■花舞う街で
「まるたけえびすにおしおいけぇ」
しばらく4人で歩いていたら、和葉が手まり唄を歌い始めた。
…へぇ、和葉も知ってんだな。
「よめさんろっかくたこにしきぃ」
「『よめさん』やのうて『あねさん』やボケェ!お前はその唄どこで覚えてん?」
「京都の親戚のうちやけど?小学校3年の時やったかなぁ?あんたと遊びに行った時に教えてもろてん!」
「俺と?」
「なんや!覚えてへんの?…そうか、私の仕度ができんの待ちきれんで山能寺の方行く言うて出てってしもたもんな?あん時、私着物着せてもろとってん!髪も結うてもろて、ちょっと化粧もしてな?そんであんた探しに山能寺に行ったんやけど、どこにもおらへんからしばらく鞠ついて帰ってん!ほんまあんたにも見せたかったわー!桜の花が舞っとってめっちゃ綺麗やってんで!…まるたけえびすにおしおいけぇ」
え。
今の会話…。
それに「よめさん」て言ってるし…。
チラッと服部を見たら、
「…」
俺が思った通りだったのか、微かにクチビルが震わせ「何か」を呟いたようだった。
「初恋の人に会えたん!?平次!誰!?あの舞妓さん!!?」
「お前には一生教えたるかボケ!」
「ええやんケチ!教えてぇな!」
「せやなぁ、まぁ1500年くらい経ったら教えたってもえぇで!」
「…それって1500年先も和葉ちゃんといるってこと?」
あおいが言った何気ない一言に、
「な、何を言っとんのじゃボケェ!誰がそんな長いことこのアホとおるかいっ!!」
「せやせや!なんでそない長いこと平次のお守りしてなあかんねんっ!!」
「なんやと!?だいたいお前はっ」
「あんたが何言うてんのっ!!?」
色黒が赤黒く、白塗り舞妓が赤白くなって喧嘩が始まった。
…ほんっと、よくやるよコイツら。
なんて思っていたら、
「いいなぁ…」
とあおいが呟いた。
隣のあおいを見上げるとちょうど目があって。
「私もずっと側にいてくれる幼馴染み欲しかったなぁって思ったの」
そう言って笑った。
…ああ、そうか。
昔から親戚の家転々としてたら、幼馴染みも出来ねぇよな…。
「あおい姉ちゃんは、」
「うん?」
「…いる?1500年先も側にいたい人」
一瞬、驚いた顔をして俺を見たあおいは、すぐ進行方向、服部たちが言い合ってる方向を見つめた。
「今日も明日も明後日も、…1500年先も、」
季節外れの桜吹雪を連れた温かい風が、京の街を吹き抜けた。
「…側にいれたらいいなぁ、って人、いるよ」
それはきっと今の「俺」だから言った言葉。
俺を見て笑うあおいは、すげぇ、桜吹雪に、京の街に、溶け込んで純粋に綺麗だと思った。
「そ、それってさー、」
「うん?」
「…新一兄ちゃんのこと、とか?」
何気なさを装って聞いた俺の一言にさっき以上に目を見開いて驚いた顔をした。
でも、
「…」
何か言うわけでもなく、ただだまって微笑むだけだった。
「コナンくんは?」
「え?」
「1500年先も、側にいたい人、いる?」
「…いるよ。…………側に、っていうか、その人のところに『帰りたい』って人、いるよ」
「…そっか。きっと待ってるよ、『その人』も」
あおいが俺の頭を撫でる。
これは「俺」に言った言葉。
でも「工藤新一」に言った言葉じゃない。
けど…。
オメーは、「俺」の帰りを、待っててくれるよな?
何をするわけでもない。
いつまでも、夜空に瞬く流星をただただ待っていた、あの日のように。
…あの日、明け方近くにようやく現れた流星のように、すっげぇ待たせちまうかもしんねぇけど。
確かな言葉はなくても、コイツなら、って。
約束の言葉なんて、なんも交わしてねぇけど、でもコイツならきっと、って。
そんな期待と希望が胸を占め、桜吹雪が舞い散る京都旅行が終了した。
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bkm