覚えた。
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bkm