■謎の暗号と第1の事件
「ちょっと船長!あんまり波を立てないでよね!」
島についてから、服部の機嫌が微妙だ。
厳密にはあの茶髪の「ねーちゃん」の水着を外して微妙だ。
「黒のウエットスーツだな」
「あ、あれぇ?おかしいなぁ…」
ま、そんな推理が百発百中でも何の得にもならねぇし。
「平次ー!」
「ディレクターさんが呼んでるよー!」
その時あおいたちが声をかけてきた。
「ほら!仕事だってよ」
「お、おお…」
服部に声をかけてからあおいたちの方に行った。
そこには廃屋の柱に刻まれた謎の暗号があった。
「姫眠るるは 甲ありて 乙にあらず、か…。ほんまにこの柱に刻まれてる字の前に遺体があったんか?」
「あ?ああ。文字を背にするように寄りかかっていたそうだ。何日も飲まず食わずで餓死した男の遺体が1年前に。…ちょうど1年前に大型の台風が立て続けにやってきたから、その台風で転覆した船の乗員がこの島に流れ着いたんじゃないか、って地元の人が言ってたけど、どうにも、この奇妙な文字がねぇ…」
餓死した男の背に暗号、ね。
なかなかなミステリーじゃねぇか。
「なぁ、誰が建てたん?無人島にこんな家」
「町長の金城さんよ」
「え?」
「前は別荘変わりに使ってたらしいけど、台風でめちゃめちゃになってからは手入れしてないみたいね」
し、白のビキニ!
振り向いた先にはウエットスーツを半分脱いで白のビキニを着ている平良さんがいた。
コイツ実は目に水着センサーでもつけてんじゃねーか?
そう思って服部を見ると、勝ち誇ったように口の端をあげていた。
「確かに、前に来た時とはエライ変わりようだ…。まるで、浦島太郎にあった気分だぜ…」
「前に、って、この島にはよく来るの?」
廃屋にやってきたスタッフの1人、大東さんに尋ねた。
「ああ。2年くらい前まではよく船の上から見てたよ。この辺はムロアジがよく取れるからな」
…ムロアジ?
じゃあここらへんの海は…。
「この島の先に絶好のダイビングスポットがあるから」
「遺体が見つかってからはダイバー仲間は気味悪がって寄りつかなくなったけど」
「まー、とにかく!僕はここで服部くんと打ち合わせをしてるから、島の周りの怪しげな場所適当に探してきてよ!これが謎を解く鍵なんじゃないか、って奴を!」
そう言ってスタッフたちが散らばる。
…テキトーってことはこのディレクター、服部の推理を信用してねぇな。
服部甘く見てると痛い目見るぜ?おっさん。
「姫眠るるは 甲なりて 乙にあらず…」
日も沈みかけ、クルーザーの中で全員揃うのを待つ間、さっきの暗号を考える。
「甲は多分、甲乙丙のことやから、姫が寝てんのは2やのぅて1や、っちゅーことやろうけど、おい工藤!なんかわかったか?」
「いいや、全然」
「…お前ほんまはわかっとんのに、東京に勝たそう思てとぼけとんのとちゃうやろな?」
「なわけねーだろ!」
ガキじゃあるまいし、どんな理由だ、おい!
そんな時、
「もしかしてお姫さまの寝顔は1番、てことじゃなぁい?」
あおいのあおいらしい推理が炸裂した。
「あ!待って!普段は綺麗なお姫さまやけど、寝顔は乙やないって意味なんちゃう?」
「うーん…甲乙つけがたい!」
「あおいちゃん上手いこと言うた!」
「えへへー!」
「じゃっかましーわ、どアホウ!!あーもうくそーー!!!」
解けねぇからって他人にあたんじゃねーよ!
ほんっとこいつ感情的になりやすいよなぁ…。
「そう言えば平良さん遅いね…」
なんて思っていたら、あおいのこの一言。
…そう言えばそうだな。
もう他のスタッフが来てから大分経つのに…。
「もしかしたらまだ潜ってんのと違う?」
「あるかもしれないね」
…「まだ潜ってる」!?
ヤバイ!
服部と顔を見合わせて走り出す。
もし本当にそうなら、ここら辺の海は…!
「じゃあ、俺はこっち側から海岸沿いに探すから」
「おぅ!こっちは任せ!」
「あおい姉ちゃん行くよ!」
「え!?あ、はい!」
海の方にも目を向けながら平良さんを探す。
「平良さーん!平良さーーん!!」
…くそ!見つからねぇか!
早くしねぇと
「!?」
遅かった、か…!
服部たちも回り込んで合流した後、脈拍を確認。
土気色の顔から想像は出来ていたが、やはり平良さんはもう…。
「オメーはどう思う?」
「…殺されたのはたぶん、2時間くらい前。細いロープみたいなもんで首絞められたんやな…。手足についてる細かい切り傷は首絞められてる時に暴れてあたってしもぅた草や枝の跡…」
「つまり犯人は平良さんを森で殺害した後わざわざここに運び、ついさっき逃げて行った、ということになる」
「せやな…。この気色悪い文句を砂の上に残してな」
我はグソーの使いなり、か…。
俺と服部がいる前で事件を起こしたこと、後悔させてやるぜ、グソーの使いさんよ!
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bkm