キミのおこした奇跡side S


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夏祭り


初めての夏祭り


「推理対決?」


宝塚VS甲子園の推理勝負が終わった翌日、俺を踏み潰して寝た服部はエライすっきりした顔をしていたけど、それとは対照的にいかにも「徹夜で語り合っていました!」って言う顔のあおいと和葉が探偵事務所にやってきた。
それを確認した蘭があおいに頼みがある、と切り出したわけだけど。


「テレビ局の企画でね、」
「テレビ!?おじさんテレビに出るの!?」
「まぁ、俺ほどの有名人ともなるとテレビ局から声かけられても不思議じゃねぇよな」


あー、そういやこの間そんなこと言ってたな、確か。
なんでも日売テレビの企画で、


「サ、サインお願いしちゃおうかな?」
「おぅ!いっくらでも書いてやっから色紙いっぱい持って来い!!」


…ミーハー女が。
いや、すげぇらしいっちゃらしいけど。
でも俺も「工藤新一」で活躍してた時はテレビに雑誌に新聞にと出てたんだけど、オメー一ッ言もサインくれなんて言わなかったよな?
…別に言ってほしいわけじゃねぇけどさ!


「で、でも沖縄、なんでしょ?」
「うん?」
「今度大阪に行くし、わ、私そんな旅費出せな」
「ああ!大丈夫!テレビの企画だからテレビ局が全額出してくれるって!」
「そ、そうなの?…うん、なら、いいよ」
「ほんとに!?いつもごめんね。今度お礼するから!」


俺が違うこと考えていたら、話がまとまったらしい。


「のぉ、工藤」
「あん?」
「和葉から聞いたんやけど、あおいちゃん両親事故でもういてへんらしいやん」
「…ああ。そうだな」
「生活費とかどないしてんねん?」
「…親の保険金があるって聞いた時はあるけどな」
「…そぉか」


それきり服部は何も言わなかった。
…親が残した保険金があっても、湧き出る泉のごとくいつまでも続くわけじゃない。
それはいつか尽きるもので。
それがいつかはわからないけど(何せ残高知ってるわけじゃねぇし)もし尽きた時、俺が力を貸すことはできるのか、貸せるくらい頼りにされる存在になれてるのか、考えなくもなかった。


「沖縄かぁ…。沖縄、って言ったらやっぱり星の砂!」


俺が少し、思いを巡らせていたらあおいの頭はすっかりめんそーれ。
この楽観的なところはある意味救いだよな。


「星の砂て普通に取れるんやろか?」
「うん!取れるよ!知ってる?星の砂って昔空から隕石が落ちてきた名残なんだよ!」


コイツまだ信じてたのか、あの話…。


「その星の砂の話、誰から聞いたの?」
「え?…誰から、って、園子から。その時に蘭も一緒じゃなかったっけ?」


忘れちゃった?的になんの疑問を抱くことなく蘭に聞いてくるあおいに軽く眩暈を覚えた。


「あ、あのね、あおい。その話の時確かに私もいたけど、まさか今まで信じてるとは思わなかったんだけど、」
「…え?」
「あんなあおいちゃん。星の砂て、隕石とちゃうよ?」
「え!?」
「星の砂っちゅーんは、原生生物の有孔虫の殻のこと!隕石とはなーんも関係あらへん!」
「ええっ!!?」
「お前園子に騙されたんだよ!」
「えー!!?」


顔を赤くして動揺するあおい。
断言してもいいけど、園子はオメーのそういう表情を見たくてこういうくっだらねぇ嘘吐いてると思うぞ…。
…やっぱあの時教えてやればよか


「はっ!!もしかして工藤くんも知らないのかもっ!!」
「それはないと思うよ」


俺が知らねぇわけねぇじゃねぇか!
その言葉にあおいはさらに顔を赤くして。
オッチャンは相変わらずひぃひぃ笑ってるし!
服部は


「知っとったけど、そんなんどーでもよーなるくらいあおいちゃんが可愛かったんやもんなぁ?」


…しまった。
俺コイツにうっかり沖縄の夜のこと話ちまったんだ…。
隣でニヤッニヤする服部に、顔が少し熱を帯びた気がした。


「わぁ!結構人来るんだね!」


星の砂が有孔虫の殻だってあおいが理解した後、服部たちが「今度も俺が勝ったるでー!」と言いながら賑やかに大阪に帰って行ってから数日(てゆうかアイツ勝ったこと反省してたんじゃねぇのかよ…)
今日は杯戸町の花火大会。
そういやあおいがこっちに来て4年。
「夏祭り」に一緒に行くのは初めてだ。
というのも、1年目はアイツが俺の裸見て大騒ぎになったし、2年目はハワイで溺れかけて大騒ぎだったし!
3年目の去年は、内部とは言えささやかな「受験」があるのにノコノコ遊びに行けるような頭じゃねぇーし。
もちろんあおいが。
そんなんで、一緒に祭りに行くのは初めてで。
なのに2人きりじゃなくてガキの引率!
まぁ…そうでもしないと現在小学生の俺とあおいが一緒に祭りに行くことなんてねぇんだろうけどさ。
それでも少し、やり場の無い思いが胸を駆け巡るのは仕方ねぇことだよ、な…。


「あおいお姉さん、杯戸のお祭り初めてなの?」
「ここらへんではわりと大きくて有名なんですよ!」


あおい自身は歩美ちゃんが誘った時、すぐに「行く」と言ったけど、他に誘ってきた奴(クロバとかクロバとかクロバとか)いなかったのか?って。
少しだけ気になったのは事実。
でも隣をカランカランと下駄を鳴らしながら歩くあおいを見たらまぁ…、どうでもいーか、って思った。
光彦たちを上手いこと懐柔させて、あおいの右に歩美ちゃんと灰原、左に俺。
後ろに光彦と元太を並べることであおいを囲むように歩く。
…誘ってきた奴のことはどーでもいいが、この場で変なヤローに声掛けられても困るし。
まぁ念のため、って奴だ。
…灰原はニヤッと笑ったからなんか気づいてんだろうけど。


「あおい姉ちゃん、下駄歩きにくくない?」
「大丈夫だよ!ありがと、コナンくん」


舞妓姿とはまた違う、「可愛い」印象を与える普段の服装とは違い、少し大人びた印象を与える浴衣で。
やっぱり黒髪に着物は似合うよな、とか思ったり。
相変わらず衣擦れのたびに、良い匂いをさせるあおいに、思わず手を伸ばしたくなるような、そんな感情が湧いていた。


「おい元太!オメーまだ買う気かよ?」
「だってよー!美味そうじゃねぇか!」


ほんと良く食うよな、コイツ…。
あおいと体重そんなに変わんねぇんじゃねぇのか?
1年でその体重…。
コイツの将来大丈夫かよ…。


「ああっ!なんで俺の手は2つしかねぇんだよ!もう持てねぇじゃねぇか!」
「元太くん。それ以上食べたら花火見てる時にお腹痛くなって、トイレ行かなきゃいけなくなるからもう止めておこう?」
「…ちぇー」


あおいがなんとか説得して、これ以上食いものを買うことを諦めた元太。
…うん。
ちゃんと引率者してる。


「ここです、ここです!」


光彦が言う穴場スポットは神社の境内によじ登って見るって場所だった。
なんでも祭りのために解放してくれてて知る人ぞ知る場所なんだそうだ。


ヒュー ドーン ドドーン


「綺麗だねぇ!」
「ほんとほんと!歩美こんなに静かなところで杯戸の花火見るの初めて!」
「そうなの?」
「うん!いっつも土手に行ってるから人が多くて大変なんだよ!」


確かに人も多いけど、現地では現地の醍醐味があるんだよなぁ…。
来年はそっち連れて行くかな。
…「俺」が戻っていれば。
さすがに2年連続でガキどもと一緒に祭りデートはごめんだ。
どうにかしてそれまでに戻っときてぇよ、な…。
なんて元太が買い込んだわたあめをみんなで食べながら、打ちあがる花火を眺めていた。

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bkm

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