キミのおこした奇跡side S


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孤島の姫と龍宮城


真相


船が桟橋に着いてから俺たちの荷物を捨てたならそこらへんのさんご礁に引っかかってるかもしれない。
そう思い、服部が少し海に入った(俺は流される心配があるからやめておいた)
服部のカバンの中にはケータイが入っている。
それがあればオッチャンたちとも連絡が取れると思ったんだが、案の定とでも言うのか、荷物は見つからなかった。


「じゃあ一旦部屋に戻るか」
「の、前にちょぉ台所行くで」
「は?なんで?」
「腹が減っては戦はできんやろ!」


ああ、そう言えば丸半日飲まず食わずだったな、俺たち。
そう思って服部と共に台所に向かった。
ら、


「なにしとんねん?」


ナイフ咥えて和葉と抱き合いながらしゃがみこんでるあおいがいた。


「ナイフと包丁口に咥えて」


…なにしてんだ、コイツら。


「ほんなこと言うたかてグソーの使いやかと思てんもん…」
「ほ、ほら、大東さんが言ってたじゃん!魂を吸い取られたくなかったら刃物を咥えろ、って…」


…あぁ、迷信を信じてナイフ咥えてたわけね。
つーか、ナイフ咥えるくらないならナイフ持って立ち向かった方がよっぽど建設的じゃねぇの?
って思ったけど、立ち向かわれたら立ち向かわれたで返り討ちにあうのが目に見えてるから言わなかった。
…あ、れ?
あのイス…


「『かあちゃん』や」
「え?」
「こっちのイスの裏には『ちよにい』って書いてあるよ」


そのイスには、さっき見た文字と同じ字で『かあちゃん』と『ちよにい」と書かれていた。


「なぁ、その『かあちゃん』て、家政婦やってた良子さんのこととちゃう?」
「そっか!家政婦の『か』の字を取って『かあちゃん』…!家政婦さんならよく台所にいるし!」
「…ほんならこの『ちよにい』って?」
「アレ?薄く字が残ってる…!最初に書いた字を消してその上から『ちよにい』って書いたみたい。薄くて読みにくいけど、『どじょうさん』じゃないかな?」


…『どじょう』?
ますますつながりがわかんねぇな…。


「けど『ちよにい』と『どじょう』なんて関係ないやん」
「…『かあちゃん』の下の絵が『からす』なら繋がりあるよね」
「かーかー、て鳴くもんなぁ?」
「うんうん」
「でもな、あの鳥、お嬢さんが屏風の絵見て描いただけなんとちゃう?」
「…じゃあアレ白鷺?」
「「白鷺…?」」


服部とほぼ同時にあおいの方を向いた。


「さっきディレクターさんが言うててん!4年前町長さんが盗まれた金の屏風には白鷺が描いてあった、って」
「国宝級で時価2億円もするんだって!」
「…からす、しらさぎ、どじょう…」
「…くそ!ココまで出てんのに…!」


なんだ、思い出せ!
からす、どじょう、しらさぎの共通点!


「トラなら大阪、鷹なら福岡。鯉なら広島」
「鯛やヒラメなら龍宮城なのにねー!」


龍宮城!?
…そう、か!
でかした、あおい!
服部も気づいたらしい表情をした。


「歳サバ読んでんのとちゃう?」


…え?


「和葉!今お前なんて言った!?」
「え?」
「なんて言ったか聞いてんのや!」
「サ、サバ、読んでんのと違う、って、へ、平次!?」
「コナンくん!」


俺の、俺たちの推理が正しいなら…!


「今、時間は午前6時10分前!」
「平良さん見つけてからもう12時間以上経ってんぞ!俺らの推理通りやったらまだ残ってるはずや!」
「あぁ!あれがまだあそこに…!」


そう言い、平良さんの遺体発見現場に向かう。


「あ、あらへんぞ!くそー…、やっぱり犯人に消されてしもたか…!」
「…いや、見落としてるぜ?俺のこの小さな足跡をな…!」


ならやっぱりアレはトリック。


「すっかり騙されたぜ」
「でもどないすんねん?犯人わかったけど、証拠があらへん」
ないんなら出させるしかねぇだろ?…姫が眠るこの森に誘い出して」
「…せやな。その姫はもう泣いてるかもしれへんけどな」


でもあの人にこれ以上、人を殺させないためにも、するしかねぇ。


「コナンくん!どこ行ってたの!」
「心配させなやー!」
「まぁええやんけ!お陰でわかってしもたんやから!」
「わ、わかった、って、」
「まさか…!」
「そうや。犯人が使ぉたトリックも、その犯人がとぼけた顔して俺らの側にずーっとおった、ちゅうこともな!」
「こ、この中に犯人がいるの!?」
「誰なん、それ!?早ぉ教えてぇな!」
「そらまだや!」
「「はぁ?」」
「誰がやったか、っちゅうんは、コレから1人ずつ話聞かせてもろて決めさせてもらうで?まずは久米さん。あんたからや」


事前に服部と打ち合わせした通り、久米さんを別室に連れて行きしばし談笑。
最初構えていた久米さんも、事件とは全く関係ないことを話し始めた服部に対し、警戒を解いた。
その隙をついて、麻酔銃で眠らせた。


「30分は経ったし、んじゃまぁ、打ち合わせ通りに行くで?」
「あぁ」
「…コラ!ちょぉ待て!どこ行くねん!!」


そう言いながら服部が扉から飛び出す。


「おい、どうした?」
「どうもこうもあらへん!アイツ逃げよった!」
「に、逃げたってことは、犯人は…!!」
「平次兄ちゃんがあんな嫌味言うからだよ?あんたが喋んの待ってたら、浦島太郎になってまうでぇ、なんて!」
「しゃーないやろ?何聞いても答えへんねんから!ま、とにかくみんなして手分けして久米さん探そ」


チラッとあおいを見たら、どうしたらいいの!?と、顔だけで切羽詰ってます感を十分に感じられる表情をしていた。


「あおい姉ちゃんは、和葉姉ちゃんと海の方探してきてくれる?」
「う、海の方?」
「そう、久米さんが入水自殺しないように、早く見つけないとでしょ?」
「コ、コナンくんは?」
「…僕と平次兄ちゃんは、いないだろうけど、念のため森の方を探してみるから。あおい姉ちゃんたち薄着だし、そんな格好で森に入ったら手足が傷だらけになっちゃうから来なくていいからね?」


そう言うと和葉と共に砂浜に向かったあおい。
…その姿が見えなくなってから服部を見ると口の端を持ち上げ笑っていた。
…じゃ、後は手はず通りに、と。
事前の打ち合わせていた通り服部が久米さんから借りた服(実際は自分の服の下に着ていた)で森に入る。
そして…、


「何驚いてんねん。あんたが教えてくれたんやんけ。グソーの使いにマブイ取られたなかったら、口にシーグ咥えとけ、って。…そうやったよなぁ?大東さん?」


久米さんと勘違いした服部を殺害しようとした真犯人、大東さんが現れた。


「オジサンが狙ってた久米さんはまだ家の中だよ。ぐっすり眠ってもらってるけどね」


罠にかけられたことを悟ったのか、大東さんがうろたえているのが手に取るようにわかった。


「3人はお嬢さまを誘拐し、家政婦を殺害し屏風まで盗んだ例の強盗グループやったんやろ?」
「…おいおい、何言ってんだ!久米の兄ちゃん探してたら怪しい人影見つけてよ。慌てて捕まえようとしただけだぜ?それに俺には平良の姉ちゃんを殺せねぇんじゃなかったのか?」


そう、あの作られたトリックにまんまと騙されサバを読んでいたのは俺たち。
クルーザーが立てた波の後をあたかも満潮時の波後のように見せたトリック。
…実際の満潮は恐らく平良さんの遺体を発見した時のあの位置くらいしか波は来ないんだろう。


「でも僕の足跡は残ってたよ?平次兄ちゃんが僕のサンダルとあの字の写真を撮ってたときに僕すぐ横に立ってたのに、その時の足跡がまだ消えてなかったんだよ?」


それは波打ち際があそこではないという決定的な証拠。
そして服部が推理を続ける。
海に沈んだ碇に縛り付けられた「姫」


「柱の字にあったやろ?姫眠るるは 甲なりて 乙にあらず。これだけやったらなんのこっちゃわからへんけど、浦島太郎の昔話とこの島が鬼亀島やゆうこと合わせたら筋は通んで。甲は亀の甲羅。乙は龍宮城にいる乙姫。ちゅうことは『姫』は海の中やのぉて亀の航路。つまりこの島の森ん中にあるっちゅうことや」


その姫とは、4年前に平良さん、久米さん、船長そしてこの島で1年前に餓死した男の4人に盗まれた町長所持の「金の屏風」のこと。
犯人グループがその屏風を見つけてなかったらこの島で行われる東西探偵対決のスタッフとして潜り込んでくる可能性は高かった。


「だがどうやってその仲間を見つけたんだ?」
「浦島太郎だよ。ほら、オジサン言ってたじゃない。浦島太郎になったみたいだ、って。それを聞いてすぐに意味がわかるのは犯人グループだけだからね」


そしてそれに反応した平良さんを服部を絞め殺そうとしたように、手に持っているロープで殺した。


「惨殺した船長とちごて、平良さんは丁寧に扱われとった。あら犯人が知ってた証拠や。平良さんの正体が4年前誘拐された美弥子お嬢さんや、っちゅうことをな!つまりあの誘拐は狂言でお嬢さま自身も強盗グループの1人やった、ちゅうこっちゃ」


それはあの屏風を「姫」と呼んだこと。
あの屏風の絵は白鷺。
つまり白鷺城と謳われた姫路城の「姫」
「かあちゃん」の「かあ」は烏。
つまり烏城と呼ばれていた松本城=家政婦の松本良子さんのこと。
そして「ちよにい」は千代田城の別名を持つ江戸城。
江戸城は東に構える大きな城、…大東さんを指す。
もっともお嬢さんは最初江戸城の江を取って「どじょうさん」と呼んでたようだがな。
服部の推理で観念したのか大東さんが犯行理由を語り始めた。
船長殺害はやはり私怨。
…婚約者の松本良子さんを殺害されたための犯行だった。
あの誘拐事件は母親を亡くしたお嬢さんが、血の繋がらない父親(町長)の愛を確かめるために起こしたこと。
それに気づいたのか身代金を突っぱねた町長に反発して屏風強盗をした…。
その時に、大東さんの婚約者、松本さんが殺されたのだった…。


「この事件は、空けてはいけない玉手箱だったのかもしれませんね…」


そんな彼の気持ちを代弁するかのように、金の屏風は悲しく彼を見守っていた。
長い間密封され、急に空気に触れて酸化したために零れ落ちた絵の具がまるで涙のように…。

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