キミのおこした奇跡side S


≫Clap ≫Top

迷宮の十字路


少しの焦燥


「あったで、工藤!」
「俺の言った通りだろ?」


山能寺の薬師如来は玉龍寺の鐘楼の中に隠されていた。
これで全て解決、だな。


「そういや今日和葉が舞妓体験するー言うて張り切っとたで?」
「ああ、あおいたちと一緒に申し込んだみてぇだな?」


薬師如来を抱え(一応バレないように包んで持ってるが)山能寺に向かう途中、服部が言ってきた。
…そういやコイツ病院に帰ったんじゃねぇのか?
昨日のうちに未明にここに来るって約束アイツから切り出してきたけど。
まぁアレだけ動き回ってたんだし、問題ねぇか。


「あおいちゃんと言うたら、」
「あん?」
「なんで昨日玉龍寺に来たんや?」
「ああ…。灰原が呼んだんだと」
「あのちっさい姉ちゃんがか?」
「ああ。…俺が『工藤新一』に戻ったら無茶することが目に見えてるし、あおいに会わせることで止めようと思ったらしいぜ?」
「…そない言うたかてなぁ」
「あん?」
「連続殺人犯がいてる場所に行かせるか?」
「あー、それなー…。『あら?私念のため誰にも見つからないでって忠告したんだからそれでも見つかって殺されたなら運がなかったってことでしょ?あなたの彼女』だと」
「…えらいシビアな姉ちゃんやな」


そういう奴なんだって。
その後、無事薬師如来を元の場所に返し、一旦服部と別れた。


「あんた…」
「何!?」
「目の下にクマできてるけど大丈夫?」


…うーわ、コイツほんっとクマできてる。


「だ、大丈夫…!ちょっと、興奮してたって言うか、」
「はあ?あんたそんなに舞妓になりたかったわけ?早く言ってくれればいつでもつきあったのに!」


園子が呆れながらあおいを小突く。
あおいの寝不足は「それ」が原因なのか、それとも…。


「あら?コナンくんどこ行くの?」
「蘭姉ちゃん、僕平次兄ちゃんのとこ行くね!」
「ほんっと仲良いわねぇ、服部くんと!」


そう言ってあおいたちと別れ、服部のいる病院に行く前に、1度博士たちと合流した。


「コナンくんも一緒に帰ろうよー!」
「あー、悪ぃ!俺の分のチケットもう買ってあっからさ」


博士たちはイチがいるため遠路はるばる車で来たんだとか。
ご苦労なこった。


「俺たちも午後の奴で帰るし!」
「オメー1人で駅弁食ってんじゃねーぞ!?」


ツッコむところはそこなのか、元太…。


「じゃあまた東京でね?ほら、イチもバイバイして!」
「にゃー」
「…歩美ちゃんイチに懐かれたのか?」
「うん!昨日ね、山能寺であおいお姉さんがイチに『みんなお友達だから仲良くしてね』ってお願いしたらイチが歩美たちの側に来てくれるようになったの!すっごく頭の良い猫だよ!」
「…へぇ、あおい姉ちゃんが…」


アイツの言うことだけはちゃーんと聞くもんなぁ、イチは!


「…」
「…なんだよ?」
「別に」


俺がイチを見ていたら、助手席に座っていた灰原が異常に冷たい眼差しを送ってきていた。
…用がねぇなら見んなっつーの!


「じゃあオメーら気をつけて帰れよ?」
「うん!またね!」
「コナンくんも気をつけて!」
「駅弁俺のも買えよ?」
「ばいばーい!!」
「…………何あの顔、デレデレしちゃって」
「まぁまぁ、哀くん、そう言わんと…」
「じゃあ今日は倉木麻衣ちゃんの曲ー!」
「にゃー!」
「えー?俺わかんねーからヤイバーの曲にしようぜー?博士ー、ヤイバーの曲かけてくれよ!」
「ダメですよ、元太くん!行きもずっとヤイバーだったじゃないですか!」
「俺はヤイバーがいいんだよっ!」
「………私も新幹線にすれば良かったわ」


そんな会話がされていたなんて知る由もなく、博士たちを乗せた車を見送り服部の待つ病院に行った。


「え?退院?」
「おー。ピンピンしとるから早ぉ帰れ言われてもうた!」


あっはっはー!と笑う服部。
…ま、これなら死なねぇだろうし大丈夫だろ。


「で?」
「うん?」
「お前行くんやろ?舞妓姿見に」
「…俺が、じゃなく、オメーが行きてぇんだろ?」
「ああ!あのアホ和葉の白塗りおかちめんこっぷりを指差して笑わなあかんやろ!」


おかちめんこって、オメー…。


「たーだなぁ、アイツどこで舞妓になるんか言わんかったんや!」


そりゃお前、指差して笑われるって思ったら言うわけねぇだろ…。


「まぁ、あおいが行く場所って言ったら大体予想はついてっけどな」
「ほんまか!?ならそこ行くで!」
「あ、おい、ちょっ」


って、聞いてねぇし…!
結局、オメーが和葉の舞妓姿見てぇだけじゃねーか!
素直じゃねー奴!
…あんま人のこと言えねぇけど。
俺が推理した場所に到着し目的の人物を探し始めた直後、


「敵に1歩どころか5歩も6歩もリードしとる今たたみかけんでどないすんのっ!!?」


大騒ぎしてる白塗りおかちめんこ、あ、いや、舞妓姿の和葉を発見した。
…なに騒いでんだ、アイツら。


「すみませーん!写真撮らせてもらっても」
「それどころやないからあっち行きっ!!」


…あんな舞妓嫌だ。
隣にいるあおいを見たら苦笑いしてる。
そりゃーそうだろうなぁ…。


「おっまえなぁ!そういう格好の時くらい、もうちぃと大人しゅうなれんのか?」
「平次!あんた病院はどないしてん!?」
「アホゥ!どっこもなんともないさかい、帰ってきたんじゃい!…で、このボウズとお前らの舞妓姿ひやかし行くかぁ言うてここまで来たんやろ!」


見つけた早々、口げんかしてる服部と和葉を他所に、あおいに近づく。
…うん、似合うんじゃねぇの?


「よくわかったね、ここにいるって」
「だってあおい姉ちゃん京都のガイドブックでここに印つけてたでしょ?だからここじゃないかなーって!」
「ちょうどえぇわ!平次!ちょお工藤くん呼んで!」


え!?俺!!?


「工藤?工藤がどないしてん?」
「今こっちにいてんのやろ!?あんた隠しとったらタダじゃ済まさへんよ!!?」


チラッと服部が俺を見てくる。
冗談じゃねー!
なんの話してんのか知らねぇが、俺に振ってくんじゃねーよっ!!


「あー、工藤なぁ!確かに昨日おったんやけど、アイツ夜行で東京帰ってん!」
「なんやて!?なんであんた止めへんのっ!!?」
「だ、だいたいなんでお前そない工藤のこと気にしてんねん!」
「…………き、昨日の礼まだ言うてへんから言お思ただけやん」


ああ、昨日の礼か…。
俺はてっきり鍵のことあおいが話したから大騒ぎしてんのかと思った…。
でもそもそもあおいアレがどこの鍵かわかってんのか怪しいし、そんなわけねーか。


「ねぇあおい姉ちゃん!その格好、何時までとかあるの?」
「え?あ、ああ、うん。ええっと、11時からだったから…あと20分、てとこだね」
「ふーん…。じゃあせっかくだからその姿でお散歩しない?」
「え?あ、う、うん、そう、だね…」


カランカラン、と、隣を歩くあおいの足元から軽快な音が響く。
チラチラと観光客がこっちを振り向いてるのがわかる。
あーあぁ…。
これが「元の姿」だったらなぁ…。
この姿のコイツの隣でも、少しは、様になんのになぁ…。
そんな少しの焦燥を胸に、京の時間を、時間いっぱい満喫した。

.

prev next


bkm

×
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -