キミのおこした奇跡side S


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心の距離


お誘い


「え?今日?」
「そー。暇?」
「暇、だけ、ど…?」
「…今日、さ」
「うん?」
「その、なん、つーか、ほら、オメーに作ってもらってばっかだからたまには俺がなんか作ろーか、って」
「工藤くんがっ!!?」
「…驚きすぎだ、バーロォ」
「ご、ごめんにゃひゃい…」


6月も終わりに差し掛かった頃。
1人で作っても、なんとか自分でも納得できる出来にまでなった親子丼。
なら、食ってもらうしかねぇよなぁ?って、あおいを誘ったものの、コイツあり得ねぇって顔して俺を見てきた。
失礼なヤツだ。


「料理っていうのは切ったり煮たり焼いたりしないとなんですよ」
「…オメーの中の俺の評価はよくわかった」


俺だって切ったり煮たり焼いたりくらいするっての!
どんだけ料理が出来ねぇと思ってんだコイツ…。
いや確かに親子丼以外は出来ねぇけど。


「帰りスーパー寄ってくけどいいか?」
「うん、いいよ」


えー、っと。
玉ねぎ、は、使いかけがあるけどアレだけじゃ足りねぇかもだよな…。
鶏肉は、と


「今日親子丼?」
「えっ!?」
「え?違う?」
「あ、いや親子丼、親子丼」
「やっぱり」
「よくわかったな」
「こう見えても家庭科部だったんですー。買う食材見たら大体わかりますー」
「そーですかー」


フンッと口を尖らせたあおいをチラッと見てレジに向かった。
…そういやアイツなんで部活入らなかったんだろ。
なんかテキトーに返されて結局理由聞いてなかったよな…。


「あおいオメーさぁ、」
「うん?」
「なーんで部活入らなかったんだ?」
「え?」
「弓道も、家庭科部も、どっちもあったのに2つとも辞めただろ?」
「…ああ。部活してると、時間が、もったいないから」
「は?もったいないって?」
「…そうだ!私、バイクの免許取ったんだよ!」
「あー、それ聞いた!博士に保証人頼んだ、って!」
「うん!保護者の許可があれば400cc以上のバイクの免許も取得できるって教えてもらったから!」
「誰に?」
「有希子さん!」


また余計なことを…。


「あのなぁ、あおい。バイクってのは危ねぇんだぞ?下手したら事故って死」
「大丈夫!私教官に褒められたから!」
「ほんとかよ…、おっかねぇなぁ」
「…別に工藤くん乗せないからいいじゃん!」
「乗らねぇよ!まだ死にたくねぇし」
「乗せないもん!!」


プイッと俺に背を向けるあおい。
…違う。
こういうことを言いたいんじゃない。
今日誘ったのは、メシを食うってのともう1つ。
目暮警部からもらった無料券でデートしねぇか、っていうお誘い。
考えてみたらスーパー行ったり、ロスで散歩したりとか。
そういうのはあったけど2人きりで「デート」ってのはねぇし。
良い機会だ。
って、思ってんのに、何怒らせてんだ俺…。
なんとかしねぇとだよな…。


「じゃー、作り始めるからオメーは座って待ってろ」


なんて思いつつうちに帰って来たら、イチとじゃれてすっかりあおいの機嫌は直ったみたいだった。
今のうちに親子丼作るか。


「て、手伝おうか?」
「いーから座って待ってろ!」


目の端で小せぇのがチョロチョロされる方が気になって危ねぇっての!!


「ね、ねぇ工藤くん」
「いっ!?」
「え!?切ったの!?」
「…や、大丈夫。ほんとに作れるからオメーは座ってろって!」


血が出たわけじゃねーし。
このくらいなら許容範囲内だ、許容範囲内。


「く、工藤くん…」
「あー?」
「もういっそ肉も野菜も切らずに丸ごと入れていいよ…」
「座って待ってろ!」


確かに俺も料理できねぇけど、オメーにだけは心配されたくねぇよっ!!
…いや、ここでコレを言うとまた厄介なことになるから黙って親子丼に専念だ。


「おっ、またせー」


指も切ったが、まぁ、我ながら良い出来だと思う。
見た目は美味そうな親子丼だ。


「ほんとに見た目親子丼だね…」
「だから親子丼だって言っただろ!…嫌なら食うな」
「食べる食べる!いただきます」


ぱくり。
あおいが一口親子丼を口に運ぶ。
…思いのほか緊張するもんだな。


「どうだ?」
「うん、フツーに美味しい」
「そっか。まだあるからおかわりもできるからな」
「や、そんなに食べないって」


そう言いながら笑うあおい。
良かった、マジで。
料理1つ作るのがこんなに緊張して、こんなに大変だとは思いもしなかった…!
でもまぁ、第1段階クリアだな。


「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」


作ってもらったし片付けは私がするって、あおいがキッチンに行った。
どこのジィさんだ、って感じだけど、俺が作ったメシ食って、その後片付けをあおいがして。
あー、なんかこういうのもいいなぁ、って。
出されたコーヒーを飲みながら思った。


「そーいやさー、」


あおいの片付けも終わってマンションまで送っていく途中、今日の本題を切り出した。


「目暮警部からテーマパークの無料招待券もらったんだけど行くか?」
「え?」
「工藤くんには最近世話になってるからな。高校生ならこういうところに興味あるんじゃないかと思って、って、招待券2枚。行かねぇ?」
「…でも工藤くん最近警察に呼び出されてて忙しいって聞いたけど…」
「べっつに毎週事件があるわけじゃねーし大丈夫だって!…どうする?」


ああ、何気に今日1番緊張してるかもしれねぇ、って。
そう思ってた時だった。


「蘭は?」
「へ?」
「蘭」


蘭?
なんで蘭?


「部活じゃね?関東大会ももうすぐだし。声かけてねぇからわかんねぇけど」
「そうなの!?」
「あ?ああ。誘ってねぇけど?」
「…そう、なんだ」


日も暮れて随分経つし。
街頭があるって言っても薄暗いし、何よりあおいはチビで俯いてるからよく見えねぇけど。
でも。
声が、嬉しそうにしてる、…気がした。
…俺の希望的観測がふんだんに入ってるけど。


「いいよ、行こう」
「お、じゃーさ、今週、は、ちょっと予定あるから、来週末は?」
「うん、いいよ」


その後は別に興味ねぇだろうなぁって思いつつも、俺が解決した事件の話をし始めたら、


「うんうん、それでそれで?」
「それで俺はその秘書が犯人だ、ってわかったわけ」
「そっかー!すごいね、工藤くん!」


目きらっきらさせて聞いてくるから、俺も調子に乗ってマンションに着くまでずーっと事件の話をしていた。

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bkm

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