■厄介な女
「はーい、って蘭?わりぃ俺今日出かけ」
「知ってる。今日あおいの替わりに来たから」
「はっ!?おま、な、なんでそのチケット持ってんだよ!」
「だーかーら!あおいの替わりに来たって言ってるでしょ?」
「替わりだー!?ちょっ、待ってろ!」
「あ、電話しても無理だよ?あおい昨日の夜から電源切ってるはずだから」
「は?」
「それに私まだ新一に都大会優勝のお祝いしてもらってなかったよね?」
「…へ?」
「私も行きたかったんだ、トロピカルランド!」
「…」
自分が思ってることを、素直に伝えよう。
俺は自分で言うのも何だが、この手のことに関して素直じゃねぇどころか捻くれてる部類に入ると思う。
それを意を決してじゃあ明日、って思っていたらコレだよ。
キスした翌日のデートを蘭に交替って、俺すっげぇ嫌われたんじゃねぇか?
いや、自業自得なんだけど…。
「…あおい怒ってんのか?」
「そこらへんもじーっくり話てあげる。トロピカルランドで!」
「…着替えてくるから待ってろ」
「早くしてねー!」
もうため息しか出ねぇ。
何が悲しくてカップルばっかの場所に蘭と2人で来なきゃなんねぇんだよ!
と思ったけど、別に蘭が悪いわけじゃねーし。
…俺なんでデート前日にキスしちまったんだろ。
「で?」
「ん?」
「ん?じゃないわよ。ここまできてまさか何も言わないで済ます気じゃないでしょうね?」
「…言わなきゃダメか?」
「トーゼンでしょ。せっかくの遊園地デートをあおいが気まずくて来づらいって言ったわけ、あおいの友人で新一の幼馴染としては知る権利くらいあると思うんだけど?」
1つ大きなため息を吐いた。
ポツリポツリと昨日の出来事を話始めた俺に対して、次第に蘭のコメカミに血管が浮き上がってきたのは気のせいだと願いたい。
「つまりこういうこと?」
…いや、間違いねぇな。
後で回し蹴りかかかと落とし喰らうかもしれねぇ。
俺今日生きて帰れっかな…。
「あおいのあまりの可愛さに自分を抑えられず思わず…キ、キス?しちゃったけど?その直後あおいに逃げられ、メールも電話も音信不通になってる、ってわけ?」
「…」
「バッカじゃないの?」
「返す言葉もございません」
ああ、俺はバカなんだろう。
それも大バカの部類なんだろう。
確かにホームズも女性関係は唯一の苦手分野だった。
でも俺はホームズの斜め上を行く自信がある。
「…ねぇ新一」
「あー?」
「結局新一は、あおいのことどう思ってるの?」
「え?」
歩きながら、いつかあおいと来たあの噴水が出る広場に辿り着いた。
噴水が出るまであと2分。
「どう、って、…オメーも知ってんじゃねぇか」
「新一の口から聞きたいの。今まで新一からはっきり聞いたこと、ないじゃない。あおいは、新一にとって、何?」
「何、って…」
なんで今蘭がこんな質問するのか、俺にはわかんねぇけど。
でも、きちんと答えないといけない。
それだけは感じた。
「厄介なヤツなんだよ!」
「…厄介?」
「アイツは、…俺の思考を狂わせる厄介な女なんだよ!アイツのこと考えてるといろんな感情がごちゃ混ぜになって正常な判断ができなくなる…!俺にこんな思いさせられるヤツなんかアイツしかいねぇよ!」
「それってあおいが好き、ってこと?」
「…………ああ、あおいが好きだ。…何回喧嘩して、どんなに避けられても俺には、アイツしかいねぇんだよ!」
サァァァァァァァァ
「それでこそ私の好きな新一だよ」
噴水が吹き上がる音で蘭の声が掻き消された。
「なんか言ったか?」
「ううん!…ここすっごいね!あ!上見てみて!今日天気良いから虹が出きてる!!」
「あー、ここ2時間おきに噴水が出る仕掛けになってんだと」
「へー!さてはあおい連れて来ようとしたな?」
「バーロォ。…去年もう来てんだよ」
「…そっか。仲直り、できるといいね」
「おー」
「それと告白もできるといいね」
「…ウルセェ」
それが出来れば苦労しねぇっての!
そもそも今日そのつもりでいたっつーのになんでオメーとトロピカルデートなんだよ!
「よし!」
「あ?」
「新一の気持ちも聞いたし!今日は私の都大会優勝のお祝いってことで、最後までつきあってもらうわよー!」
「…は!?オメー閉園までいる気かよ!?」
「何その言い方!あおいとだったら閉園までいたでしょ!?」
「いや、そうかもしれねーけど、俺昨日事件あって眠」
「文句言わないっ!ほら、あのジェットコースター乗るわよ!!」
「あ、おい!」
そう言った蘭がほんとは何を考えていたのかって。
俺が知るのはもう少し後のこと。
そう、蘭の本心を知る時。
それは俺が俺でなくなる時だなんて、この時は気づきもしなかった。
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bkm