■大切なのは今目の前にある恋
「謎の絵に関係ありそうなものはねぇなー…」
翌日五条大橋に来てみるものの、案の定空振り。
どーすっかなぁ、って思っていた時、
「京の五条の橋の上、大の男の弁慶は、長い薙刀振り上げて、牛若目掛けて切りかかるっ!」
何っ!!?
一瞬の殺気に橋の手すりに飛び乗る。
が、
「は、服部!?」
「お前とここで会うとは、神さんも洒落たことしてくれるやないけぇ!」
コイツ何やってんだよ…。
腹縫った翌日に電話してきたのもビビッたが、その後の回復力が異常なのにもビビッた。
もうほんっと、今じゃすっかり元気そのもの。
俺も人のこと言えねぇけど、コイツだけは絶対死なねぇと思う。
「こないな所で何してんねん?」
「お前こそ何してんだよ」
服部に促されてとりあえず服部のバイクがある方へと歩いて行く。
…そういやあおいにバイクプレゼントしたって母さん言ってたな。
シルバーウィングって言って私が昔乗ってた奴なのよー!スクータータイプだからあおいちゃんも楽々乗れるわよ!とか言ってたけど、アイツ乗ってんのか?
…事故んなきゃいーけど、マジで。
なんてことを考えてる時に、服部が京都に来てるわけをぽつぽつ話し始めた。
源氏蛍の元メンバーで先日殺された被害者の敵討ちに犯人を見つけたいらしい。
…ま、コイツのこういうまっすぐなところ、嫌いじゃねぇけど。
「だったら良いもんがあるぜ?」
源氏蛍に関わってんなら、あの暗号は、必要不可欠だよな?
「なるほど…。この絵の謎を解いたら仏像だけやのぉて、殺しの犯人にも繋がるかもしれんな…そんでお前」
「ああ。仏像を盗んだのが源氏蛍なら、義経や弁慶に関係する場所を巡れば謎を解く手がかりが掴めんじゃねぇかなぁと思ったけど、京都はさーっぱりわかんねぇ」
「ほんならこの先は任せとけ!俺が、案内したる!」
すっかりスイッチの入った服部と京の都を駆け抜けることになった。
「けど気にいらんなぁ」
「あん?」
「なんで山能寺のオッサンは俺に依頼してけぇへんのや?関西で探偵言うたら俺やろ?」
「それはさぁ、警察に知られたくなかったんじゃねぇのか?ほら、お前の親父さん警察のお偉いさんだから」
「ふーん…、ま、ええか」
…待てよ?
そう言われてみれば…。
この時に引っかかった疑問は、しばらく胸にしこりとして残った。
「京都府警の綾小路です。源氏蛍の件でいろいろ調べてるみたいやけど、ここは大阪と違います。素人は首突っ込まんことや」
「「え?」」
チョロチョロと動き回り綾小路警部の手の上に乗った物体。
…シマリス持ち歩いてんのか、職務中に。
「どこにもけったいな刑事はおるもんやなぁ」
いいのか、京都府警…。
「はぁ…」
「ここもハズレみたいやな。昼飯にしよか?」
「あー」
朝から動きまわりすぎて腹へってきたぜ…。
服部に促されるまま、桜並木を歩く。
ここ最近夏なのに低温の日が続き、ほんの2〜3日前から気温が上がり始めたため、全国各地で桜の木が春と勘違いしてまた蕾をつけたって話だ。
つーかここの桜少し開花してるし!
「桜か…」
「あ?」
「いや…。桜見るといっつも思い出すんや。8年前のこと」
そっから昼飯食いながら服部の話を聞く。
まー早い話、初恋の話、ってわけね。
「夢みたいやけど、ほんまの話なんや。いつかまた、巡り会えるんちゃうかなぁ思て」
「ぷっ!!」
コ、コイツ案外ロマンチストだったんだな…!
や、やべぇ腹筋がっ…!!
「おい、何笑ぉてんねん」
「悪ぃ、悪ぃ、続けて」
いや、普通におかしーだろ!
服部がロマンチシズムなこと語る男だったとは!!
「京都に来る時は、いつも持ってくるんや」
「……水晶玉かぁ。…どっかで見たような形だな…」
「ほんまか!?誰か同じの持ってるんか!?」
「いやー」
どーこで見たんだっけ、この形…。
「そんで?彼女はこのこと知ってんのかよ?」
「彼女って…あー、和葉かいな!詳しいことは何も話してへんけど、知ってるみたいや」
いや、お前関西で人気ある情報誌なら、普通に和葉も読むって考えて、んなこと言うんじゃねぇよ…。
「つーかさぁ、」
「あん?」
「見つけてどーすんだよ、その子」
「え?」
「情報誌にわざわざその石載せてまで探してんだろ?ならほんとにその子が現れたとして、オメーどうすんだよ?」
「どう、って、」
「どうって?」
「……………そんなん会ぉてみんことにはわからへんがな!」
つまり何も考えてないわけね。
「まぁオメーがその初恋の彼女に逢いたいって思う気持ちはわからなくもねぇが」
「ほんまか?」
「いや、わかんねぇけど」
「…工藤、お前なぁ」
「目の前でお前心配してる彼女のこと考えてやれよ」
救急車の中で、コイツが死んだと勘違いした時の和葉の悲鳴は、今も耳に残ってる。
「えらっそーに、なんや自分!小さいお子さまのくせに!!」
「仕方ねーだろ!?薬のせいで小さくなってるだけであって、誰も好きで小さくなってるわけじゃねーし!」
「…の、わりにコナンくんの姿でシレッとあおいちゃんに接しとるやないけ!ほんでも合鍵はあおいちゃんに渡さんと、毛利の姉ちゃんに渡しよるしのぉ?なんや自分、どっちか自分にとって都合えぇ方とつきあう気やとか言わんよな?」
「…んなんじゃねーしっ!」
「そない、いい加減な態度取っとると、あおいちゃん誰かに拐われてまうで?」
「ウルセェな!この話は止めだ止め!」
気がついたら話の中心が俺になっていて。
…別に俺だって好きであおい騙してるわけじゃねーし!
だいたいこの間から合鍵合鍵ウルセェんだよっ!!
お前には関係ねぇだろうがっ…!!
心の声が漏れないように、奥歯を噛みしめ、捜査を続行することにした。
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bkm