キミのおこした奇跡side S


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孤島の姫と龍宮城


無自覚の凶器


あおいたちが呼んできたスタッフの前で服部が簡単な遺体検証の結果を話す。
さすがにみんな顔色が悪い。


「でも探偵の兄ちゃんよ、なんでわかるんだ?ついさっき逃げたなんて」
「簡単だよ!ほら、見てよ!砂があそこまで濡れてるってことは、満潮の時あそこまで波が来てた、ってことでしょう?今、波は字のすぐ下だから波は引いた後。たぶんさっき書いたんじゃないと字なんて波で消されちゃってるよ!」
「ついでに言わせてもらうとここは船着場の真裏や。俺らはみんな1時間前からこの姉ちゃんを船の中で待っとって、真っ先に探しに出た俺とこのボウズが島の両側から回りこんでこの姉ちゃんの遺体を見つけたっちゅーことは、俺ら以外にいてるっちゅーこっちゃ!この姉ちゃんを絞殺しよった殺人犯がな!」


そう。
この遺体の状況から考えられるのは、外部の人間の犯行。
この島のどこかに、殺人犯がいる。


「和葉、お前確かデジカメ持ってたな?」
「あ、ああ、うん。今持ってるよ?」
「ほんなら工藤、例の光る時計とサンダルの片っぽ貸してくれ」
「あ?時計はわかるけどサンダルって?」


と、思いながらも服部に提示されたものを差し出すと、服部は砂に書かれた文字の上に俺のサンダルを置いた。
…なるほど。


「大きさの比較になるものがほしかったわけね」
「今撮っとかんと次に潮が満ちた時、この字が波で消されてしまうからなぁ」


パシャ


「なんだおい、時計いらねぇじゃねぇか」


フラッシュつきのカメラじゃねぇかよ!


「ほんまや。…ほんならこの姉ちゃんも波に攫われる前に船まで運んどこか?」


そう言ってあおいたちに絡んできた男2人が平良さんを運び出した。


「ひょっとしたら海の中に何かあるんじゃないか?」
「海の中?」
「ほら、平良さんこの島に来てすぐシュノーケリングしてただろ?こんな海にわざわざ潜るなんて絶対何かあるぜ」
「…こんな海?」
「ねぇ!それを調べるのは船で向こうの島に1回帰って明るくなってからにした方が…」
「ふん!そういうやろ思たで。ほい!」


え?
服部が手にしていた俺のサンダルを放り投げた。


「なんだよオイ!」


人が貸してやったのに!
とサンダルを取りに行った直後、服部が砂浜を走り出した。
…まさかアイツ、俺が止めるのを見越してサンダルを!?


「誰か平次兄ちゃんを止めて!」
「「え?」」
「海に潜る気だよ!」
「…ええやん、別に海に潜るくらい」
「海の中に事件を解く鍵があるんでしょ?服部くん泳げないわけじゃないし大丈夫じゃない?」
「…肝の据わった兄ちゃんだ」
「え?」
「潮流が早いこの海で、こんな暗い中潜ったりしたら…、プロのダイバーだって下手すりゃ土左衛門だぜ」
「「えっ!?」」


ようやく事態に気がついたあおいと和葉が一足先に服部のいる波打ち際まで駆け出す。


「平次ー!やめときー!」
「危ないよー!」
「っ!?へ、平次!!」


あのバカ潜りやがった!!
くそった


「うわぁ!?」
「コナンくんまで行っちゃダメッ!!」


思わず海に飛び込もうとした俺の腕をあおいが思いっきり引っ張ったことで重心が傾いた。
…えっ!?


「プロのダイバーも流されるならコナンくんなんてあっという間に流されちゃうでしょ!!行っちゃダメ!!」
「…はい」


重心が傾いたため身を反転させた俺を、あおいが抱きとめた。
…ことで、俺の顔、今あおいの胸に挟まれてんだけどっ…!
服部は心配だ。
あのバカ流されでもしたら今の俺らの装備じゃ捜索のしようがねぇし!
でもわかるだろ!?
俺も今それどころじゃねーんだよっ!!!


「平次ー!!平次ーー!!!」
「服部くーーん!!」


悲鳴に近い和葉の声と、あおいの声。
の、前に俺はただただ身動きが取れずにいた。


「あ!いたよ!!」
「平次ーー!」


あおいのその声と共に解放された。
…あ、あり得ねぇ!
この女なんでなんとも思わねぇんだよっ!
人の顔胸で挟んでおいて!!(実際には挟むっていうか、鎖骨と胸の間に頭が激突しただけだけど俺には十分「挟む」の域だっ!)
俺も男だぞっ!?
オメーだって、あの位置に胸がきたらオメー…!!
無自覚か!?
無自覚なのか、アレは!?
ふざけんじゃねーっ!
なんだあの凶器!
生死に関わるかもしれねーってのでそれどころじゃなかったのはわからなくもねぇけど、だからって俺の顔がっ…!!
この姿で普通に抱きしめられんのだって動きづれぇってのに、あんなんされたら身動き全くとれねぇじゃねーかよっ!!!
なんてことを、間違いなく赤いであろう顔をしながら思っていた。


「ムロアジは潮流の早い海にいてる回遊魚や。その魚の群れ狙ぉてるかもめもぎょーさん飛んでたし」
「じ、じゃあさっきコナンくんと2人で平良さんを慌てて探しに出たのって、」
「そうや。あの姉ちゃんがあの後も海に潜っていたとしたら、潮に流されたかもしれへん思てな」
「けど平次!カッコつけすぎやで!1人でそんな海に潜んのなんか!」
「アホゥ!俺は早ぉ事件解決したろ思て、」
「そうそう!まさか平次兄ちゃんが小五郎オジサンに確実に勝つために先に事件の材料集めとこうなんてズルイことするわけないしね」
「えっ!?」


なんとか自分を立て直そうと、無自覚バカ女に対する怒りを服部にぶつけた。


「あ、当たり前やんけ!そ、それよりコ、コナンくんはなんや顔が赤いみたいやけどどないしたん?」
「…夕日のせいじゃない?」


そしたら逆に服部から突っ込まれた。
くっそー、顔の熱がなかなか静まんねぇ…!


「とにかく話はクルーザーに平良さんの遺体を運び込んでから、」
「どこに運んでからだって?」
「だからクルーザーに、」
「ち、ちょっと!」
「クルーザー無くなっとるやん…」
「ま、まさかあの船長、殺人があったからビビッて逃げ出したんじゃ…!」
「アホゥ!遺体があったんは俺らしか知らんことやないけ!」
「じゃああの船長が犯人なんじゃないのか!?俺たちが平良さんを探しに船を出払った後、クルーザーで島の反対側に先回りして
平良さんの遺体と文字を…!」
「無理や。あん時俺とこのボウズは海沿いを回りながら探したんやで?」
「クルーザーが通ったらわかると思うけど?」
「ふん!どっちにしても、事件の鍵は…あの船長が握ってるようだな?」


いつまでも顔を赤くして余韻に浸ってる(いや、決して浸ってるわけじゃない!)場合じゃなく、事件は少しずつ動き始めていて。
…そう、だな。
消えた船長が、何かしら知ってる可能性は、ある。


「夜になってもスタッフが帰らないのに気づけばテレビ局の人が探しに来るだろうし、おじさんもきっと…」
「あ、いや…」
「「え?」」
「この島のロケハン、本当は昨日やるはずだったんだ。でも船とかの手配に手間取っちゃって…。だからプロデューサーに内緒で今日こっそり…」
「おいおい!じゃあ俺たちがこの無人島に来てること誰も知らねぇのかよ!?」
「あ、ああ…。ロケハンは昨日済ませたって言っちゃったから…」
「まさかあんた、番組を盛り上げるためにあの船長とつるんでこんなことしてるんじゃないだろうな!?」
「と、ととととんでもないっ!!」
「まぁ大丈夫やって!いくらなんでも小五郎のオッチャンが気ついて迎えに来てくれはるって!あの家ん中で待っとこ!」


その和葉の言葉に、いかにも怪しげな廃墟と化してる民家を見る。


「なんかヤバイんとちゃうかぁ?俺ら」
「ああ…」


こう行動するように仕組まれていたような、そんな感覚。
犯人の手のひらで踊らされてるような、奇妙な感覚を抱きながら建物の中に入っていった。

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bkm

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