キミのおこした奇跡side S


≫Clap ≫Top

小さくなった名探偵


一番の、友達


俺は高校生探偵、工藤新一。
幼なじみで同級生の毛利蘭と遊園地に遊びに行って、黒ずくめの男の怪しげな取引現場を目撃した。
取引を見るのに夢中になっていた俺は、背後から近づいてきたもう1人の仲間に気付かなかった…!
俺はその男に毒薬を飲まされ、目が覚めたら体が縮んでしまっていたっ!
…なわけあるかーーっ!!
どこの漫画だオイッ!!
あり得ねぇ!
マジであり得ねぇ!!
人間が退化するってどういうことだよ!?
殴られた頭は痛ぇし、服だけが妙にデカくて歩きにくいしっ!!
少し走っただけで息は切れるしどーなってんだよっ!!!
とりあえず博士に助けを求めるしかねぇ…!!


「そうか。未完成だった毒薬の不思議な作用で体が小さくなってしまった、というわけか」
「あり得ねぇ話だけど、そうとしか考えられねぇし」


ショーウィンドウに映っていた自分の姿と、今着ている「ガキの頃の服」がぴったりなのがあり得ない現実を俺につきつけてくる…。
俺がどんな思いで170cm台になったと思ってんだっ…!!
また縮んでたまるかよっ!!!


「なぁ頼むよ博士!体を元に戻す薬を作ってくれよ!」
「無茶言うな!薬の成分がわからんことには…」


だよなぁ…。
奴らをとっ捕まえて薬の成分吐かせるしかねぇよな…。
それまでこの体でいろってってのもあり得ねぇ。


「いいか新一。君が生きているとわかったら奴らはまた命を狙いに来る。この事はワシと君だけの秘密じゃ!誰にも言ってはならんぞ!もちろんあおいくんにも、蘭くんにもじゃ!!」
「新一ー?いるのー?」
「げっ!蘭だっ!!」
「いかん!早く隠れろっ!!」


机の影に身を潜め、蘭にバレないよう息を殺す。
念のため度を外した父さんのめがねをかけて。
…確かに博士の言う通り、取引現場を目撃したって言ってもガキの俺に対して躊躇いなく毒薬使ってくるような犯罪組織。
生きてるってバレたら、俺はもちろん、事情を知った博士、…それにあおいだって危なくなるかもしれねぇ。
人が退化してガキに戻るとかあり得ねぇからそもそも俺だって言っても信じねぇだろうが、この姿でいる以上、絶対に俺が工藤新一だってバレるわけにはいかねぇよな…。


「この子だぁれ?」
「…へ?」
「ワ、ワシの遠い親戚の子じゃ!」
「名前は?」


やべぇ!
考え事してたら蘭が隣に来てることに気づかなかった!!


「な、名前はっ…」
「んー?」
「え、ええーっと………、コナン!僕の名前は江戸川コナンだ!」


我ながらあり得ない名前を口走ってしまったと後から少し後悔した。
まぁ、江戸川乱歩もコナンドイルも好きだからいいんだけどな。


「そうじゃ蘭くん!すまんが少しの間その子を君の家で預かってくれんか?」
「はあ!?冗談じゃねんぐっ!!」


なに言ってんだよ!
なんでよりにもよって蘭の家に居候しなきゃいけねぇんだよ!


「君を元の姿に戻すには、まず薬を使った黒ずくめの男たちを探さにゃならんじゃろ。蘭くんの家は探偵事務所じゃ」


くっそー。
ヤツらの情報が手に入るまでだ。
それまでは思いっきり俺のことガキ扱いする蘭のところに世話になるしかねぇ。
頼んだぞ、と蘭に手を振る阿笠博士を後に、毛利探偵事務所に向かった。


「コナンくん、好きな子いる?」
「え?」
「ほら、気になる子とかいるでしょ?学校に」
「い、いないよ、そんな子」


ガキ相手に何聞いてんだよ、コイツ!


「私はいるよ。…気になるヤツ」


蘭の気になる奴?
初耳だな。
きっかけはほんのジョークのつもりで言った言葉。


「それひょっとしてさっき探してた新一って兄ちゃんのことじゃないのー?」
「そうよ」


はっ!?
そ、そうよ、ってオメー


「ちっちゃい頃から意地悪でいつも自信たっぷりで推理オタクだけど、いざと言うとき頼りになって勇気があってカッコよくて」


おいおいおい…


「私は新一が好き!」


冗談で言っただけなのにマジかよ!?


「い、いつから!?」
「え?」
「いつから俺、あ、いや、新一兄ちゃんのこと好きなの!?」
「いつ、って、気づいたのは最近。でもたぶん、きっとずっと好きだったんじゃないかな?」


いや、だってオメーは俺にとって…


「でもそれも今日でお終い!」
「…え?」
「新一の気持ち、はっきり聞かせてもらえたし、明日からはただの幼馴染に戻るの!」


蘭は別に泣いてるようなこともなく、どこか清々しい表情で語った。


「あ、でもこのこと新一はもちろん博士にも内緒だよ?」
「え?あ、う、うん…」
「アイツの中じゃきっと今私は、あおいとの遊園地デート邪魔した嫌な奴になってるだろうし!」
「…いや、そんなことは」
「でも、今日は最初からそのつもりだったから」
「え?」
「新一との最初で最後のデート!」


胸が疼く。
だって蘭。
オメーはずっと俺のこと応援してくれてたじゃねぇか。


「どうして?」
「うん?」
「…新一兄ちゃん言ってたよ。蘭姉ちゃんにはなんでも相談できる、って。だからずっと」
「知ってても、人の気持ちは止められないんだよ。…って、コナンくんにはまだ早いかな?」


蘭が少し、困ったように笑う。
言ってることは理解できる。
だけど…。


「ほんとは、ね」
「え?」
「どーせ新一のことだから後5年くらいしないとあおいとつきあうことなんてできないんじゃないかって思ってたんだけど」


…ははっ。
否定できねぇ…。


「昨日、新一の家から帰る途中だったあおいを見て、もしかしたらそれは私の思い違いで、意外と早くくっついちゃうのかもしれない、って思ったんだ」
「…え?」
「だから、2人がくっつく前にどうしても新一と2人で話がしたかったの。…新一に恋人ができる前に2人だけで出かけて、新一の口からきちんと、好きな人がいるって、聞きたかったの」
「…蘭」


前に蘭から俺はあおいに振り回されてるって言われた。
でも俺は、オメーを振り回してたんだな…。


「コナンくんは幼馴染いる?」
「え!?い、いや、いない、けど…」
「そう。…幼馴染って、ほんとに物心ついた頃から一緒だからなんでもわかっちゃうんだよね。新一にとってあおいは出逢った時から特別な子なんだってことくらいずっとわかってたし、今日新一の口からはっきりあおいが好きって聞けてすっきりした!」
「…」
「…私は新一の彼女にはなれないけど、新一が何でも話せる1番の女友達でい続けることにしたの!…幼馴染だし、それくらいはいいよね?」
「うん…、そうだね」
「まぁ最もアイツは嫌がるかもしれないけどね!」


そう言って笑う蘭はいつもの蘭で。
今日蘭が、どういうつもりで俺と会っていたのか、今頃になって知った。
高校生探偵、なんて言われて調子に乗ってた俺は、本当にホームズの斜め上をいくほど女性関係が苦手な大バカ野郎だ。
何も知らず俺に「新一」のことを話す蘭をなんとも言えない思いで見ていた。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -