キミのおこした奇跡side S


≫Clap ≫Top

孤島の姫と龍宮城


君という光


「あ、逢いたい、です」
「…せやんな?それが普通やって!だから平次に、…あんた何してんの?」
「…ちょぉ、今はそっとしといてくれっ!」
「…はぁ?」


声を出して笑うのを堪えている(であろう)声を震わせ話す服部の表情が、顔を見なくてもわかる。
…あとでぜってぇあの色黒蹴り飛ばす。


「あんたほんまに頭イカレたんやないん?」
「ちゃうちゃう!…いやぁ、あおいちゃん可愛いこと言うなぁ思てなぁ!工藤おらんところで俺がこんな話聞いててえぇんやろか思たらもう、工藤に申し訳のぉて!」


オメー、んなこと微塵も思っちゃいねぇだろ?
むしろ「いやー、えぇもん聞かせてもろたわ!」くらいなことしか思ってねぇよな?


「なぁ平次。あんた工藤くんがどこで何しとるかほんまに知らんの?」
「せやなぁ、工藤も砂浜で横になって流星群見とんのとちゃうかぁ?」
「…あんた私らバカにしてんの?」
「ちゃうて!…アイツはアイツでいろいろ考えて今ここにおらんだけやから、なぁんも心配することないんちゃうか?」
「なんやソレ!工藤くんの考えて何?」
「俺が知るか!」


心配することねぇ、か…。
でも、理屈じゃ、ねぇんだよなきっと。


「お!そろそろホテル戻った方がえぇんちゃうか?」
「え?まだえぇんちゃうん?」
「お前らが明日目の下にクマ作ってテレビ出てもえぇならおったらえぇやん」
「「…はっ!?」」
「今のテレビは毛穴までよー見えるからクマかてはっきりと」
「ち、ちょお待って!」
「わ、私たちもテレビに出るの!?」
「なんや聞いとらんかったんかい?竹富さんが俺とオッチャンだけやと華がない言うてもしかしたらお前らも収録頼むかもしれんて言うてたやん」
「「ええっ!?」」
「なんでソレ早く言わんの!!」
「はぁ?」
「あおいちゃんこんなんしてる場合とちゃうよ!」
「う、うん!帰って準備しなきゃ!!!」
「あ?準備てなんの」
「ほな平次、コナンくん頼んだで!」
「ま、また明日ね!」
「あ、おい!」


目を開けていた俺の方を見向きもせずに、和葉と2人でホテルに掛けて行ったあおい。
…女って、テレビに出るってなると気合の入り方が違うよな。


「…んだよ」


ホテルに向かったあおいたちを目で追っていたら、同じく砂浜に残った服部がニヤニヤしながら俺を見ていた。


「なんだやあらへんやろぉ!聞いとったんやろ?あおいちゃんの熱ーいメッセージ!」
「…知らねぇよ!」


肩肘をついて頭を支え、服部に背を向けるような体勢になる。
ここからは、月が2つ、よく見える。


「なぁにを照れとんねん!」
「別に照れてるわけじゃねぇし!」
「嘘言うなて!お前のことやから顔赤ぉして、」
「そんなんじゃねーよ!…そんなんじゃ…」
「…工藤?」


−あ、逢いたい、です−


初めて、はっきり聞いた気がする。
あおいが「俺」に対する思い。
でもそれは今の「俺」を否定すること。
アイツが逢いたいのは、「工藤新一」の姿の「俺」なのだから。
けど「コナン」であったからこそ、それまで以上に近づけた気がするのは事実で。
他の誰でもない、あおいに「今の俺」を否定されたような、やり場のない思い。
アイツは知らないんだから仕方のないことだ。
でも、言い知れない孤独(厳密には違うのかもしれない)が胸を覆った気がした。


「…お前にえぇこと教えたるわ」
「はぁ?良いことって?」


それまで明らかに声色もにやけているような雰囲気だった服部だが、急に真剣みを帯びた声色になった。


「お前さっき俺も流星観測すんのか聞いてきたやろ?」
「あ?…あぁ、そうだな」
「こっち戻ってから、一緒に見に行かへんかぁ、て、あおいちゃんに誘われてん」
「は?和葉じゃなくて?」


その言葉に起き上がって服部を見ると、何故か苦笑いしていた。


「和葉もなんや言うて来たけど、お前そんな流れ星なんぞ見てもしゃーないやろ、て思ててんけどな。あおいちゃんが『服部くんが来たら、服部くんと和葉ちゃん、私とコナンくんでダブルデートだ!』て言うてん」
「…は!?『コナン』と!?」
「せやろ?俺も言うてんて。『あのボウズとデートしてもしゃーないやろ!』て」
「…他に言い方なかったのかよ?」
「まぁまぁ、そこはひとまず置いといてやな?」


置いとけねーっての!


「でも普通に考えて小学生相手に『ダブルデート』やなんて言わんやろ?だから冗談半分で『ほんまは1人でガキの相手が嫌なんちゃうん?恥ずかしいんやろ?』て聞いてんて。そしたら、」


よっ、と、小さく声を出しながら服部が立ち上がった。


「『確かにコナンくんは小さいけど、立派なジェントルマンです。その言い方はコナンくんに失礼です!』て、逆に説教されてもぉたわ」
「…」
「どーせなんっでも小難しく考えるお前のことやから?『逢いたない』言われたら言われたでふざけんなくらい思うんやろぉし、『逢いたい』言われたら言われたでほんなら今の自分はどぉなん?て思てんのやろぉけど?」


…ひ、否定できねぇ…。


「あの姉ちゃん、普段はボーっとしとって鈍くさくてしゃーないけど、」
「…なんっかそれ俺以外が言うと腹立つんだけど」
「まぁまぁ!…何も考えてへんようでも、ちゃぁんと人のこと見とるし、『今のお前』のことも俺や和葉なんかよりも、しっかり見てる思うで?」


二カッて音を立てるように笑う服部を尻目に、再び2つの月に目をやる。
空に浮かぶ月と、ゆうらりと波に揺れるもう1つの月。
どちらも月に変わりない。
本物であるか、映し身であるかの違いなだけで。
…「俺」と同じだな。
「新一」である「俺」も、「コナン」である「俺」も、「俺」であることに変わりはない。
どちらか片方が欠けても「俺」としては成り立たない。
今の「俺」という人間は、2人で1人なのだから。
そして、そのどちらの「俺」も、あおいに認めて…受け入れてもらいたいと願っている。


「ほんっと、厄介だよな…」
「あ?なにがや?」


夜空を見上げると、絶えることなく、降り注ぐ流星。
いつかのあおいのように、願えば叶えてくれるなんて、思っちゃいねぇけど。
それでも、願ってしまう。
どちらの「俺」も、同等に思ってほしい、って。
そしてそれはきっと、あおいじゃなかったら感じ得なかった感情。
あおいだから、俺は俺を、知ることができた。
一際輝きを放ち流れた星に願いを託し、ゆっくり目を閉じた。

.

prev next


bkm

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -