キミのおこした奇跡side S


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心の距離


距離を越えた欲望


「新一くん!これなーんだ?」


放課後、今週は掃除当番で。
「く」と「す」で同じ班だったから園子に絡まれる絡まれる。
で、やっとそれも今日で終わり、って日。
今まで以上に気味悪ぃ顔で園子が近づいてきた。


「…友人として言う。その顔止めねぇと、オメーマジで一生1人だぞ」
「煩いわねっ!…それよりこれ見てこれ!!」


これ、と言って園子がつき出したのは一本のスティック。


「…なんだこれ?化粧品?」
「グロスよ、グロス!」
「…はあ。それがどうした?」
「この夏の新作グロスその名も『恋するクチビル』!!」
「…俺あおい待ってっから帰るわ」
「待ちなさいって!思わず口づけたくなるクチビル!ってのをキャッチコピーにしてんのよ!」
「…例えキャッチコピーがそうだとしても、オメーがつけてもなんもしねぇぞ」
「私だってあんたからされたかないわよっ!!これは私じゃなくてあおいよ、あおい!」
「はあ?」
「さっき貸してつけさせたの!今日も仲良くお勉強会なんでしょ?なっかなか進展できない新一くんのために私があおいにコレをつけさせたんだから、ここは既成事実でもなんでも作って彼女もどきのいる男からあおいを奪還するのよっ!!!」
「オメーさぁ、」
「なになに?」
「…自分が楽しみたいだけだろ?」
「トーゼン!戦況報告待ってるから!」


そう言って園子は賑やかに去っていった。
…なぁにが、思わず口づけたくなるクチビルだ。
ばっかじゃねぇの?
そう思いながらあおいと一緒に帰路についた。


「だーから、そこは3じゃねーって言ってんだろ!」
「あたっ!?」


博士作ビーカーラーメンを食べてから、俺が目暮警部に呼ばれない日はあおいの専属教師→夕飯がいい感じに定着していた。
夕飯はあおいの料理。
親子丼しか作れない俺は、また何か作れとか言われねぇか内心ハラハラしてたが、何も言われることなく、黙って出されるものを食べている日々が続いていた。


「そこ終わったら休憩な」
「わかった」


あおいが問題を解いている間に、コーヒーと紅茶を用意する。


−思わず口づけたくなるクチビル!−


…確かに今日のあおいはなんか良い匂いしてる。
あれグロスの匂いか?
別にいつもがさがさしてるわけじゃねーだろうけど(てゆうか特に気にかけてなかったせいもあるけど)今日はなんか艶々してて、…うん。


「んー?あれ?X=5あまり、」
「余りなんてでねーっての!」
「いたっ!?」
「ったく、何やってんだよ。えーっと…、ああ、ここだここ!オメーここ足し算間違ってんじゃねーか!」
「えっ!?」


いつも通りのあおい。
部屋にはさっき淹れたコーヒーと紅茶.
…それから微かに香る甘い匂い。


「うー…ん…、こ、れ、で、どうだ!………あ!X=4!当たってる!工藤くん、出来たよ!じゃあこれで休け」


カラン、て。
あおいが持ってたシャーペンが落ちる音がした。
何が気に食わねぇって、園子の策略にまんまと乗せられてるってことだ。
したらしたでニヤニヤニヤニヤしながら自分を誉めろと言ってくるだろうし、しなかったらしなかったでヘタレだなんだと言ってくるだろう。
どうせ同じ時間拘束されるのが目に見えてんなら、行動起こしてニヤニヤニヤニヤ見られる方を選ぶってもんだ。
なんてのは、後からの言い訳に過ぎず。
その時は考えるより先に行動していて。
やっぱ柔らけぇよなぁ、とか。
甘い匂いはやっぱりここだったか、とか。
軽く触れただけでも、十分脳を刺激した。
わずかに離れて目開けると、漆黒のデカイ目を見開いてるあおいと目が合った。
バーロォ、


「目くらい閉じやがれ」


こういう時はフツー目瞑るもんだろ。
そう思って言った言葉に反応して、目をキュッと閉じたあおい。
その姿を見て、一度だけのつもりだったハズが、そのまままた繰り返してしまった。
ただクチビルが触れ合うだけ。
それでも何度も何度も触れるクチビルは、脳を麻痺させるには十分だった。


「…く…ど、くん、」


無意識の出来心。
フイに開いた口に思わず自分の欲望を押し込める。
もっともっとと、あおいを感じたい欲求と、もっともっとと、俺を感じてもらいたい欲求が全てクチビルにいった。


「…っ…や…」


逃げようとする行為すら欲情させる。
そのまましばらく執拗にあおいを追い求めた。


ピリリリリピリリリリ


音の出どころは自分のポケットの中。
っち、誰だよ。


「げ、目暮警部」


おいおい、このタイミングで事件かよ。
そりゃねぇだろ、目暮警部!


「はい、工藤です」
「おー、工藤くん!目暮だ。いつも世話になってるね。それで今日も悪いんだが、またお願いできるかね?」
「今ですか?」


このタイミングであおい置いて現場に行くとか、さすがに俺でもあり得ない。


「今はちょっと…ぉわっ!?」


ドン!とあおいに突き飛ばされた。
かなり思いきり。


「工藤くん?どうしたんだね?」
「わ、私帰るっ!!」
「あ、おい!ちょっ、待てよっ!!」
「工藤くん?もしもし?」


止める間もなくあっ!という間に部屋から出ていったあおいの後ろ姿を呆然と見送った。

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bkm

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