キミのおこした奇跡side S


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世紀末の魔術師


8月22日午後7時20分


その後も考えても出ない答えを服部と話し合っていたら、気がつくと夕方7時になろうとしていた。


「せや。どうせやから一旦美術館に戻らへんか?警察の対応も知っといた方がえぇやろ」
「そうだな」


そして美術館近くまで服部のバイクで行き、もう1度鈴木会長や、恐らく中森警部もいるであろう建物の中に足を踏み入れようとした時。


「あれ?西野さんだ…」
「ほんまや。隣におる姉ちゃんは誰や?」


見知らぬ女性と老人が、西野さんの側にいた。


「私、香坂夏美と申します。こちらは執事の沢部です。このパンフレットにある、インペリアル・イースター・エッグの事で、是非とも会長さんと会ってお話したいんですが…」
「生憎と会長は出ていまして…。私で宜しければ伺いますが?」
「このエッグの写真が違うんです!曾祖父の残した絵と…!」


曽祖父?
執事まで連れて…、誰だあの人…。


「おっ!こらオモロイな!夜中の3時が『L』なら今は『へ』やで!」


『へ』?


「今、7時13分や。7時20分になったら、完璧な『へ』やで!」


まさか…!?
いや、…『黄昏の獅子から暁の乙女へ』の『へ』は頭から数えて12番目!!


「服部!!キッドの予告した時間は、午前3時じゃ無く午後7時20分だっ!」
「何やて!?おい、何処行くねん!?工藤!!」


マズイ!
マズイぞっ!!


「大阪城だ!お前はエッグを見張ってろっ!」


ターボエンジンつきスケボーを持って車道へと駆け出す。
このままじゃキッドにまんまと出し抜かれるっ!!


「あ、あぁっ!待てや工藤!『天の楼閣』は天守閣や無い!通天閣やっ!!」
「通天閣!?」
「通天閣の天辺はな、光の天気予報なんや!!」
「何っ!?」


じゃあ奴は通天閣から来る気か!!?


ヒューー ドーン ドドーン


「な、なんだ!?花火!?」
「…おいおい、あっちは大阪城の方やんけっ!!」
「服部!通天閣はどっちだ!?」
「あっちや!!」


服部が示す方向は花火が打ちあがっている場所とは対照的に暗く静かな夜空が広がっていた。


「あっちは花火が上がってへんな…」
「大阪城で花火を打ち上げたのは、通天閣から目を逸らせる為だ!でも何故なんだ?何故奴は通天閣に…?」
「クソッ!今から通天閣へ行っても間に合えへんな!」
「ここでキッドを待ち伏せるんだっ!…西野さん!エッグは今何処に!?」
「そ、それが、中森警部が何処か別の場所へ持って行ったらしいんだ」
「何やて!?」


ふざけんな、中森警部の番号なんか知らねぇぞ!!
でもキッドはそれを知らずにここへ


「あぁ!?」


一瞬のこと。
本当に一瞬のうちにあたり一面が闇と化した。


「停電!?」
「それも美術館だけやのぉてここら一体全部消えとんで!!」


大阪を闇に…、そうかっ!
奴の狙いがわかったぞ!!


「お、おいっ!!」


服部の声を背に、スケボーで暗闇と化した(と言ってもヘッドライトで十分明るい)大阪の街を駆け抜ける。
奴は最初からここに本物がねぇって知ってやがったんだっ!!
大阪中を停電にさせて、病院やホテル以外で真っ先に明かりがつくであろうその場所を特定するために…!!


「ん…?」


目の端に捉えたのは闇夜に浮かぶ白き鳥。


「キッド!…クソーッ!!」


どこに隠したのか知らねぇが、とっくにキッドにバレてんじゃねーかよっ!!


「やべぇ!行き止まりだ!!」
「乗れ!工藤!!」


その声に振り返ると、俺をバイクで追いかけてきた服部がいた。
…ナイスッ!


「なるほど?その明かりを見渡すのに、通天閣は絶好の位置取りや!奴は予告状を出す前からこうなることを読んどったっちゅーわけやな!?」
「しかもその場所は外部からソレと気づかれないために、」
「警備は手薄…!こら、早行かな、取られてしまうぞ!!」


ヤバイヤバイと頭の中で警鐘が鳴る。
クソッ!
いくら土地勘がなく光る天の楼閣が通天閣と気づかなかったとしても、犯行予告時間くらいはどうして気づかなかったんだ…!!
その時、目で追っていたキッドが雑居ビルの屋上に飛び降りた。


「服部!お前はここで待機してろ!」
「なに!?おい、工藤!!」


キッド到着から遅れること数分、雑居ビル内で唯一明かりがついている部屋の扉を開けた。


「キッド!」


俺が声をかけると同時に、キッドが持っていた銃口を俺に向けた。
…警備してた連中は全員眠らされて、エッグはもうキッドの手の中か!


「うわ!?」


銃口を向けられてもお構いなしにキッドに向け突っ込んでいったら、俺の足元付近を狙い撃ち、煙幕が瞬く間に広がった。


「クソッ!!」


部屋の隅に用意されていた脱出用ロープで地上まで降りていく。


「急げ!工藤!!」


駆け寄る俺に服部がヘルメットを投げ、それをつけながらバイクに飛び乗った。
その直後、バイクが再び走り出す。
雑居ビルが立ち並ぶこの辺りじゃキッドの姿を目視できない。


「ハング・グライダーが飛ぶには、軽い向かい風が理想的だ!!」
「風上に向かって飛んでるっちゅうわけやな!?」


その言葉の通り、国道に出ると風上に向けて飛んでいる白い鳥を見つけることができた。
しばらく国道からキッドのグライダーを追うが、


「高度を下げ始めたぞ!?」
「この先は大阪湾や!キッドの奴、絶対降りよるで!…っ!?うわぁぁっ!!!」


服部の悲鳴と共に、バイクから投げ出される。
スケボーを使いなんとか体勢を保つことができた。


「服部!大丈夫かっ!?」
「な、何してんねん!早よ行かんかいっ! 逃がしたらしばくぞ、コラ!!」
「服部…」
「だ、大丈夫か、兄ちゃん!」
「警察と、救急車を頼みます!」
「あ?ああ…」
「待ってろよ!服部!」


ぜってぇ捕まえてやっから!!
そのままスケボーでキッドを追う。
…間違いない。
この時間人気のないであろう埠頭に降りて地上、あるいは海上から逃げるつもりだ!
そうはさせるかっ…!!


カラーン


「え?」


物音に気づき振り向くと…あれは?
影しか見えなかったけど、あの影が空に向かって構えていたものはもしかして…。
キッドを見ると、明らかにソレまでとは違う飛び方で地上に堕ちて行った。
そう、「降りた」のではなく「堕ちていった」
…まさか!?


「…この傷…」


キッドが墜落したらしい場所へ辿り着くとそこには一羽の鳩と、盗まれたらしいインペリアル・イースター・エッグ。
そして…


「これはキッドのモノクル!まさか、撃たれて海に…!?」


振り返る海はどこまでも果てしなく静寂が続いていて。


「するとさっきの男、一体…」


あれは間違いなく、キッドを狙ったスナイパー。
だが何が目的だ?
エッグか?
それともキッドの命?
その晩、警察の懸命の捜索にも関わらず、キッドの生死は確認できなかった。

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