■少しでも近づきたい
「どうだった?ちゃんと作れたわけ?」
翌日学校に行ったらあり得ない園子のにやけた顔に出迎えられた。
…めんどくせぇなぁ。
「フツーに作ったけど?」
「何がフツーに作ったけど?よ!私は新一くんを心配して聞いてんのに!」
NYから帰国後、園子に空き教室に引っ張り込まれて根掘り葉掘り喋らされた。
俺が話した見返りに、蘭すら俺に言わなかった情報。
あおいを女扱いしてる馬の骨について教えてくれた。
−そりゃー親友の恋は応援したいけど、ソイツ彼女もどきがいんのよ!?そんなヤツにあおい任せらんないでしょっ!そんな男からかっ拐いなさいよ!!−
全く持ってその通りだ。
そんな馬の骨に負けてられっか。
以来園子は前にも増して俺の応援をしてくれてるようだった。
ありがたいっちゃー、ありがたいんだけどな。
「なんなのよ、あんたたち2人して!」
「え?」
「さっきあおいも『フツーに美味しかったー』って言ってたのよ!」
「…いいことじゃねぇか」
「あんたねー、包丁?何ソレ?っていうレベルの腕前だった男が作った料理なんだから『すごい美味しい』くらい言わせなさいよ!」
「余計なお世話だ!」
いちいちウルセェ!
「でも普通に作れたみたいで良かった」
「…オメーにはつきあわせちまって悪かったな」
「「…」」
「…なんだよ?」
「し、新一くんが謝ったっ!」
「…オメーもう俺に話しかけんな」
俺だって悪いと思ったら謝るっての!
なんなんだよ!
チラッとあおいを見たら教科書開いて何かしていた。
「愛の篭った手料理に夢中になりすぎて数学の予習忘れちゃったみたいよー?」
「…園子」
「なにー?」
「俺以外の男の前でもその顔したらオメー一生彼氏できねぇぞ」
「うるさいわよっ!!」
にやけた顔の園子と苦笑いの蘭を尻目に、席についた。
昨日は親子丼もまぁ、うまくいったし?
何より目暮警部からもらった招待券のお誘いもうまくいった。
少しずつ、だ。
「えー、で、あるから、ここのxが、」
てゆうか来週マジで事件入んねぇこと祈っておかねぇとなー…。
いや…。
先に高木刑事にでもその日だけは例え事件があっても連絡しないでくれって言っておけばいいのか?
ケータイ切っておくと後々メンドーだし、そうするかなぁ…。
「芳賀!」
先生の声に、あおいの方を向くと黒板を見ているようで見ていない、心ここにあらずなあおいが見えた。
「芳賀!!」
「あだっ!?」
あのバカ…。
何やってんだよオメーは…。
「お前この間の中間ぎりぎりだったわりには随分と余裕じゃないか」
「別にそういうわけじゃ」
「次のテストもあの点数なら、」
アイツ中間やばかったのか…。
大丈夫そうなこと言ってたのに、アイツ見栄張ったな…。
キーンコーン カーンコーン
「じゃあお前は明日の授業までにこのページを」
あーあー、あのタコめがね陰険だから課題出されてやんの!
仕方ねぇーなぁ…。
「大丈夫か?」
あおいの席まで行って顔を覗き込む。
と、プイッと顔を背けられた。
…?なんだぁ?
「別に大丈夫」
「課題は?どこ出された?」
「だから別に大丈夫!」
明らかに機嫌が悪いあおい。
まぁ…、授業中にあれだけ個人攻撃されたら機嫌も悪くなるよな。
「オメーなぁ、大丈夫じゃねぇから聞いてんだろ?放課後見てやっから、どこ出されたんだよ?」
「…別に工藤くんに見てもらわなくていーし!」
「…はあ?」
「1人でやるからいーのっ!!」
「…そーかよ。じゃあ間に合わなくても知らねぇからな」
俺はオメーのためを思って言ってやったのに!
俺に当たるんじゃねーっての!!
「ねぇ、新一…」
「あー?」
「あおいケッコー課題出されたみたいだよ?」
「知らねぇよ、自分でやるって言ってんだしやらせりゃいーだろ!」
「でも…」
「俺は帰るからな!」
そう言って教室を出たものの、
−あおいケッコー課題出されたみたいだよ?−
出来なかったら、また倍課題出されんだろーなぁ、とか。
授業中に嫌味言われんだろーなぁ、とか。
そんなこと思ったらいつの間にかあおいを待つ方向になっていた。
「あっれ?工藤まだ帰んねーのか?」
「おー、ちょっとなぁ」
「ふぅん。…あ!お前米花町だよな?」
「あ?ああ、そうだけど?」
「米花公園の近くにできたラーメン屋、美味いってほんと?」
「へ?…いや、知らねぇけど」
「なんだよ、行ってねぇのかよ!美味い美味いってクラスのヤツが言うけどほんとに美味いのかって思ってさ!」
「…米花公園のどこ?」
「あー、公園の入り口の、」
サッカー部の元チームメイト情報。
ラーメンねぇ…。
まぁ腹減ってきたしちょうどいいかもな。
「工藤くん…」
「お、終わったか?」
うっわ、いつの間にか外真っ暗じゃねーか!
「んー…3時間、ね。まぁまぁじゃねーの、オメーにしては!」
「な、なんで!?」
「は?」
「何してるの!?」
「…あのなぁ、オメー1人じゃ解けなくて泣いて帰るのがオチだろ!だから待っててやったんだろーが!…まぁ、その必要もなかったみてぇだけど?」
この本あと少しで終わるんだけど、まぁ続きは帰ってから読むか…。
つーか俺が推理小説読んでる時に限ってあのバカ猫が頭の上に乗ってくんのどーにかしてほしーんだけど!
アイツにどうやったら俺が主人だって躾られんのかほんっと今の課題だ。
「何つっ立ってんだよ、帰るぞ?」
「え?あ、ああ、うん」
「しっかし腹減ったなー。…そういや米花公園近くに美味いラーメン屋出来たって知ってっか?」
「え?…ううん、知らない」
「食いに行かねぇ?」
「え…」
「オメーも頭使って腹減ってるだろ!」
て、いうか、俺が一緒にメシ食いたいだけなんだけど。
とは、言わねぇけど。
あおいを見ると目を泳がせて、少し悩んでいるような素振りを見せた。
「ほら!」
「え?」
「行くぞ!」
「あ、ちょっ、」
ぐいって、手を引いて歩き出す。
悩むってことは、嫌、ってわけじゃねーってことだし。
なら行くしかねぇだろ。
って、来たものの、
「定休日のようですが」
「…」
「評判の良い『美味いラーメン』は何処?」
「…」
「…なんか期待してた分お腹が余計に」
「わーったよ!ちょっと待ってろ!………あ、もしもし博士?今時間あるなら頼みがあんだけど?」
結局、米花公園近くのラーメン屋ではなく、いつものビーカーラーメンになった。
「工藤くんて博士の扱い酷いと思う」
「フツーだぜ、フツー!」
「そうかなぁ?お世話になってるんだしもっと、」
「いーんだって!ほら、食材買って帰るぞ!」
そう言ってもう1度ぐいってあおいの手を引いて歩き出す。
体が小さいから、あおいは手も小さい。
その小さい手が俺の手の中で微かに握り返してきたのを感じた。
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bkm