キミのおこした奇跡side S


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心の距離


1つの決意


「わ、私帰る!!」
「あ、おい?ちょっ、待てよっ!!」
「工藤くん?もしもし?」


止める間もなくあっ!という間に部屋から出ていったあおい。


「もしもし!?もしもし工藤くん!?」
「…目暮警部、やっぱり今から行きます」


なんとも言えない感情をだけが残った俺はそのまま現場に行った。


to :あおい
sub :明日
本文:約束通り迎え行くから。待ってろよ。


「以上のことを踏まえ考えると、犯人はあなたしか考えられないんですよ!」


今日の事件はよくある愛情の縺れってヤツ。
犯人は妻の不倫相手に嫉妬した夫だった、と。
…この世から金と愛と嫉妬が消え去れば殺人事件なんてなくなるよな、マジで。


「いやぁ、いつもながら見事なもんだ!」
「いえいえ。お困りならいつでも呼んでください。この高校生探偵工藤新一を」
「ああ、また次も頼むぞ新一くん。おい高木!新一くんを送ってやれ!」
「あ、いいですよ。自力で帰れますから」
「いやいや、今日は遅いし送らせてもらうよ。高木!」
「はい警部。行こうか、工藤くん」
「すみません。では警部、失礼します」


高木刑事の車に乗る前に携帯を見る。
…やっぱ返事きてねぇし。
おいおい明日行かないとか言わねぇよな。


「今日もすごかったね!」
「え?あ、ああ、ありがとうございます」
「犯人はあなたしか考えられないんです!なんて僕も言ってみたいよ」
「ははっ」


言うのは自由だけどな。
はははっ、はぁ…。


「誰かと約束してるの?」
「へ!?」
「あ、いや、今日の工藤くんはなんだか元気ないように見えるし、そわそわ携帯を弄ってるから約束でもあったのかなぁ、と」


やべぇ、俺そんなに携帯弄ってたか?


「誰?彼女?」
「…って、わけでは、ないんですけどね」
「てわけではないって?彼女じゃないけど仲良い子、ってこと?」
「…まぁ。フツーに一緒に学校行って、一緒に帰ってきて夕飯食ってるくらいは仲良いと思います」
「…それ彼女じゃないの?」


だよなー…。
客観的に考えたら、俺もそう思う。
でも世間一般の常識が通用しねぇんだよ、あの女は!
世間的には恋人なことしてても実際はコレだもんなぁ…。


「高木刑事は」
「うん?」
「恋人います?」
「え?俺?…いないんだ、あははは、…はぁ」


そんな感じだよな。


「でもね工藤くん」
「はい?」
「僕は少なくとも君より長く生きていて、こう見えても恋人がいた時もあったんだよ?」
「…はぁ」
「事件の推理では役に立たないだろうけど、こういう悩みなら相談に乗ることができるけど?」


悩み?
これは悩みなのか?
悩みというより、勢いに任せて先走ってしまった自分の行動への少しの罪悪感。


「…高木刑事は、」
「うん」
「相手が受け入れてくれてると思ってした行為が実は自分の独りよがりで、相手を怒らせてしまったかもしれないと思ったらどうします?」
「え!?」


−目くらい閉じやがれ−


そう言って目を閉じたあおいを、俺は受け入れられたと解釈した。
でもあの時、あおいは受け入れたんじゃなく怖がっていたんだったら?
俺はとんでもないことをしでかしたんじゃないだろうか。
…なんて今さらながらに思う。


「ぷっ」
「…今笑いました?」
「あ、いやごめんごめん」


コイツ、何が相談にのるだよ。
笑いやがって!


「なんか安心したなー、と思って」
「は?」
「いやぁ、工藤くんは僕の目から見てもすごいからさ。普段どんな生活してるんだろうって思ってたけど、彼女のことで悩む普通の高校生と一緒だと思ったら安心したよ」
「…俺はフツーですよ」
「うん、そうだね」


フッと笑う高木刑事の横顔は人の良さがにじみ出てた。
この人とはロス行きの機内で初めて話してからの短いつきあいだけど、なぁんか刑事臭くねぇっていうか、ポロッと余計なことまで話してしまいそうな、話せるような、少し頼りねぇけど良い兄貴、って感じの人なんだよな…。


「さっきの話だけど」
「はい?」
「彼女を怒らせてしまったかもしれないのかい?」
「…怒らせたというか、まぁ…そうですね、きっと」
「君は自分が怒らせるような行為をした自覚はある?」
「まぁ…一応は」
「彼女の誤解を解きたいとほんとに望んでる?」
「それは、はい」
「ならそのまま言えばいい」
「…はい?」


は?
今のアドバイスか?


「自分が悪いと思っていて、彼女の誤解を解きたいなら素直にそう言えばいい」
「はぁ…」
「君は頭が良くて、たくさんの言葉を知っている。でも必要なことは言ってあげたかい?」
「必要なこと、ですか?」
「そう。その彼女に君が好きだって言ってあげたかい?」
「え…、」
「言わなくてもわかるなんて、男の浅はかな考えなんだよ。素直に今自分が思っていることを伝えたらいい。それが躊躇いなくできるのは若いうちだけだからね」


なんてオジサンくさかったかな?あはははー、と笑う高木刑事。
必要なことを素直に伝える、か。


「高木刑事」
「なんだい?」
「たまには良いこと言いますね」
「はっ、ははっ…」


そうだよなー…。
俺結局なんも学んでねぇや。
言葉に拘るわけじゃないけど、言葉が必要なときがあるってことも知ってるのに。


「ありがとうございました」
「参考になったかな?」
「はい、とても」


この人ははっきり言って現場では頼りにならない。
でも、こう言う人が懐のデカイ男ってヤツなのかもしれない。
必要な言葉、か…。
結局俺はクロバだなんだとあおいの周りばかり気にしすぎて、自分のこと、なんも言ってなかったんだ、とか。
良いように園子に踊らされてキスして(しかもちゃっかり舌まで入れた)何やってんだ、俺、とか。
してしまったことに対して後悔はしていない。
ただやっぱり、もっと他に先にしておくべきことはなかったのか?とか。
1人になってそういうことばかりが頭を駆け巡る。
…明日は良い機会なのかもしれない。
2人で遊園地って、さすがにあのバカでも嫌いなヤツとは行かねぇだろうし。
素直に、思っていることを伝える。
そう決めて眠りについたのは、もう夜明けはそこまで来ていたときのこと。

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bkm

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