■第2の事件
「おい!どないした!?犯人見つかったんか!?」
2階に駆け上がると、廊下でチャラ男Bが震えていた。
「違う、違う!」
「え?」
「その兄ちゃんが急に大声を出して腰を抜かしたんだよ!壁のカーテンに隠れていたこの絵を見て、な!」
そう言ってロウソクの灯りに照らされた絵を見る。
…この絵…お嬢さま、か?
「ね、ねぇ!その絵のモデルってお嬢さまなんじゃない!?」
「ほんまや!さっきの写真にそっくり!」
「たぶん、奥さんが描いたんじゃないかなぁ?奥さんは絵を描くのが上手だったと良子さんが言ってたし!」
「良子さん?」
「あ、ああ。私のいとこで町長の家で家政婦をやっていたんだよ」
「…へぇ?つまりここには町長の家に関わりのある人間が4人もいる、ってわけか!」
4人?
4人て誰のことだ?
そう思った俺の問いに、チャラ男Aが親切に答えてくれた。
曰く、チャラ男Aの母親は町長の奥さんの妹だし、ディレクターは家政婦といとこ同士。
そこのチャラ男Bは小中高とお嬢さまと同級生。
それに大東さんは町長の奥さんと幼馴染、か…。
「去年その奥さんの墓参りに母さんと来た時にこのおっさんも来ててな!母さんが聞いたら幼馴染だ、って答えてたんだ。母さんは覚えてないって言ってたから本当かどうかは眉唾モンだが?」
「まぁ無理もないさ。お前の母ちゃんと奥さんとは歳が離れてるからよ!」
「…ねぇ。お母さんが奥さんの妹なら、お兄さんもこの島に来たことあるの?」
「いや。この島どころか町長の家にも行ったことはほとんどねぇよ!町長は大金持ちで敷居が高かったからなぁ!」
そう言って俺にウィンクしてきたチャラ男A。
…確かにコイツとあの町長は合わなそうだよな。
お嬢さんを見たのも小さい頃だけ、か。
「じゃあなぁんで、お嬢さまの絵見て久米さんがビビらなあかんねん」
「さぁな?お嬢さまの幽霊でも出たとでも思ったんじゃねぇか?お嬢さまはもう、殺されてるって噂だったしな」
…幽霊、ねぇ。
「そ、それじゃあこの家には怪しい人は隠れていないみたいだし、みんなで1つの部屋に固まって救助船が来るのを待つとしよう」
竹富さんの言葉に1階に戻る。
何も会話もないまま、時だけが静かに、緩やかに流れていく。
あおいと和葉は寄り添って寝ていた。
…この状況でいい気なもんだ。
まぁそれがオメーらしいっちゃらしいけどな。
「おい、いくらなんでも遅すぎねぇか?」
「ああ…。ま、あのオッサンのことやからどーせどっかのお姉ちゃんと酒盛りでもしとんのとちゃうか?」
それも泡盛で騒いでそうだ…。
「あのボケナス!」
「ははは…」
否定できねぇぞ、オッチャン。
ドスン!!
「ふぁあ…。なんや、今の音?」
「んー…、あ!も、もしかしたら!」
そう言ってあおいと和葉がライトつき時計(探偵団のメンバー、ってことであおいも自分の分を博士に作ってもらった)を持って部屋から飛び出して行った。
その後に俺も続いた。
「やっぱり!」
「助かったー!」
確かに闇の向こうにクルーザーが見えた。
「おーい!」
「ここやここ!」
助かったという解放感からあおいも和葉もどこか声が嬉しそうで。
2人でクルーザーにむかって駆けて行った。
「なんや変やぞ、あの船?」
「ああ…。それに留め方もむちゃくちゃだ」
クルーザーが少しずつ、あおいの持つ明かりに照らされていく。
「あ!?」
「ああっ!!?」
明かりの先には、クルーザーの縁から吊るされた船長の遺体。
その脇には、あの『我はグゾーの使いなり』の文字。
「「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
あおいと和葉の悲鳴を夜の海が飲み込んだ。
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