キミのおこした奇跡side S


≫Clap ≫Top

迷宮の十字路


鬼、対峙


「…あなたほんっと、運だけは良い人ね」
「ウルセェ」


服部の服を借りて病室から出ると、病室前廊下にいた灰原が呆れた顔をしていた。


「ほんとに数時間…いえ、1時間もないかもしれない。そう思って行動しなさい」
「わーってるよ!」


灰原の妙案、強い風邪の症状を引き起こす薬と共に白乾児を飲むという一か八かの賭けみてぇなことでも、運だけはあるのか本当の俺、工藤新一の姿に戻ることが出きた。


「灰原ついでに悪ぃけど、」
「悪いと思うなら頼まないでくれる?」
「…じゃあついでに服部見ててくんねぇか?」
「…」
「明日の精密検査まで絶対安静!アイツまた抜け出しかねねぇから目離すなよ?」
「貸し2つ」
「は?」
「その姿と、あの子の世話。貸し2つよ」


…コイツはこういう奴だって知ってたけどな。


「じゃあ後は任せたぜ?」
「せいぜい『江戸川コナン』の姿で死なないよう気をつけることね」
「…肝に銘じとく」


そう言ってから病院を後にした。
後、9分。
…玉龍寺までだと少し過ぎるな…。
高鳴る鼓動とは真逆に、頭が冴えていくのがわかる。
風邪特有の症状はあるものの、それとは裏腹に感覚が研ぎ澄まされていくのがわかった。


「平次!!」


玉龍寺はすでに廃寺になっただけあり、来る途中も誰に見られることもなかった。
そしてついたらご丁寧に松明を焚き待っていたわけだ。
今回の犯人、元源氏蛍のメンバー西条大河が。
さて…、どこまで隠せっかな?


「テメェ!! 和葉に手出してねーやろな!!」


我ながらイマイチしっくりこない関西弁だ。


「だ、大丈夫やで! 平次!!」
「アンタがホントに欲しかったんはこれやろ?」


服部の服を借りるついでに拝借した水晶玉をチラッと見せた。


「この水晶玉を取り戻すために、アンタは昨日この山で俺を襲ったんや!!失敗したみてぇやけどな…」


…ところどころある違和感はこの際無視して続けた。


「次にアンタは宝を独り占めするために、先斗町の茶屋で桜さんを殺しにかかった!!何故祇園や宮川町やのぉて、先斗町を選んだのか…。それはあそこの茶屋だけ、裏に川が流れてるからや!!」
「…川?」
「アンタは納戸で仏像を探していた桜さんを殺した後、警備会社が迷子や盗難防止に使う端末と凶器を一緒にペットボトルに入れて捨てた…。そして、後から携帯電話で警備会社のホームページにアクセスして、端末の位置を調べ回収したんや!その後でアンタは大阪へ戻る俺をバイクで待ち伏せして、同じ短刀で殺そうとした!!その殺しは和葉に邪魔されて失敗したけど、わざと凶器の短刀を残して、容疑者から外れようとしたんや!!犯人は短刀を持って、あのお茶屋から逃げた誰かだと思わせた…。そうやろ!?西条大河さん!!」


俺の推理に、犯人がゆっくりと変装を解いていった。


「いや、武蔵坊弁慶と言った方がえぇかもな」
「流石は浪花の高校生探偵…、服部平次やな。何で俺やと分かった!?」
「アンタが弓やってるのを隠してるからピンときたんや!アンタは正座する時、右足を半歩引いてから座った…。あれは“半足を引く”言うて、弓をやるモンが癖でたまにやってしまう座り方や!!それと、弓をやってる者について聞かれた時、アンタはうっかり『やまくら』と言いかけた。あれは女将の山倉さんの事やなく、“矢の枕”、弓を引く時に矢を乗せる左手親指甲の第二関節の事や!恐らくアンタはこう言おうとしたんやろ?『そう言えば、矢枕を怪我してはりますよ。千賀鈴さんは』と。矢枕なんて言葉、知ってんのは弓やってる奴しかいねーからな!因みに竜円さんは、弓は素人や!“つる”の事を“げん”言うてたからな!」


そして犯人、西条大河が犯行動機を語り始める。
…道場作るために盗んだ代物独り占めして人殺すかフツー?
人が人を殺す理由なんてどんなに道筋立てて説明されても納得できねぇが、コイツの理由は呆れてものが言えねぇ…。
「今」を生きてる人間より「過去」を生きた人間の名や流派が大事なんてこと、あっていいわけがねぇ!


「さあ、もうおしゃべりはお終いや!その水晶、渡してもらおか?」


渡してもらおか、で渡す馬鹿いねぇっての!
…まず和葉の安全の確保が先だ。
とにかく和葉と近づかないことには…


「渡す代わりに、和葉を放せ!」
「えぇでぇ!…仏像の隠し場所、教えてくれたらなぁ!」


…そう来るだろうな、くそっ!


「さあ、仏像は何処や!?」
「くっ!!」


後手に縛られている腕を締めあげられ、和葉が苦痛の声を漏らした。
…ちっ!仕方ねぇ!


「この寺の中や!」
「何やと!?」
「灯台下暗しってとこかな…」
「嘘つけ!この寺はとっくに調べてある!どこにも、」
「嘘じゃない!!」


断言した「俺」の言葉を信じたのか、西条は約束通り和葉の背を押しこちらに歩かせた。
…よしっ!
そう思った瞬間、和葉の肩越しに見えた西条が帯刀に手をかけたのが見えた。


「和葉っ!走れ!!」


その言葉に反応して和葉も走り出すが西条が迫ってくる。
西条の初太刀を、持っていた木刀でなんとか受け流す。
そのまま逃げようとしたら同じような格好した奴等がぞろぞろ出てきやがった!


「俺の可愛い弟子達や。オマエらは手出すな!!」


袋のネズミ、ってわけね。
襲いかかってきた真剣西条の前に木刀の俺は成す術がなく。
…俺は剣道はやらねぇんだよっ!!
だが和葉だけはここから助けださねぇと…!


「止めて!この人平次とちゃう!!」


帽子がズレた拍子で素顔を見て気づいたのか、それともこれだけ接近したから服部と違うと気づいたのか。
和葉の声を合図にしたかのように目深に被っていた帽子が吹き飛ばされ地面に転がり落ちた。


「…だ、誰や!?誰なんや、お前はっ!?」


待ってたぜ?
あんたがそう尋ねてくることを!


「工藤新一、探偵さ!!」


今まで帽子を目深に被り影っていた犯人の顔を、松明の明かりの下正面から見据えた瞬間だった。

.

prev next


bkm

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -