キミのおこした奇跡side S


≫Clap ≫Top

迷宮の十字路


「キミ」のために


仏光寺に向けて走り出ししばらくして、服部の足が止まる。


「どうした!?」
「…いや、…ちょっと、眩暈が…」


…そうか、コイツ本来なら病院で寝てなきゃいけねぇ体なんだ。
とりあえず1度服部の体を休めさせるため、六角堂に身を寄せた。


「どうだ?気分は」


近くにあった自販機で買った茶を渡しながら聞くが…、顔色悪ぃなやっぱ。


「だいぶ良うなったわ」


そう言う服部の横に座り、俺も少し体を休めることにした。


「服部。八年前、オマエが忍び込んだ寺は山能寺だろ?」


ブハッ


「…汚ねぇなぁ…噴出すんじゃねぇよ!」
「な、何で分かんねや!?」
「バーロォ!! あの寺の桜を見るお前の顔でピーンと来たぜ。側にお前の言った格子の付いた窓もあったしな!」


そう言った俺の言葉に反応して服部があの巾着を取り出す。


「…そうや。あの桜の樹の下で、この水晶玉拾たんや」
「水を差すようで悪いが、その水晶玉は、お前の『初恋の少女』が落としたモンじゃねーぞ?」
「何やと!?」
「…恐らく、山能寺から盗まれた仏像が額にはめていた白毫だ」
「白毫? 仏さんの眉間にあって、光を放つっちゅう毛の事か?」
「ああ。仏像ではしばしば水晶玉でそれを表わしている。能面でもそうだ。俺の推理はこうだ」


そして服部に俺の「推理」、今回の一連の事件について語り始める。
源氏蛍のこと、服部が狙われたこと、桜正造殺害のこと、俺が辿り着いた推理の答えを。
俺の話を聞くうちに服部も回復してきたのか、仏光寺へと促されそのまま歩きながら話続けた。


「とにかく首領が残した謎を解かなければならない。そこで犯人は、」
「名探偵の毛利小五郎に、謎を解いてもらおうて思い付いたんやな…」
「…仏光寺。ここだな」
「けど、ホンマにこの中に仏像が隠してあるんか?」


何か釈然としねぇ…。
何かが違う感じが、あっ!


「おい、どないしてん!?こら工藤!何を思いついてんのや!」


さっき確か…、あった!


「これは!?」


寺院前にあった石碑には「玉龍寺跡」と文字が刻まれていた。


「…玉龍寺?絵にあった点はこっちか!?」
「ああ…」


ピリリリリリ


「和葉か…」


…そういやあおいがさっき…


「俺や」


ケータイを耳に当てる服部の顔色が変わったのが、はっきりとわかった。


「平次っ!来たらあかんっ!殺されてしまう!!」
「和葉っ!? 和葉っ!!」


…殺されちまうだと!?


−和葉ちゃんきっと犯人の証拠になりそうなものを探しに−


犯人に捕まったのか!?
くっそあの時あおいの話を聞いてれば…!


「和葉が攫われてもうた…。1時間後、1人で鞍馬山の玉龍寺に来い言うてる…」
「玉龍寺!?…上等じゃねーか!2人で今からそこへ乗り込んで」


そう言いながら服部の方を向く。
が、


「服部っ!?」


服部は小さく呻きながら地面に崩れ落ちていった。
…やべぇ!


「はい、119番です。火事ですか?救急ですか?」


とりあえず服部を病院に戻らせるのが先決。
救急車を呼び、梅小路病院に運ばせた。


−1時間後、1人で鞍馬山の玉龍寺に来い言うてる…−


後、46分…。


−和葉ちゃんに何かあったらどうするの!?−


今、俺に出来ること。
それは…。


「…灰原か?オメーに頼みがある。…いや、お前にしか頼めない事だ!」


簡単に事情を話して、灰原が病院に来てくれた。
「俺」を元の姿に戻すAPTX4869の解毒薬。
例え一時でも、「俺」に戻れれば…!
人質の命がかかってる事情が事情なため、今回ばかりは灰原も知恵を貸してくれた。


「良いこと?強い風邪の症状を引き起こす薬と一緒に白乾児を飲んでも、必ずしも戻れるとは限らない。あくまで可能性の話よ」
「ゼロじゃねぇならやってやるさ!」
「あなた早死にするタイプね」
「あぁ、知ってるよ」
「…未完成の解毒薬と違って、風邪の症状で戻るのであれば長時間は無理よ」
「それでも犯人と交渉する時間くれぇあんだろ?」
「…他人の彼女のためにそこまでする必要ないと思うけど」
「服部のためだけじゃねぇさ」


もし今和葉に何かあったら、服部にも、そして…あおいにも、会わせる顔がねぇ。


「…ま、なんでもいいけど、命の保障はないからね」
「わーってるよ!」
「…そろそろかしら」


ドクン


灰原の言葉を合図に、心臓が大きく脈打ち始めた。


「…ぅ…ぐっ…」
「効いてきたようね」


心臓を抑える俺を尻目に、あなたの裸に興味ないから終わったら呼んでちょうだい、と言って灰原が出て行った。


「…ぐっ、あっ…」


「新一」から「コナン」になる時。
「コナン」から「新一」になる時。
この痛みを後何度繰り返せば、俺は「本当の俺」の姿になれるのか。
身体中の痛みと風邪の症状にフラフラになりながら、そんなことを思っていた。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -