キミのおこした奇跡side S


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迷宮の十字路


月夜の思い出


そしてお茶屋についてオッチャンたちと合流。
その場で蘭の回し蹴りが炸裂しなかったのは奇跡。
オッチャンがここに来た経緯を竜円さんはじめみんなが弁明するんだが…。
別にお茶屋じゃなくてもいーんじゃねぇか?
って思うのは、俺だけじゃねぇよな?
そして「義経記」の話になり、義経と弁慶の絆の深さについて触れていた。
義経記、ねぇ…。


「うわぁ!川が見える!!」
「鴨川どす」
「7月に桜が見れるなんて!綺麗!」
「今日の気温に桜の花も狂い咲きしたんどす」
「ほんまやね!綺麗!」


へー。
こっちの方は咲いたのか。
…ま、もって2〜3日、ってとこだろうな、この気温だと。


「おい、アレ見てみぃ」
「あ?」


覗きこむとそこには昼間会ったシマリス、いや、綾小路警部がいた。


「君ら下のベランダ行って夜桜見学してきたらええ。今晩は直に雲も晴れて、えぇ月が出るそうやで?」
「行こっか!」
「うん、いいねぇ!」
「僕はここにいるよ」
「俺もや」
「なんで?あの舞妓さんが気になんの?」
「アホ!しょうもないこと言うな」


…いやでも、和葉のようにわかりやすく嫉妬してもらえるだけオメー幸せだぞ、おい。
仮に俺が他の女といたとして、あおいが嫉妬するかって言ったら、俺がその女といるってことよりも、その女の側に俺がいるってことを嫉妬しそうだよな…。
うん、自分で考えてむなしくなってきた。


「エンジン全開やな、あのオッチャン」
「いつも開きっぱなしさ…」


俺、元の姿に戻って酒飲める年齢になっても、ああいう大人にだけはならねぇぞ…。


「お、月が出てきた」


その言葉に振り向くと、雲の切れ間から月が顔を出していた。
…月、か。


−工藤くん、工藤くん、ここの砂浜の砂、星の砂って言うの知ってた?−


あれからもう2年経つんだよなぁ…。
…なんも進展ねぇけど。


「ん?なんや?」
「いやぁ?…前に修学旅行で沖縄行った時のこと思い出してな。あおい、園子に『星の砂は空から星が降ってきた名残』なんて嘘教えられてソレ鵜呑みにしてさー。信じられるか?アイツこんな月明かりの中懐中電灯持って星の砂かき集めようとしたんだぜ?」
「…そこは昼間お日さんの下で拾えて、ツッコんでええんやろか?」
「フツーはそう思うんだって!…でもアイツ、昼間拾わなかったのにはわけがあってさ、」
「わけて?」
「…星が降ってきた名残の砂を、流れ星見ながら探してぇんだと!綺麗な星の形の砂を見つけたら幸せになれるって言うし、流れ星もお願い叶えてくれるんだから絶対幸せになれる、ってさ。微生物の死骸と宇宙ゴミの残骸でどうやって幸せになれんだよ、って思ったけど月見ながら目きらっきらさせてるあおい見たらなんかそんなんどーでも良くなってさぁ。結局、星の砂はすぐ瓶いっぱいになったけど、流星がなっかなかなぁ…。消灯時間過ぎてんのも忘れて2人でムキになって空見上げて探してたんだよ。…今日みたいな月明かりの中で見えるかどうかわかんねぇ流星をずっと!で、途中からただの天体観測になって、ようやく1つ流星見たからってホテル帰ったのは明け方近くで、先生にそりゃーもう怒られた怒られた!」


しかも廊下に正座で説教食らったしな、あの時。
でも、


「オメーさぁ、」
「なんや?」
「…彼女といて時の流れをあっという間に感じたり、…時が止まったような感覚になるなんてことあるか?」
「彼女て…和葉とか?そんなんしょっちゅうやで!なんやここ行き忘れただの、あこまで行きたいだのあの女ワガママ言いよるからつきおうてたら、時間なんぞあってないようなもんや!」
「じゃあ他の女とは?」
「あ?」
「他の女といてもそう思うか?」


実際に時の流れが変わるなんて、そんなことあるわけがない。
ただ、一緒にいてそう感じるのは、


「…そう言われると、他の子とは別にそない思わへんな」


ソイツがそれだけ特別なんだってこと。
そう思って下のベランダを見たら、あおいが飲み物をテーブルにぶちまけて慌てて拭いてるところだった。


「…ほんっと、手かかるバカ女」
「なーにが馬鹿女、や!どーする、その時に『工藤くんとずっと一緒にいれますように!』なんて流れ星に祈っとったら!」
「ねぇし」
「いやいやわからんでぇ?」
「…自分で言って虚しくなるけど、ほんとねぇから」


でも…。
あの時流れた星に、あおいは何を願ったんだろうな…。


「でもまぁ、馬鹿な子ほど可愛い言うしなぁ?なーんか見とったら男の庇護欲っちゅーか掻きたてる子やんな?」
「…」
「いや俺は別に興味あらへんからそない睨むなて!…で?その沖縄の時なんやろー?あの子がただの友達から変わったんわ!」
「…バーロォ、そんなんじゃねーよ!」


アイツのことはその前から…。
…アイツといるといつも時間があっという間に過ぎて。
けどその時間がずっと続くような、そんな錯覚すらする。
そんなことあり得るわけもなければ、現状、叶うわけもないのに。
それでもそう錯覚し、…そう願ってしまう。
それはあおいだからであって。
…ほんっと、


「厄介な女」
「なんや言うたか?」
「…いや」


それからしばらく茶席でエンジン全開のオッチャンを眺めながら、過ごした。
闇を引き裂く、事件の訪れを知らせる悲鳴を聞くまでは…。

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bkm

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