キミのおこした奇跡side S


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夏祭り


夏の夜の帰り道


探偵、ってこともあるが、俺は人の気配や視線に敏感だと思う。
その俺がやたら視線を感じるからなんだと思えば、そういや俺たち今駅のホームで座り込んで抱き合ってんだけど…、って。
もっと早く気づかなかったのか?って突っ込まれそうだが、泣いてるあおいを前にそれどころじゃなかったわけで。
泣き止んできたし、俺も冷静になってきたしでよくよく考えて見ると、駅のホームの真ん中で浴衣姿の女子高生が小学生に抱きついて泣いてるって、ジロジロ見られて当たり前な気がすんだけど…。
さすがにこの場から逃げたくなってきた。


「ご、ごめんね、歩いて帰ることになっちゃって…」
「だから大丈夫だって」


あおいのマンションまでは少し距離があるが、この場から早く立ち去りたかった俺はなんとか上手いこと言いくるめて歩いて帰ることにした。
真夏の夜特有の暑さをすり抜けるように横切る風がひどく心地良い。


「そう言えばあおい姉ちゃんて野球好きなの?」


いつの間にか繋いでいた手の先を辿ると、少し赤い顔をしている(気がする)あおいがいた。


「な、なんで?」
「んー…、結局宝塚じゃなくなったじゃない?だから本当に大丈夫なのかなぁって思って」
「あ、ああ、うん、大丈夫だよ!野球はよく観てたからルール知ってるし!」
「…よく観てたって?」


オメー未だサッカーのルール覚えてねぇくせに!
なんて思ったけど、


「うん。お父さんが好きでよくテレビ中継のナイター一緒に観てたんだ」


そんなこと一瞬でも考えた自分を恥じた。
お父さん、か…。


「あおい姉ちゃんのお父さんはテレビ中継だけだったの?」
「うん?」
「現地に観に行ったりしなかった?」
「あー…、うん。うち地方だったからプロ野球やるような球場なかったし、行くとしたらだいぶ遠いからね」
「じゃああおい姉ちゃん自身も初めて?」
「球場で見るの?うん、初めてだよ。コナンくんは?サッカー場だけ?」
「そうだね。ずっとサッカーばっかりだったから」
「じゃあ甲子園は初めてなんだ?」
「うん。僕サッカーの方が好きだしね。あおい姉ちゃんは?」
「私、は、野球の方が詳しいんだけどね」
「サッカーもおもしろいよ?僕が教えてあげるよ」


これは俺のエゴかもしれない。
でもやっぱり、俺の好きなものを、あおいにも知ってもらいてぇし、できれば好きになってもらいてぇ、って思う。


「…じゃあコナンくんに教えてもらおうかな」
「いいよ!じゃあ今度みんなでJ1観に行こうか?」
「え!?」
「え?」
「あ、ううん、なん、でも…」
「なに?」
「…J1は、」
「うん?」
「一緒に観に行く約束してる人、いる、から、その人と行くまでは、みんな、では、ちょっと、」


−J1。一緒に見に行こうぜ?−


それは「俺」が「工藤新一」の姿で言った言葉。
あの時あおいは返事はしたけど少し曖昧な返事だったはずなのに。
それでもこうやって覚えていてくれたことにすげぇ…、自分でも口元が緩むのを感じた。


「…ちょっと待って」
「え?どうしたの?コナンくん」


どこか擽ったいようなそんな思いを抱いていたら、あおいが少し、ぎこちないような歩き方をしているのに気づいた。


「あおい姉ちゃん、」
「うん?」
「痛いの?足」
「…え!?…だ、だいじょ」
「親指と人差し指の間、鼻緒で擦れたんじゃないの?」
「………な、なんでわかったの?」
「下駄の音」
「え?」
「さっきまで規則正しく響いてたのに、今は少し…引きずるような感じになってた」
「コナンくんて、」
「うん?」
「良い探偵だよね…」


あったりまえじゃねーか!と思いながら自分のサンダルを差し出した。


「はい」
「え?」
「下駄。脱いで。僕がそれ履くからあおい姉ちゃん僕のサンダル履きなよ」
「…え!?」


足の指擦れてるの知っていながら放っておくなんてことできねぇし。
…工藤新一の体なら、おんぶとかも出来たんだけどな。
下駄とサンダル変えるしか方法ねぇとか。
かっこ悪ぃけどしゃーねぇ。


「い、いやいやいやいや!さすがに足のサイズ合わないしそんなことはできるわけな」
「大丈夫だよ」
「な、何が?」
「あおい姉ちゃん21.5センチでしょ?僕20センチだし。少し小さいけど履けると思うよ」


あおいが何か言いたそうな顔をしてる。
まぁ…、気持ちは分からなくもねぇけど。


「履きたくないならそれでもいいけど、」
「え?」
「あおい姉ちゃんが下駄貸してくれないなら僕裸足で帰らなきゃなんだけど」


心底困りました!って顔しながらも最終的には


「じ、じゃあ、借りる、ね」


そう言ってあおいは少し小さい男児用サンダルを履いた。
俺は俺で女性用(の、中でも1番小さいサイズ)の下駄を履く。
…それすら若干でけぇ。
こんなところでも「工藤新一」の姿を渇望するハメになるとは…。
自分の足元から普段は聞きなれない足音を響かせながら、月明かりの中歩き出した。

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bkm

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