キミのおこした奇跡side S


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世紀末の魔術師


灰色の瞳


「うん!…出血は止まったし、傷口さえ塞がればまた飛べるようになるわ」


昨夜のキッドが現場に残したものの1つ。
傷ついた鳩を、蘭にもう何度目かの手当てをしてもらった。


「服部くんも、幸い軽い捻挫で済んだけどキッドは死んじゃったのかな…」


いや、軽いどころじゃねぇよ。
昨日のうちに「お前何やっとんじゃボケェ!!俺が怪我までしとるっちゅーのに、何手ぶらで帰ってきとんねん!!」て、電話着たから、アイツにとってアレは怪我のうちに入んねぇよ、きっと…。
それより問題はキッドだ。
奴があんなことで死ぬわけがない。
もしかしたら既にこの船に…


「あおいも大丈夫かな…」
「へ?」


俺が思考を巡らせていると、蘭がふと漏らした。


「…コナンくんは知らないだろうけど、あおいが米花町に来てから親戚の話をする、ましてや会いに行くなんて言うのは初めてで…。それもあんまり楽しそうな感じじゃなかったから心配」


…それは俺も思った。
あおいがこっちに来てから早3年。
1度も親戚(どころかマンションの後見人にすら)会ったことはないし、話が出てきたこともない。


「あおい…、どこかに行っちゃうのかな…」
「え?」
「…前にね、米花町に来るまで、ずっと親戚の家転々としてたんだ、って、言ってたから。もしかしたら、とか思って…」


いなくなる?
あおいが米花町から?


「ほんとに…、何してるのよ…新一…」


トントン


蘭、と声をかけようとしたら、扉がノックされた音が室内に響いた。


「はーい、…え!?」
「んー、いいねぇ、その表情!頂きー!」


ドアを開けて現れたのはフリーの映像作家、寒川さん。
扉を開けた瞬間カメラを回されていたら誰だって驚くっていうのに、その驚いた蘭の表情を撮って行った。
…なんだあの人。


「はーい、蘭!遊びに来たよ!」


そう言って振り返ると園子、西野さん、夏美さんがいた。


「さぁどうぞ!」
「お邪魔します」
「失礼します…うわぁ!?」


え?


「僕、やっぱり遠慮します…!」
「んー?…そっか、美女ばっかだから照れてんだぁ!カワイイ!!」


…なんだ今の慌てよう。
口を手で抑えていた…?


「わっ!?」
「もう一人の美女、忘れてた!呼んで来る!!」
「うん!青蘭さんね!」
「行くぞ!おチビちゃん!!」
「僕も行くの!?」


なんで俺も行かなきゃなんだよ!
と思いながらも半ば引きずられるように園子に手を引かれた。
…身長差があってこうも強引に手を引かれるとこういう結果になるのか。
たまにあおいが(手を引いた)俺の後ろをパタパタついて来る時、息が上がってたが、こういうことか。
…気をつけよう、うん。


「はい、ありがとうございます。直ぐ用意しますから、ちょっと待ってください」


青蘭さんの部屋の前で陽気に誘った園子に、快諾し支度をし始める青蘭さん。
奥に入っていく彼女の後ろ姿を追っていると、机に置いてある写真立てに目が行く。
写真たての裏には…グリゴリー…?


「あっ、もしかして、そこにあるのは彼の写真?」
「え…!?ええ、まあ…」


そう言いながら、写真立てを伏せる青蘭さん。


「良いなあ、みんな旦那がいて…。こんな事だったら絶対、キッドをゲットしとくんだった!」


…オメーがゲット出来んなら、警察は苦労しねーよ!
ほんっと、コイツは…。
そんなこと思いながら、部屋に戻った。


「じゃあ夏美さん、二十歳の時からずっとパリで暮らしているんですか?」


園子主催の(自称)美女会に何故か参加している俺。
まぁオッチャンたちといて話があるかって言われたら、それもねぇからいいんだけど。
その美女会でもう1つのエッグの持ち主、夏美さんの話になった。


「そうなの。だから時々変な日本語使っちゃって…。あ、変な日本語って言えば、子どもの時から妙に耳に残って離れない言葉があるのよね…」
「へぇー、何ですか?」
「『バルシェ、ニクカッタベカ』」
「「え?」」
「『バルシェは、肉を買ったかしら』って意味だと思うんだけど、そんな人の名前に心当たり無いのよ…」


そういう夏美さんを見る。
あれ…?


「夏美さんの瞳って…」
「そう!灰色なのよ。母も祖母も同じ色で、多分、曾祖母の色を受け継いだんだと思う」
「そう言えば、青蘭さんの瞳も灰色じゃない?」


蘭にそう言われて青蘭さんを見ると、確かに灰色の瞳をしていた。


「あの、青蘭さんって青い蘭って書くんですよね?私の名前も蘭なんです!」
「セイランは日本語読みで、本当はチンランと言います」
「チンラン?」
「青がチン、蘭はラン、浦思はプースでプース・チンランです」
「蘭は中国読みでもランなんですね!」


その後青蘭さんの簡単な中国語講座がはじまった。
まぁ蘭と園子の名前だけだけどな。


「あの、青蘭さんって、私と同い年位だと思うんですけと…」
「はい、27です」
「やっぱり!何月生まれ!?」
「5月です…。5月5日」
「私、5月3日!2日違いね!」
「じゃあ、2人共僕とは1日違いだ!」


へぇ、こんな偶然もあるもんだ、なんて。
のん気に考えていた俺は、この時蘭が俺の発言に疑いの眼差しを向けていたなんて、知る由もなかった。

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bkm

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