キミのおこした奇跡side S


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世紀末の魔術師


言えない言葉


太陽もだいぶ西へと傾いたころ、デッキに出ると、


「おお!夏美さんと青蘭さん!!貴女方も一緒にどうです!?」


すでに飲んだくれたオッチャンがいた…。


「宜しいですか?」
「どーぞ、どーぞ!」


一緒に飲んでいた鈴木会長と寒川さんのいる席についた青蘭さんと夏美さん。
その青蘭さんの足を眺めながら


「色っぽくていーですなー!!」


なんて大興奮のオッチャン。
…しょうがねぇな、このオヤジ。


「ささ、どーぞ!」
「ありがとうございます。…ん?」


オッチャンから酌を受けた青蘭さんは寒川さんの何かに気づいたようだった。


「寒川さん、そのペンダント…!」
「ほう、さすがロマノフ王朝研究家。よく気付いたな…、見るかい?」


あれ?
あの人あんな物付けてたっけ?
俺の小さな疑問はそのままに、寒川さんからペンダントを受け取った青蘭さんが、そのペンダントトップの指輪の裏を覗き込んだ。


「…マリア…。まさかこれは、ニコライU世の三女、マリアの指輪?」
「アンタがそう言うんなら、そうなんだろ?」
「それを何処で!?」


取り乱している様子の青蘭さんをヨソに、寒川さんはペンダントを取り戻すと、この場から去って行った。


「本物ですかね?」
「さあ…、詳しく鑑定してみないと…」
「…おい、西野君。ボールペンが落ちそうだぞ」
「え?あ、どうも」


鈴木会長にそう言われた西野さんは御礼を言って、ボールペンをポケットにしまい直した。
その一連の行動を見届けた後、各々部屋に戻った。


「ご飯まだかなぁ?僕お腹空いちゃったよ!」
「もうすぐ呼びに来てくれるんじゃない?」


蘭とそんな話をしていた時、


「毛利さん!毛利さん!!居ますか!?」


隣の部屋のドアを物凄い勢いで叩く音がした。
その音につられて蘭と2人、部屋の外に出てみると、血相変えた西野さんがいた。


「大変なんです!寒川さんが部屋で死んでますっ!」


何!?
オッチャンと蘭、そして俺たちを呼びに来た西野さんの4人で寒川さんの部屋へ急ぐと、ドアのところに鈴木会長と園子が立っていた。
中を見るとそこには見るからにもう、手遅れであろう寒川さんが大量の血を流して倒れていた。
…右目を撃たれてる。
あ!あの時、キッドも右目を!?


「コラァ!ガキは引っ込んでろ!!」


そう言うオッチャンにまるで猫かなにかのように首を掴まれ、ドアの方へ放り投げられてしまう。
…ちっ!!


「頬の硬直が始まったばかりだ。死後30分ほどしか経ってねぇな。…指輪のペンダントが無くなっている!」


指輪のペンダントがなくなっている!?


「鈴木会長、これは殺人事件です。警察に連絡を!」
「は、はい!」


そう答えた後、鈴木会長は西野さんに指示を出した。
…それにしても妙だな。
犯人は何故部屋を荒らした?
単なる物取りなら枕まで切り裂く必要なない。
物取りに見せかけたかった?
なんのために?
ここは外界と遮断された海の上。
外部からの侵入はほぼゼロに近い。
なら内部犯。
だがどうして…?


「目暮警部!床にこれが!!」


鑑識の1人が警部に差し出したものは、「M.NISHINO」と名前が刻まれたボールペンだった。
…西野?


「このボールペンは、西野さん、あなたの物に間違いありませんね?」


ラウンジに全員集められ、事情聴取が行われた。


「は、はい…。でもそれがどうして寒川さんの部屋に?」
「遺体を発見したのはあなたでしたな?」
「そうです。食事の支度ができたので、呼びに行ったんです」
「その時、中に入りましたか?」
「いいえ」
「入っていないアンタのボールペンが、何故、部屋の中に落ちてたんだ?」
「分かりません…」
「では、7時半頃、何をしていました?」
「えーと…、7時10分頃、部屋でシャワーを浴びて、その後一休みしていました」


まぁ…、今の状況証拠では西野さんにこういう問いかけをするのはなんら不思議ではない。
でももし、西野さんが寒川さんを殺害した犯人なら、キッドを撃った犯人も西野さんの可能性が高くなる。


「目暮警部!!」


事件現場を調べていた高木刑事が飛び込んで来た。


「被害者の部屋を調べたところ、ビデオテープが全部無くなっていましたっ!」
「何っ!?」
「そうか!それで部屋を荒らしたんだな!?」


ビデオテープがなくなったなら、もしかして…!
そう思うと同時に体は動いていて。
無くなったビデオテープ。
寒川さんは船内の至るところでデッキを構えていた。
それ=犯人を示す手がかりを撮影していた可能性が高い。
ならば今回の犯人=右目を狙うスナイパーのことを知っておく必要がある。
そう思い船内に備え付けの電話ボックスに向かった(ちなみに海上なためケータイは圏外)


プルルルルル


「あ、博士?俺だけど。大至急調べてほしいことがあるんだ」
「何ー?右目を撃つスナイパーじゃと?わかった調べてみる。10分後にまた電話をくれ」


10分、か…。


−あおい…、どこかに行っちゃうのかな…−


…今のうちにアイツに電話してみっかなぁ…。
無事着いたかどうかもわかんねぇし…。
えぇっと、あおいのケー番は、っ!!?


「気のせい、か…」


強烈な視線を感じ電話ボックスから飛び出してみるものの、辺りには誰もいなく静寂そのものだった。


「も、もしもし?」
「あおいか?」
「…工藤くん?え?どうしたの?」
「…別にどーもしねぇけど、大阪から1人で帰ったって聞いたし無事着いたか気になってな」
「着いたよ!私安全運転!事故ったりしない!」
「あのなぁ、その過信が、」


…聞きたいこともあったが、もう約束の10分になろうとしていた。


「悪ぃけど、この後博士んとこ電話しねーとなんだ」
「あぁ、うん。わかった」
「あおい」
「なに?」


−どこか行っちゃうのかな…−


「…なんでもねぇ」
「は?…どうしたの?」
「また電話する」
「え?ち、ちょ、」


どうしたってのはこっちの台詞だっての!
大きく1つため息吐いて、もう1度博士の家に電話した。


「分かったぞ、新一!ICPOの犯罪情報にアクセスしたところ、年齢不詳、性別不明の怪盗が浮かんだ!その名は、…スコーピオン!」
「スコーピオン?」


博士の話によるとスコーピオンとは、ロマノフ王朝の財宝ばかりを狙う国際指名手配犯のこと。
奴の特徴は財宝所持者や邪魔者の右目を撃って殺していること。


「博士、頼みがあんだけど」
「なんじゃ?」
「明日横須賀に、」


間違いない。
キッドを狙った、そして寒川さんを狙った犯人はスコーピオンだ。
でも一体誰が…?
その後ラウンジに戻ると、本人立会いのもと、西野さんの部屋を捜索するってことになったらしくオッチャンたちがラウンジから消えていた。
蘭に悟られないように、オッチャンたちの後を追って西野さんの部屋に向かった。

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bkm

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