キミのおこした奇跡side S


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小さくなった名探偵


迎えるその瞬間


「新一そんなんでよく推理できるよね」


現在ミステリーコースターの待ち時間。
突拍子もなく蘭に言われた。
…今そんなこと言われるような会話してたか?


「あおいの、っていうより女心を全くわかってない!」
「ま、全くわかってねぇわけじゃ」
「わかってないでしょー?ほんとは今までの推理も新一の当てずっぽうなんじゃないの?」
「ばっ、なに言うんだよ!俺の推理は当てずっぽうなんかじゃねぇよ!」
「ほんとかなぁ?」
「ほんとだって!例えば…そうだな、人の手握ればその人がなにやってるか大体わかるぜ?」
「へぇー、そう」
「オメー信じてねぇな…。例えばほら、こんな風に」
「え?」
「あなた体操部に入ってますね?」
「ど、どうしてそれを…?」
「ほらな」
「ほらな、じゃないわよ!いつまで手を握ってる気よ!すみません」


俺が手を握ったお姉さんに蘭がひたすら謝っていた。
ったく、人を痴漢か何かのように言いやがって!
…きっとあおいだったら「工藤くんすごいね!」とか目きらっきらさせて言ってくると思う。
今でもはっきり覚えてる。
あおいを「女」って意識した日のこと。
俺の周りの連中に言わせりゃ、蘭の方が良いってヤツの方が多いけど。
確かに、だ。
蘭の方がスタイルは良いし、頭も良い。
何より気が利き家事も(特に料理が!)バッチリだ。
顔だって、可愛いのはどっちって聞いたら蘭て答えるヤツの方が多いんじゃねぇか?
でも仕方ねぇだろ。
俺には蘭よりあおいの方が格段に可愛く見えるんだから。
バカな子ほど可愛いってヤツだな、きっと。


「最初はただ心配だっただけなんだけどなー」
「はぁ?」


引っ越してきたばっかだし、どっか危なっかしいところがあるヤツで気になって世話焼くだけのつもりが、いつの間にか好きになってたんだから、ミイラ取りがミイラになった気分だ。


「新一にとってあおいは特別なんだって最初からわかってたよ」


蘭はほんとに良い女だと思う。
周りに目が行き届き、気を配れる。
我が道を突き抜けるあの女とは大違いだ。
気がついたら異性の親友。
なんでも話せる女友達。
それが俺から見た蘭のポジション。
クラスメートに言わせたら勿体ないんだと。
そうでもないぜ?
こんなに頼りになる幼馴染、他にいねぇだろ。


「で、俺はその時のホームズの台詞で気に入ってる奴があるんだ!なんだかわかるか?」
「知らない!」
「それはさ『君を確実に破滅させることが出来れば公共の利益のために僕は喜んで死を受け入れよう』って!」
「あー、はいはい、それは素敵な言葉ですねー!」
「でも俺、この本でもう1つ気に入ってる言葉があってさ」
「は?まだその話続けるの!?」
「俺もそれ聞くまでそんなこと考えもしなかったんだけど、コナン・ドイルはきっとこう言いたかっ」
「あー!もうホームズホームズうるっさい!新一まさかあおいとのデートでもホームズの話ばっかりしてるわけじゃないでしょうね!?」
「べ、別にホームズの話ばっかじゃねーよ!第一アイツは『そうなんだ!工藤くんほんとホームズが好きなんだね!』って言って聞いてるし!」
「…それ呆れてるんじゃなくて?」
「えっ!?」


あ、呆れてる!?
いやだってそんな…!


「冗談だってば!」
「…ホームズの話少し控えることにする」
「それには賛成。ずーっとそんな話ばっかりだと、あおいとのせっかくの楽しいデートが台無しになっちゃうよ?」


ガタンガタン


ジェットコースターが動き出す。


「…っ!!」
「へ!?」
「き、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


蘭に手を握られた、と思った瞬間、体が浮き上がる感じがしてその直後の独特の重力。
そしてトンネルに入ったところで、顔に何かかかった。


「…水か?」


はっ!?今何かが…!!?


「きゃーーーー!!」
「ど、どうして岸田くんが…!」
「ひどいわ…」


コースター乗車中の殺人事件。
容疑者は被害者と同じコースターに乗っていた7人。


「おい、早くしてくれ。俺たちは探偵ごっこにつきあう気はないんだぜ?」


…なんだ?コイツの凍りつくような目は?
平気で何人も殺してきたような目だ!
コイツは一体…!?


「よーし、その女性を容疑者として連行しろ!」
「待ってください警部!犯人はその人じゃありません!」


そう。
真実はいつも、1つしかないのだから。


「でたらめよ!何を証拠にっ!!」
「ネックレスはどうしました?乗る前につけていた、真珠のネックレスですよ」


犯人を追い詰める時のこの感覚。
これだから探偵は止められない。


「コースターにでも乗らない限り涙は横に流れないんですよ」


今回は捨てられた女の逆恨み、って、ところか。
ほんっと、この世から金、愛、嫉妬がなくなれば殺人はなくなるな…。
…つーか、


「もう泣くなって…」
「あんたはよく平気でいられるわね!」


そんなこと言われてもなー。
慣れだろ、慣れ。
まぁ…人の首が吹っ飛ぶとかえぐい殺され方だったし、仕方ねぇか…。
後は早く忘れてもらうしかねぇよな。
…ん?あれは…


「ごめん蘭!先に帰っててくれ!」
「え?あ、ちょっと!!」


事件の臭いがしそうな場所を探偵が放っておけるわけねぇだろ。
1億はあるアタッシュケースで取引?
一体あの連中は?


「探偵ごっこはそこまでだ」
「え?ぐあっ!!」
「…こんなガキにつけられやがって!」
「あの探偵じゃないですか兄貴!やっちまいまいますか!?」
「引っ込めろ!サツがまだうろついてるんだ!…コイツを使おう。組織が新開発した毒薬をな!死体からは毒が検出されないってシロモノだ。まだ人間には試したことはない試作品らしいがな!…あばよ名探偵」


か、体が、熱いっ!!
骨が、解けてるみてーだっ!!
俺はこんな所で死んでられねーんだよ!
ああ、なんだよ!
走馬灯みてぇにあおいの顔が、浮かぶ。
ダメだ!
俺、は、まだ、死ね、な…

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bkm

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